その四一  ……イチジクの葉が枯れた

 ……イチジクの葉が枯れた。

 前日まではなんの異常もなくピンピンしていたというのに、その日の朝、様子を見たら葉という葉がしおれていた。

 なぜ?

 水をやり忘れたのか?

 たしかに果樹というものはどれも水切れに弱い。庭植えならともかく、土の量が少なく、つまりはそれだけ水分の保有量も少ない鉢植えの場合、真夏だとたった一日、水やりを忘れただけで葉がすべて駄目になってしまう。

 しかし、夏場の水やりは果樹に限らず必須だ。ベランダ菜園のすべてのプランターには毎日、きちんと水をやっている。そもそも、他のプランターの植物たちはなんの異常もない。それなのに、イチジクの葉だけがしおれている。他のプランターには水やりしたのにイチジクの鉢だけ忘れていた……などということはまず考えられないのだが。

 あるいは、例の根っ子食いか?

 カナブンだか、コガネムシだかの幼虫が潜んでいて根を食い荒らしたのか?

 それもおかしい。根っ子食いなら太くて堅い木の根っ子よりも、細くて柔らかい草の根をふ先に食い尽くしそうなものだ。しかし、イチジクの鉢に生えている草はどれも元気……。

 ともあれ、葉の様子から見てまだ回復可能に思えたので水をたっぷりやって様子を見ることにした。ところが――。

 翌日になると、葉という葉がすべてチリチリになっていた。回復するどころではない。完全に枯れてしまっていた。

 なぜ、こうなった?

 水切れが思っていたより深刻で、すでに回復不可能なダメージを負っていたのか? それとも――。

 イチジクの天敵、カミキリムシか?

 そう言えば春だかにカミキリムシを見かけていた。触角の長さから言ってあれはオスだったと思うのだが、見ていないところでメスもやってきていて、イチジクの木に卵を産みつけていてもおかしくはないし……。

 確認してみたところ、木の表面に傷などは見当たらない。しかし、内部ではすでにカミキリムシの幼虫が暴れまわり、食い荒らしているのだとしたら……。

 一時的な水切れであれば、葉っぱは枯れても果樹本体は生き残っているものだ。そこからまた新芽を伸ばし、育ちはじめる。しかし、虫に内部を食い荒らされているとあっては生き残りようがない。

 今年はイチジクの木は大きく育ち、甘くておいしい実をいくつもつけてくれた。本来なら今後、何年もの間、多くの実をつけてくれるはずだった。このまま、虫に食い荒らされて枯れてしまうのはあまりにも惜しい。

 どうか、こちらの不注意による水切れであって、再び新芽を伸ばしはじめてくれることを。

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