その二九 初夏の日差しのティータイム 実践編

 思ったよりも早くクワの実が熟しはじめたので、以前に言った『初夏の日差しのティータイム』を実行することにした。

 用意したものは朝のうちに摘んでおいたクワの実。

 カッテージチーズ(クリーム状の裏ごしタイプ)。

 オレンジハチミツ。

 ミックスナッツ。

 お茶は結局、クワの葉茶を試してみることにした。適切な分量などわからないから完全に適当。ただし、多すぎるよりは少なすぎる方がいい。多すぎると雑味やエグミが出て飲めたものでなくなる危険があるが、少なすぎる分には『飲めなくなる』と言うことはない。

 さて、まずはクワの葉茶を飲んで口のなかをさっぱりさせ、味を感じやすくしてからクワの実とチーズを味わうとしよう。

 朝のうちに実と一緒に摘んでおいた葉をちぎり、市販のお茶パックにつめる。本当なら、そのままポットに入れて、湯のなかで自由に泳がせるべきなのだろう。しかし、あとの掃除の手間を考えるとやはり、お茶パックを使いたくなる。

 お湯を満たしたガラスポットにお茶パックを投入。生の葉なので一〇分ほどかけてじっくり抽出。ガラスポットから見える水色はごく淡いエメラルドグリーン。淡くはあるが美しい色合いだ。

 ティーカップに注ぐ。カップの口を手で覆い、まずは香りを味わう。香りのほどは……特にないか。匂いにはわりと敏感な方なのだが、この場はなにも感じない。

 一口、飲んでみる。

 口のなかでクワの葉茶を転がす。

 これは……なんだ?

 味はする。ほのかに味はするのだが、どういう味かと言われると説明に困る。果物の味とも、緑茶や紅茶の味ともちがう気はするが……はっきりしない。

 ううむ。これはやはり、葉の量が少なすぎたか。生の葉だからかさばるばかりで実際の量は少なくなるから仕方がないか。

 まあ良い。ちゃんと飲める味に仕上がっているのだからよしとしよう。

 さて、それでは本番。クワの実とチーズだ。

 カッテージチーズを皿に盛る。その上に黒く熟したクワの実をパラパラ。真っ白なチーズと漆黒のクワの実のコントラストが目に映える。

 まずは、ハチミツ抜きで素材そのままの味を試してみるとしよう。チーズとクワの実を一緒にスプーンに載せる。口に運ぶ。目を閉じてゆっくりと味わう。

 これは……チーズのなめらかな食感のなかに混じるクワの実のプチプチとした食感。そして、感じられる果汁の味わい。ちがう食感を同時に感じられる感覚が心地良い。

 では、ハチミツを試してみよう。あまり多すぎるとハチミツの味がすべてを支配してしまうだろうから控えめに。

 さて、いかがなものか。

 おお。

 これは……うまい。

 チーズのなめらかな味わいとハチミツの甘さが口のなかでまろやかにあわさり、絶妙の甘さ。これは見事な相性だ。普段、チーズはそのまま食べていてハチミツをかけたりしないから知らなかった。

 口のなかが甘くなったところで口直しのナッツをつまむ。

 アーモンドのほのかな渋みが口のなかに残った甘さを消し去ってくれる。ミックスナッツだからクルミとカシューナッツも入っているが、アーモンドのカリッとした食感と渋みとがいちばん、あうようだ。

 そして、クワの葉茶を一口。

 味は薄いがそれだけにクセがなく、口のなかをさっぱりさせてくれる。

 そして、再びチーズとクワの実を……。


 初夏の日差しのティータイム。

 良い一時だった。

                  完

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る