その六〇 花のある食卓

 ナスタチュームの花が咲きはじめた。

 ナスタチュームの花は大きくて、見栄えが良い上に、代表的な食用花。葉と同様の独特な辛みが味にアクセントをつけてくれる。

 もともと、ナスタチュームは葉も、花も、そのまま食べられるサラダハーブなので用途も豊富。葉っぱを摘んで、シソやパセリ、ローズマリーにレモンバームなど、その他様々なハーブと混ぜあわせ、適当にちぎって皿に盛りつければキャベツやレタスとは一風ちがったハーブサラダの出来上がり。

 メインの皿に盛りつけて付け合わせ。

 チーズを載せてタンパク質も補給できるパワーサラダ。

 豆腐の上に載せてオリーブオイルとレモン汁を振りかけ、さらに、岩塩をミルでガリガリやって振りかければ、栄養豊富なイタリアンやっこ……と、実に様々。

 もちろん、サラダとして食べるだけではない。味噌汁やスープの具にしてもいいし、卵に混ぜ込んだハーブオムレツというのも乙なもの。ギョウザやハンバーグのタネに仕込んでみるのも一興。葉っぱだけでもとにかく、いろいろに楽しめる。

 そして、そこに花が加わる。

 オレンジや黄色の花が一輪、二輪。皿の上にあるとそれだけで食卓が華やかになる。気分も華やいでくる。

 料理に使うだけではない。朝、見回りついでに花を見つけたら、ちょっとつまんで口に放り込む。咲いている花を気ままに食べるというのも良いものだ。

 ナスタチュームの花がその辺のスーパーで売られていることなどまずないので、これはまさに、自分で育てている人間だけの特権。

 実際、『いままで野菜を育てたことはないけど、ちょっと試してみたい』という人には、ナスタチュームは絶対のお勧め。

 初心者に勧められがちなコマツナやホウレンソウとちがい、春から冬までずっと収穫できるので、春に一度、種まきすれば長い間、楽しめる。そのまま食べられるサラダハーブなので調理の手間もいらない。

 ナスタチュームの種は皮が厚くて固いので、蒔く前に一晩、水につけておく必要があるが、それさえすれば発芽率も悪くはない。一度、芽吹けば旺盛に育つ。脇芽もどんどん伸ばすので、たちまちこんもりした株姿となる。大きく育てば、それだけでちょっとした森のよう。そうなれば、収穫し放題。花もいっぱい咲くので見た目でも楽しめる。

 とくに、女子力をアピールしたいという妙齢女子にはお勧め。小さな鉢で育てておいて、ちょっとした手料理に花を一輪、二輪添えて出せば、一気に好感度があがることまちがいなし。お手軽に『料理上手』、『気配り上手』を演出できる。

 ただ、注意点としては茎ごと収穫しないこと。茎ごと収穫してしまうと、どんどん脇芽が伸びて茎の本数が増えすぎてしまうので、葉が小さくなる。なにより、茎の先端に咲く花を収穫できなくなってしまう。

 そこで、大きくなった下葉から順次、収穫していくのがお勧め。そうすれば、適度な本数の茎が伸びつづけるので、大きくてしっかりした葉を収穫できる。花もどんどん咲いて、気分と食卓を華やかなものにしてくれる。

 まあ、独特の辛みがあるので苦手な人は苦手だろうが、『辛いのは大丈夫!』という人は、ぜひとも試してほしい。ところで――。

 本来、植物が辛みを蓄えるのは虫除けのはずなのだが、ナスタチュームには虫もそれなりにつく。その代表がハモグリバエ。気がつくとハモグリバエの幼虫が葉のなかに潜んで食い荒らし、白い筋ばかりになっている……などということも。

 べつに、そのまま食べてしまっても害はないと思うのだがやはり、まちがって虫を食べるというのは、あまり気分の良いものではない。食べる際には充分にご注意を。

 また、小さなイモムシもつくのだが……どうも、このイモムシ、葉よりも花の方がお好みらしい。葉よりも花についているのをよく見かける。

 イモムシもやはり、美しい花を愛でると言うことか。

 粋だ。


 まあ、見つけたらすぐに潰すんだけどね。

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