その五八 連れて行こうか、アスパラ天国

 春の日差しのベランダ

 芽吹く姿に釘付け

 一日ごとに伸びていき

 緑が広がる

 見た目なんてどうでも

 味が良ければ最高

 形のそろった売り物も出る幕がないよ

 菜園は芽吹きと生命を連れてレビューを見せに来る

 生命の息吹に浸れば地球はしばらくとまってる

 きらめく鈴みたいな小花

 ハイな気分にさせるよ

 連れて行こうか、これから

 アスパラ天国へ


 と言うわけで、今回はアスパラガス。

 今年はアスパラガスの出来が良い。種から育てて、すでに数年。アスパラガスの寿命は一〇年程度だと言うから、いよいよ全盛期に入ったのかも知れない。

 とは言え、アスパラガスというものはもともと何本もまとめて芽吹く、というものではない。毎日、少しずつ芽吹くものだ。と言うわけで、いくら出来が良いと言っても食卓の主役にできるほどの本数が一日のうちに収穫できるわけではない。

 が、逆に言えば、毎日二~三本は収穫できると言うこと。メインの付け合わせには充分だし、採れたての本物野菜は調理などせずにそのまま食べるのが一番おいしい。よって、

 これでいいのだ!

 と言うわけで最近は、毎日のようにアスパラガスを堪能している。朝のうちに根元からはさみで切り取って、保存袋に入れて冷蔵庫の野菜室へ。天然ものなので細いのも、太いのもある。細いものは本当に紐のように細いのだが、太いものはちゃんとスーパーで見かける市販品と同等のレベルである。

 夕食の際に取り出し、タジン鍋に放り込んでレンジでさっと蒸す。一緒にわさわさ生えているハコベを蒸すこともある。そして、他の野菜と一緒にメインの皿の付け合わせの座へ。エゴマ油とレモン汁、それに岩塩をミルで砕いて振りかける。食すとレモンの酸味の奥から、柔らかい食感と野菜ならではの自然な甘味が口のなかいっぱいに広がる。

 そのうまさよ。

 まさに、『歩いて一歩』の距離にある産地から届く、究極の地場野菜ならではのおいしさ。この味わいを毎日のように堪能できる。これこそ、ベランダ菜園ならではの楽しみ。

 そして、幸せである。


 ただし、問題がひとつ。

 最近、急に気温があがったせいか、薹立ちが早い。さほど伸びていないので『まだ大丈夫だろう』と思って収穫せずにいると、次の日にはもう茎葉を伸ばしはじめている。そのたびに、

 「惜しいことをした!」

 と、思うのだが、伸びてしまったものは仕方がない。

 それに、これはこれでひとつの栽培法。通常、アスパラガスというものは六月までは芽吹いたものをすべて収穫し、七月からは茎葉を伸ばして栄養を蓄えさせ、来年の収穫に備える……という栽培法である。

 しかし、これ、せまいベランダ菜園では効率が悪い。春の二ヶ月程度の収穫期のために一年中、限りあるプランターを占拠されてしまうのだから。

 そこで、もうひとつの栽培法。

 春のうちから茎葉を伸ばして栄養を作らせつつ、長期に渡って収穫する、である。

 つまり、芽吹いたもののうち一定数はそのまま茎葉を伸ばして光合成を行わせ、残りを収穫すると言うことである。栄養の補充と収穫を同時に行うので『六月を境に栄養の補充に切り替え』の必要がなく、長期に渡って収穫できる。

 この栽培法、最近ではプロ農家の間でも流行りつつあるらしい。プロ農家だからこそ、少しでも収穫量を増やしたいと望むのは当たり前。通常なら六月いっぱいの収穫で終わるところが八月、九月まで収穫できる……と言うことになれば、収穫量は激増。その分、収入も増えるのだから長期採りに挑戦するのは理の当然。

 さて、我が家のアスパラガス。今年はいつまで収穫できるだろう。願わくば一日でも長く、このおいしさを味わいたいものである。


 あ、ちなみに『鈴のような小花』とは、アスパラガスの花。

 アスパラガスというのものは、ベル型の細かい花を無数に――本当に数えきれないほど――茎葉の間につけるのである。

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