その三〇 イチジクの花なのか?

 二年目のシーズンとなるイチジク。

 そのイチジクのたったひとつ実った夏果が面白いことになってきた。

 熟して、食べ頃になるのをまっていたのだが、実のうちの尻の部分が割れて、先端につぼみらしきものをつけた芯のようなものが伸び出してきた。

 これは花、か?

 知っている人は知っているだろうが、イチジクの花は実のなかにあるツブツブ。成長すると実のなかから花茎を伸ばして花を咲かせるのか? まるで、成長すると葉が割れて花茎を伸ばすキャベツのように。

 だとすると、とっくに熟していて、食べ頃を越えてしまったわけだ。せっかくの夏果の食べ頃を逃してしまったのは残念だが、これぞ怪我の功名。このままおいておけば長く伸びた花茎の先に花が咲く、見たことのないシーンが見られるかも知れない。

 もちろん、このままおいておけば花を咲かせ、種を付けるために栄養を使われてしまうので、茎葉の生長に影響は鈍るだろう。秋果の育ちも悪くなるかも知れない。効率を考えればすぐにとってしまうのが正しい。しかし――。

 家庭菜園で効率なんぞ求めてなんになる⁉

 そんなものより経験だ、未知との遭遇だ。

 効率を求めるなら買えばいいのだ。その方が早くて確実、品質的にもおそらくよりよいものを食べられる。それなのに、わざわざ自分で育てるのは経験がほしいからだ。市販品を買って食べるだけでは体験できない経験が。いままさに、『花を咲かせるイチジク』という、市販品を買っているだけでは決して出会えない現象に遭遇しているというのに、これを見届けないでどうする。

 成長したイチジクの実がどんな姿になるのか。

 見届けさせてもらうぞ。

                   完

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