その四五 トマトの実がついた

 トマトの実がついた。

 ……長かった。

 我が家のベランダ菜園のトマトが、夏場となるとまったく実をつけなくなってしまってからすでに数年。気温があがり、茎葉が生長し、次々と花を咲かせるその時期にまったく実をつけることなくすべての花が散ってしまう。

 悲しい。

 見ていて、切ない。

 本来ならば最盛期である夏場に実がつかなくなると言うことは、ほとんど収穫が得られなくなると言うこと。これでは、効率が悪すぎる。限りあるプランターを実をつけないトマトがずっと占拠してしまうわけで、せまいベランダ菜園ではこれは致命的だ。

 そこで今年はもう、通常の春蒔き夏採りはあきらめた。

 夏に蒔き、秋冬採りを狙おう。

 そう決めた。それなら、トマトの苗を植える前に他の夏野菜を育てられるから効率がずっと良い。が……。

 実はここですでに失敗をしてしまった。

 トマトは春に種を蒔くと発芽するまで一ヶ月ほどかかる。

 本当にそれぐらいかかるのだ。種を蒔いたあと、忘れた頃にひょろっと芽を出している。それがトマトだ。だから、夏場に蒔いても同じだろうと思い、一ヶ月後の発芽を見越して六月後半に種を蒔いた。ところが――。

 数日で芽を出してしまった。

 トマトも気温の高い夏場だと簡単に発芽するのだなあ、と、学んだ一件だった。

 まあ、とにかく、トマトは無事に発芽しグングン育った。やはり、気温が高いだけに育ちが良い。だが、良すぎた。順調に成長をつづけたトマトはよりによって夏真っ盛りの八月に花を咲かせてしまった。

 この花は予想通りに全滅。八月に咲いた何十という花がひとつ残らず実をつけることなく散ってしまった。この事態を避けるために夏蒔きにすることにしたというのに……。

 そして、九月になっても実をつけず、一〇月になったいまようやく、小さな実をつけはじめた。トマトは一度ついた実が途中で落ちることはまずないから、これらの実はちゃんと育ってくれるだろう。

 問題はトマトの木そのものが耐えられるかどうかだ。

 いくら温暖化と言っても冬は寒い。その寒い冬に向かってこれからどんどん気温はさがる。本来、熱帯植物であるトマトがその寒さに耐えられるかどうか。

 例年なら正月ぐらいまでは生き残っているし、だからこそ、夏蒔き秋冬採りに挑戦することにしたのだが、さて。今年もちゃんと正月まで生き残り、実を成熟させてくれるだろうか。

 もし、これで満足のいく収量が得られなかったら我が家のベランダ菜園では事実上、トマトは栽培不可能と言うことになる。

 せっかくの夏野菜の花形を栽培出来ないとあってはベランダ菜園の意味も激減。いっそ、冬越しさせてからの初春採りを狙ってみようか。それこそ、冬の寒さには耐えられないだろうが、幼苗のまま地表をマルチングして、地中温度を保てばあるいは……。

 それにしても、熱帯植物であるトマトが一〇月になるまで実をつけることが出来ない暑さとは。

 なんかもう、いろいろと終わっている気がする。

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