第3話 ギャルと寝落ち(できない)通話
同じクラスの強面ギャルと、オタク仲間になりました☆
「人生、何が起きるか分からないなあ」
ベッドの上でスマホをぼけーっと眺めながら、俺は今日一日の出来事をしみじみと思い返していた。
いつもの日常だったはずなのに、急に非日常がやってきた、そんな気分。現実だとまだ信じ切れていないところもある。……そうだ、これは多分夢だ。俺みたいな孤高のボッチオタクが、同じクラスの美少女と仲良くなるなんて、そんなことが現実であるはずがないアハハー!
Prrrrrrrr!!!!
「ひょわ――あだっ!?」
無音の空間にいきなりけたたましい着信音が鳴り響き、びっくりした俺の手から顔面に向かってスマホが落下する。
鼻の骨が折れていないことを手で確認しつつ、スマホの画面をチェック。
【綿貫さん】
先ほど否定した現実が、己の存在を全力で主張していた。
これは出るべきか、それとも無視するべきか。なんかすぐに電話に出たらずっと待ち侘びてたみたいで恥ずかしくないか?
そんなことをぐるぐる考えていたら、着信音が鳴り止んだ。
「……ふぅ」
ま、切れちゃったものはしょうがないよな。こっちからかけなおすようなものでもなさそうだし、ここは何も見なかったことにしてレッツ睡眠――
ブーブーブー!!!
着信音の次は、スマホが激しく振動し始めた。
恐る恐る画面を確認すると、そこには一件のメッセージ通知が。
『電話出ろ』
光よりも早く電話を折り返した。
「はいすいません唯野ですごめんなさい!」
『おい、なんで電話無視した』
「いや、ちょっと心の準備ができていなかったというか、現実だと認識するのに時間がかかってしまったというか……」
『はぁ?』
「こっちの話ですごめんなさい」
長文で言い訳するとか我ながらあまりにもキモオタ過ぎる。
「それで、えっと、何用で……?」
『あー……まぁ、大したことじゃねーんだけど……唯野、今、ヒマか?』
「まぁ、ヒマではあるけど……」
『そっか。ヒマか。うん、ヒマなら大丈夫か……』
なんとも煮え切らない様子の綿貫さん。本当に何の用なんだろうか。やっぱりお前をシメることにした、と言い出すタイミングでも見計らっているのか?
無数の不安が頭をよぎる中、綿貫さんはついに次の言葉を発した。
『「とあレコ」の新刊読んだから、ちょっと話したいんだけど……お前、もう読み終わってるか?』
……ゑ?
「え、ちょっと待って、ちょっと待ってください」
『なんだよ』
「もしかして、感想を語り合いたいってだけで、電話してきたの……?」
『……悪いかよ』
なんだこの可愛い生き物。電話の向こうで顔を赤くしている姿が目に浮かぶようでございます。
『なに黙ってんだよ』
「いや、はは……なんか、ちょっと親近感湧いたかな」
『意味わかんねーこと言ってんなよ。で、どうなんだよ。お前ももう読み終わったのか?』
「うん、当然。読むのは早い方だから」
『そうか! じゃあネタバレは気にしなくていいな! 語りたいことが山ほどあるんだよ』
「あはは。もう夜遅いから、程々にお願いします」
多分、今日はほとんど寝られないんだろうな。
オタク特有の熱弁をスマホ越しに聞きながら、俺は完徹の覚悟を決めるのだった。
★★★
そして翌日。
俺は教室の自分の席で崩れ落ちていた。
「ね、ねむい……」
あれから、綿貫さんはずっと「とあレコ」について語り続けた。今までオタク仲間が周りにいなかったせいか、俺もそれに応えるかのように熱弁した。
語って、語られて、意気投合して――そして気づけば、日が昇っていた。
「今日、小テストとかなくて本当によかった……」
睡眠不足故、頭が一ミリも働かない。多分目を瞑るだけで夢の世界に行けることだろう。今の俺は寝落ち一歩手前。目の下には巨大なクマができているに違いない。
我慢することなく、大きな欠伸をこぼす――と。
「…………」
目の下を真っ黒に染めた綿貫さんが現れた!
綿貫さんは机の上に鞄を放ると、乱暴に椅子に腰を下ろし、それはもう大きなため息を吐いた。
挨拶をしようか少し悩む。だって、俺たちの関係はあくまでもプライベート。学校という空間でそれが適応されるとは限らない。
さてさて、どうしたものか。寝ぼけ眼で必死に考えていると、綿貫さんが俺の頭にいきなり手刀を落としてきた。
「あだっ」
「なに無視してんだよ」
「い、いや、だって学校でほとんど話したことないし……」
「昨日さんざん話したろ。なに言ってんだ」
「学校じゃなかったし……そもそも、オタクを隠してるなら、俺と話さない方がいいんじゃない?」
「はぁ? なに言ってんだよ」
綿貫さんは呆れたように肩をすくめる。
「クラスメートと話すのに理由なんているのかよ」
一瞬。
思考に空白が生じた。
クラスメートと話すのに理由なんていらない。
確かに、その通りだ。俺はいろいろと言い訳を探していたけど、そもそもそれが間違いだったのかもしれない。
綿貫さんを見て、一度深呼吸。寝ぼけ眼を擦って、カラカラの唇を舌で舐める。
「お、おひゃよぉ、綿貫しゃん……」
「……ぷっ。あはははは! 噛みすぎだろ、なんだよそれ!」
直後。
情けなさに耐え切れなかった俺は、机に突っ伏すのだった。
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