第24話 惜別編(一)誤嚥
母親の認知症はアルツハイマー型の認知症で進行が早く、歩行が段々困難になっていった。
ケアマネージャーは、
デイサービスに行けなくなった母親は、ほとんどの時間をベッドの上で過ごすようになった。おむつは寝ながら交換できるテープ式おむつに変えて、朝夕にヘルパーがおむつを替えに来る。その他に訪問看護を週二回、主治医による訪問診療を月二回、訪問入浴を週一回利用した。
寝たきり状態になると運動が出来なくなるため、筋肉が急激に弱まっていく。手足は徐々に硬直していき、しまいにはまったく動けなくなってしまった。食事は弁当屋に弁当を配達してもらった。当初は普通の弁当であったが飲み込む力が低下していくため、普通の弁当がムース状の弁当に、ムース状の弁当がとろみ弁当に代わっていった。
水分摂取は
主治医から処方してもらったバニラ味の栄養飲料にとろみをつけ、スプーンで母親の口のなかに入れると丸い目を大きく見開いて、「おいちい、おいちい」と言いながら飲み込んでいた。栄養飲料がなくなっても、「もっとほしい」と言わんばかりに、目を大きく見開いたまま口を開け続けている。達也は、赤ん坊がおねだりするような母親の眼差しが、いとおしく思えた。このまま元気な状態が続けばいいと思っていたのだが、そのような日は長くは続かなかった。日がたつにつれ、とろみをつけた水分でも咳きこんで飲みこめなくなるのである。口のなかに入れては吸引し、口のなかに入れては吸引する。その回数も段々と多くなっていった。
母親が寝込むようになってから二年ほどたった頃、達也が
―もうだめだな―
そう思った達也は、訪問看護センターに連絡して主治医を呼んでもらった。診察中であったにもかかわらず、主治医はすぐに駆けつけて来た。聴診器で肺の音を聞くと、主治医はすぐに救急車を呼ぶように言った。ほとんどの病院は高齢の認知症患者を受け入れようとしないため、主治医が週一で勤務している救急病院を紹介してくれた。
誤嚥性肺炎でその病院に救急搬送するのは今回で二回目であったが、母親はもうこのアパートには戻って来ないだろうと、達也は予感していた。
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