その二八 2023年 未知(の野菜)との遭遇

 これがエゴマか。

 はじめて見るその姿。

 はじめて体験するその味わい。

 見た目はシソによく似ている。葉の色は鮮やかな緑で、落葉樹のように根元近くが一番ふくらみ、そこから先端に向かって徐々に細くなっていく葉っぱ型。縁には緩やかなギザギザがついている。葉脈の現れ方もシソにそっくりだ。

 植物にくわしくない人間が並べて見せられてもおそらく、ちがう種類の葉っぱだとは思うまい。それぐらい、よく似ている。

 葉をめくってみる。

 おお。

 なんと美しい。

 表面は緑一色だというのに葉の裏側はなんと、紫色に染まっているではないか。そして、葉の周辺には緑の縁取り。そのグラデーション、まるで観葉植物のよう。

 実際、葉をねじってこの裏面が表に出るようにして飾っておけば、見た人は誰もが観葉植物だと思うだろう。まさか、野菜だとは思うまい。

 それほどに美しい。

 そんな美しさを葉裏に潜め、決して表立って見せることがないとは、なんと奥ゆかしい。これが、江戸っ子の粋というものか。

 見た目はこの通り、素晴らしい。

 では、味はどうか。

 葉を食べてみる。

 なんだ、この味は。

 これが葉物野菜の味だというのか。まるで柑橘類のような味わいではないか。

 しかし、ではない。

 これは、なんだ。このほのかな苦みを感じる味わい、そして、ザラッとした厚みのある食感。

 これは……そうだ、これは……ミカンの皮。

 まるで、ミカンの皮をかじったときのようなそんな味わいと食感。いままでに食べたこのないその感触。こんな葉物野菜があったとは。

 食の世界はまだまだ広い。

                  完

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