四人目『明るくて傍若無人なギャル』

前編『阿佐美屋サキの場合』

「若さというものは、それだけで人を魅力的に見せるもの」


 天使の笑みを浮かべ『ミス・ミスティ』はそう告げた。どういうわけだか、今日はセーラー服を着ている。もちろん女子高生という歳ではない。だが不思議と妙に色っぽかった……現役の女子高生以上に艶めかしくみえるのはなぜだろう?


「時に無鉄砲、時に傍若無人、時に天衣無縫、若いってそれだけで無敵な感じがしてくるものよね」


 そのミスティさんはポケットから銀色のヨーヨーを取り出してそう言った。なんかどこかで見たような光景だ。ちょっと思い出せないんだけど……

 それからゆっくりとヨーヨーを垂らし、クッと糸を引いて巻き上げて、パシッとつかむ。しゃべりながら、慣れた手つきでそれを繰り返している。なんだかヨーヨーが凶器のように見えてくる。


「でもね、ここで厄介なものが加わるのよ。分かる?」

 それから唇の端をニッと上げて不敵なほほえみを浮かべた。


「いえ、ちょっと」

「それは自己顕示欲。自分を目立たせるため、奇抜な行動に出てしまう。分かるでしょ?派手すぎる化粧とか、変にはしゃいでみたり、ワルを気取ってみたり」


 ああ、それはなんか分かる気がする。

 なんとなく自分にも思い当たるふしがある。

 まぁクラスでも目立たないタイプではあったけれど、それなりに。


「今回は特に気を付けなさい。若い女性はなにかと難しいからっ……えいッ!」


 ミスティさんはいきなり、わたしに向かってヨーヨーを投げつける。が、もちろんそれにはちゃんと糸がついている。ヨーヨーは鼻先でピタリと止まり、クッと戻されたヨーヨーがミスティさんの手の中にパシッと吸い込まれ……なかった! 取り損ねたヨーヨーはそのままミスティさんの胸、赤いリボンにバシッと当たった。


「痛ったぁぁぁいっ!なによ、昔はちゃんとできたのにぃ!」


 あ。やっぱりそうなった。まぁ顔に当たらなくてよかったけど。


「もう少し練習した方がいいかもしれませんね」

「おっかしいなぁ……昔得意だったのに」


 それにしても……今回の相手『阿佐美屋サキ』さんはいわゆるらしい。

 子供ではないけど大人でもない、一番厄介な年ごろだ。


「分かっていると思うけど、相手は未成年だということを忘れずにね」

「分かってますよ、仕事なんですから」


 とは言ったものの、そもそもコミュケーションをとれる自信がない。歳の近い人間が周りにいないせいか、女子生徒というだけでもつい身構えてしまう。それでなくとも最近の若い人の考えていることなんてさっぱり理解できないのに。


 かくしてわたしは憂鬱をずるずると引きずりながら、今日も顧客のもとに足を運ぶのだった。

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