第2話

 春の次には夏が来て、秋が終われば冬が来る。

 生まれた季節の名前をつけられた私たちなのに。

 私とハルの日々は、季節が変わりゆくことさえ気づかないほどで。お互いの誕生日を祝う暇すらなく、目まぐるし過ぎていくものになった。

 ハルはバレエスクールに加え、新たなレッスンに通い始めた。それは歌劇団と経営母体を同じくする、歌劇団研究所に進むためのオーディション特化型スクールだった。

 ジャンルを超えたダンス、声楽。演技指導。

 ハルが教えてくれたレッスンの内容もスケジュールも、それは厳しいもので。

 ナツもおいでよ、と誘われたけれど。私はバレエのレッスンを、週に三日から五日に増やすだけで精一杯だった。

 それは当時の私が耐えられる限界でもあれば、両親の限界でもあって。

 ハルの家は、子どもにかけるお金と期待を惜しまなかったし。ハルには投資をするだけの価値があった。

 伸びていく才能、磨かれていく技術。

 ハルはかけられたものに対して見合うだけのものを、家族や指導者たちに返していた。

 体と心を追い込むような努力をして。

 私だって、通い続けるバレエへの情熱は負けていなかったと思う。桜姫にしても、歌劇団の大半の演目にしても、舞踏は作品の要であり魅力だ。

 一芸を磨き抜いて、なんてのは言い訳だったかもしれないけど。

 私にはそれだけしかないと思ったから。

 だけどそれだけでは、歌劇団の舞台には到底立てないのだ。


「背、今年もあんまり伸びなかったな」

 桜吹雪に吹かれながら、ハルは三本目の印を刻みつけた。

 スケジュールの違う私たちは、以前より一緒にいられる時間が減った。それでも桜に身長を刻むこの季節だけは、二人揃って迎える。

「私も全然伸びてないかも」

 ほとんど変わらない背を比べ合う私たちが百五十五センチを超えるには、まだ十センチは足りない。

「もう中学生になるのに。身長なんて、自分じゃどうしようもないことで不利になるのは嫌だな」

 ハルが顔を曇らせる。

 自分でどうにかなること――それが親からお金と手間をかけてもらうのでも――は、最大限に努力をしているハルだ。

 費やせるものは、ひたすらに費やしているハル。

 背が伸びないのは、踏み台にしているものが少ないからだと誰かに言われたら、私は納得するしかないだろう。

 だけどハルは、友達との遊びとか、放課後の寄り道とか、のんびり過ごす休日とか。そういうものをたくさん踏みつけて、高いところに手を伸ばそうとしているのだから。背だってなんだって、神様は望み通りにしてあげればいいのに。

「ハルは本当にすごいね」

 心の底からそう口にすれば、ハルは瞬いた。

 なにを他人ごとみたいに、とでも言いたそうな表情だったから。

 私には真似できないや、という言葉は、そのまま飲み込んだ。

 




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