第7話 舞い上がるオタク。
コラボカフェという名の通り、店内は「とあレコ」の装飾やグッズで溢れていた。
「おい、アレって光莉ちゃんのフィギュアじゃね? 発売前なのにもう飾ってあるんだな……もうちょっと小さい方が好みだけど、めちゃくちゃ造りいいな……!」
メニューになど目もくれず、店の壁に飾られた「とあレコ」のヒロインのフィギュアに釘付けの綿貫さん。
彼女がオタクであることはもう知っていたし、寝落ち通話の時にその熱量の度合いも把握していたつもりだった。
でも、こうして目の当たりにすると――ああ、彼女も俺と同じオタクだったんだな――って、安心してしまう自分がいた。
「写真撮ってもいいのかな? いや、他の人も撮りたいだろーし、流石に迷惑か……」
「後で店員さんに確認してみればいいよ。SNSに上げてる人も多いし、ダメとは言われないと思うよ?」
「そっか。そーだよな」
構えようとしていたスマホをテーブルに置き、綿貫さんはわざとらしく咳払いをする。
「すまん。ちょっと舞い上がっちまってた」
「謝らないでよ。俺だってめちゃくちゃテンション上がってるし、しょうがないって」
「でも、クラスメートの前でこういうの見られると、恥ずかしいだろ……」
「それはそうかもしれないけど……ほら、俺もオタクだから。オタクはオタクが楽しんでいるのを見ると嬉しくなっちゃう生き物だからさ」
「……なんか、ちょっと分かる気がするわ」
「でしょ? だから普通だって、こういうの。他のお客さんもあんな感じだし」
そう言って、俺はすぐ隣のお客さんを見るように綿貫さんを促してみる。
『きゃあああああああ! あれって刀祢くんと翔琉くんのフィギュアじゃない!? 二人一緒だなんてマジ推せる。とう×かけはここにあったんだ……!』
『は??? とう×かけじゃなくてかけ×とうなんですけど?????』
『は? はー? はーっ!? なにも分かって無くない? は? 意味わかんないんだけど。とう×かけこそが公式なんですけど!?』
『ふ、二人とも落ち着いて……というか、公式で言うなら、刀祢くんと光莉ちゃんの組み合わせこそが正式カプだから……主人公とヒロインだし……』
『『それ公式が勝手に言ってるだけだよね??????????』』
「……ね?」
「いや、ああはなりたくねーなって覚悟を新たにしちゃったが」
「あはは……過激派中の過激派だからね……」
しまった。まさかあそこまで熱意のある人たちだとは。しかもカプ論争とかいう結託のつかない無意味なバトルを繰り広げていたし。巻き込まれないよう、とりあえずこの店を出るまではあっちを見ないようにしなくては。
「と、とりあえず、まずは料理を選ぼうよ。店内を楽しむのはその後でも良さそうだし」
「だな。お腹空いてるし、割とガッツリしたのでもいける――って……」
メニュー表のページをめくる綿貫さんの手がピタリと止まった。
「どうしたの?」
「お、おい唯野。これ……」
震える指で綿貫さんが示すページを、対面から覗き込む。
そこには、派手な文字でこう書かれていた。
『本店限定ビッグパフェ 限定缶バッジ付き 1500円(税込) ※缶バッジのキャラクターは全7種類。中身はすべてランダムです』
「…………」
「…………」
メニューから視線を外し、互いに見合う俺と綿貫さん。
「おい、唯野。今日はの軍資金はいくら持ってきてる?」
「奮発して一万円持ってきてるよ」
「私もそれぐらいだ。……狙いは?」
「ヒロインの光莉ちゃん……だけど、とあレコ推しとして、全種類揃えたいかな」
「私は刀祢くんだが、同じくコンプリートを目指してー」
「……まさか、ここでやるのかい?」
「ああ。こんな千載一遇のチャンスを逃すわけにはいかねーよ」
フッ……とハードボイルドに笑い合いながら、俺たちは店員を呼ぶ。
機械片手に注文を待機する店員さんに向かって、俺たちは百戦錬磨の兵士の如き顔つきで――勢い良く言い放った。
「「ビッグパフェを1つずつ!!!!!!!」」
狙いはコンプリート。
俺と綿貫さんによる、地獄のような戦いが幕を開けた。
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