その二七 イモムシたちはどこに消えた?

 イモムシが消えた。

 スティックセニョールの葉についていた緑のイモムシたちがだ。

 最近ではけっこう大きくなってきて『チョウの幼虫』と言われても納得できる姿になっていたというのに(おかげで、スティックセニョールの葉はボロボロ。それでもちゃんと、芽を伸ばして生きている。植物って本当に偉大)。

 それがある日、突然、消えた。

 まるで、マリーセレスト号事件のように。

 一匹残らず。

 あとに残ったものは葉を食い散らした跡と糞だけ。イモムシたちは本当に消え去った。

 一体、なにがあったのか。

 そもそも、イモムシたちは大きくなると数が減る。細い糸みたいな頃は何十匹とウジャウジャいるというのに、イモムシっぽい姿になるとほんの数匹。

 他の生き物に食われているのか、

 生存競争に敗れて飢え死にするのか、

 はたまた共食いするのか(肉食生物が草食になるのは大変だけど、草食動物が肉食になるのは簡単だからなあ)。

 とにかく、イモムシは成長するにつれて減っていき、最後に残ったわずかな個体だけがさなぎに至る。しかし、こうも一斉にいなくなるとは……。

 さすがに、他の生き物に食われることでこうもきれいさっぱりいなくなるとは考えにくい。

 では、まさか、自らどこか別の場所移動したのか? まさか、それはないだろう。葉はすでにボロボロとは言え、まだまだ緑の部分、つまり、食える場所は残っているのだし。

 それとも、ある程度、食べてしまうと緑の部分に出会えなくなり長距離移動をこころみるのか。食べられなくなり飢え死にするのか。それとも……。

 謎は深まるばかり。

 ……いや、まてよ。

 そう言えば、妙に青緑っぽい色に変色しているイモムシを一匹、見かけたな。あれは病気だったのか?

 すると、もしかしてパンデミック?

 病気が広まり、一斉に滅び去ったのか?

 ……怖い。

                   完

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