その二五 女王アリ(?)発見!

 警報!

 警報!

 女王アリ発見!

 見つけ次第、殲滅せんめつせよ!


 というわけで、女王アリである。

 ベランダ菜園で水まきしていたら手に黒くて、羽の生えた虫がくっついた(なんか知らないが、ハチやらトンボやら、虫にはよくくっつかれる)。見つけてすぐに握りしめたのではっきりしないが、あれは多分、女王アリだ。羽が生えたままと言うことは巣作りのために飛び立ち、いまだ地上に降りたことのない新女王候補と言うことだ。

 手のひらで握りつぶしたつもりなのに、手を開いたらいなかった。まだ生きていてまんまと逃げたのか。アリは意外とつぶせない。体が小さくて固い殻に覆われているので、手のひらの柔らかい部分や隙間にうまくはまり、耐えるのだろう。アリを潰そうと思ったら硬い指先でつまんでグリグリやるしかない。

 我が家のベランダ菜園、ハチもよく巣を作るが、アリの巣もよくできる。

 ベルナール・ウエルべルの『蟻』を読んで以来、アリには愛着があるのだが(新女王が巣作りに死力を尽くすくだりなんて、もう……)、ベランダ菜園に巣を作られるのは困る。

 なにしろ、アリはあっという間に増える。ベランダ中をウジャウジャと歩きまわる。

 「それで、なにか困るのか?」

 と言われるとそれはまあ、困らないのだが……。

 って、それだけで充分だろ! 細かい虫がそこいら中を歩きまわっているんだぞ! ベランダだけにとどまるならともかく、家のなかにまで入ってこられてはたまらない。アリに噛まれたりしたら夜もおちおち寝てられないし。

 と言うわけで、アリの巣が出来たら殲滅せんめつしなくてはならない。

 最初のうちはアリの巣ごと全滅させるという毒の餌を使っていたが、考えてみると、アリたちは毒の餌を巣に持ち帰って食べるのだ。つまり、土のなかに毒が溜まってしまう。いくら、人間用の毒ではないとは言え、野菜を作るための土に毒を溜めるのはさすがに気が引ける。と言うわけで、いまでは巣があるとおぼしきプランターに熱湯をかけることにしている。

 これでちゃんと効果があるらしく、アリの姿は見えなくなる。それでいて、植物の方は意外と平気らしくて普通に生きている。無害で安全。なによりの方法である。

 まあ、いきなり熱湯をかけられて右往うおう左往さおうするアリたちの姿を見ていると胸は痛むのだが。

 巣のなかはきっと大変だろう。毎日せっせと子育てに精を出しているのにある日突然、大量の熱湯が襲いかかってくる。巣のなかのトンネルを伝わって湯気を立てる熱湯が襲いかかり、すべてを押し流すのだ。まさに、神の鉄槌てっつい、ノアの大洪水。

 いや、それ以上か。ノアの大洪水はただの水だが、こちらはふれれば火傷する熱湯なのだから。

 もちろん、アリたちはなにも悪くはない。自らの生活を営んでいるだけだ。

 巣を作った場所が悪いのだ。

 ベランダ菜園はおれの縄張り。他者の縄張りを侵すものは殲滅せんめつされる。それが、自然の掟なのだ、アリたちよ。

 アリ一同「ハチやイモムシは放っておくくせに!」

 ……いや、まあ、それはそうなんだけどね(汗)。

                  完

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