その二四 ハーブたちのバラード

 ナスタチュームの花が咲いた。

 ナスタチュームは代表的な食用ハーブ。葉も、花も、種も、全部、食べられる(試したことはないが、若い種をすりおろすと、わさび風のスパイスになるそうである)。

 ちょこちょこと葉っぱをとってサラダに添えてしまうせいか、例年だと花はあまり咲かない。これほど早く咲くのはめずらしい。ナスタチュームの花には何種類もの色があるが今回、咲いたのは鮮やかなオレンジ色。見た目もきれいな花なので、すぐに摘んでしまうのは惜しい気もするが、咲かせておくと栄養を種作りに向けられて他の育ちが悪くなる。

 と言うわけで、さっそく摘んでいただいた。鼻にツンとくるわさびのような味わいがなかなかイケる。サラダに添えれば鮮やかな花色で見た目を豪華にしてくれるし、独特の辛みで味のアクセントにもなってくれる。おまけに、春に蒔いておけば冬までずっと収穫出来る。と言うか、うちのベランダ菜園の場合、冬になってからの方が元気なような……。

 おいしい、鮮やか、長く収穫出来る、おまけに栄養たっぷりと本当にありがたい存在。火を使うのが嫌になるこれからの季節、大活躍してくれることまちがいなしである。

 秋に蒔いておいたイタリアンパセリも伸びてきたし、冬に枯れたと思っていたオレガノも春になって旺盛に伸びている。最近、種を蒔いたバジルもまずは順調に成長中。まだ双葉だが、とりあえずは元気だ。

 オレガノとバジルはトマトの親友。トマトサラダに、ミネストローネ、トマト風味のミートボールスパゲティ(『ルパン三世 カリオストロの城』に出てくるあれである)……等々、トマト好きには欠かせないハーブ。どんどん育って欲しい。

 さらに、あちこちからシソも生えはじめた。枯れた花や葉っぱは刈りとってマルチング兼緑肥としてプランターに敷き詰めるのだがその際、種がこぼれる。この種が春になると自然と芽吹くのだ。おかげで、思い掛けないところに生えていたりする。

 シソは夏バテに効くと言うし、防腐作用もあるので夏場には欠かせない。枯れた花をほっぽり出しておくだけで自然と生えてきてくれる生命力は本当にありがたい。

 これらのハーブ類は用途が広い割にチマチマとした量でしか売っていない。いちいち買っていると手間もかかるし、費用も馬鹿にならない。こうして、ベランダ菜園に生えているものを存分に使えるとなると本当にありがたい。

 ちっぽけなベランダ菜園ではあるが、だからこそこうした『少しあると便利』なハーブを栽培するにはうってつけ。一歩、ベランダに出ればそこはもう緑なす収穫場。おいしいハーブが摘み放題。

 菜園のありがたみを知る瞬間である。

                  完

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