第23話 それぞれの三年 アレン③

 鬱蒼とした森の中を猛烈な勢いで駆け抜ける、大イノシシの鳴き声が響く。


 獣道を駆けずり、倒木を飛び越え、風化した巌を頭で粉砕すると、大イノシシはブギイィ、と咆哮を上げ、ブルリとその巨体を震わせた。


 その分厚く黒い剛毛の毛皮を纏った背中には、柄の折れた簡素な造りの素槍が一本、突き刺さっていた。


「いたぞ。やっこさん、お前にやられた古傷が疼いてるみたいだな。準備はいいか? アレン」


 茂みに身を潜め、クロウは低い声で言った。


「あぁ、今度こそ仕留める」


 隣で身をかがめているアレンは、そう言って鎚を握る手を強めた。


 クロウが忍び足で場所を移した後、一度大きく深呼吸をすると、アレンは立ち上がり、わざとイノシシの視界に身をさらした。


 大イノシシはもう一度、ブルッとその巨体を震わせ、強靭な出力を誇るその前足で地面を掻き、地面をえぐった。


 その仕草はアレンに、どんな攻撃よりも強力で、ただただまっすぐな突進が来るであろうことを想像させる。


 過去に一度まともにくらった、身体がバラバラになるほどの衝撃が、アレンの脳裏に俄かに甦る。


 アレンはくるりと踵を返し、全速力で走りだした。


 その姿を見たイノシシもすぐにその後を追う。けもの道を離れ、茂みを飛び越え、アレンは走った。


 後ろからは大イノシシがぐんぐんと速度を上げながら近づいてくる。


 この光景は、アレンにかつてのオオカミとの一幕を思い出させた。あの時は自分の力ではどうしようもなかったが、今ならば……


 必死に走るアレンは、黒森内部の開けた空間へとイノシシを誘導していた。


 森の広場、といっても差し支えないほどのその場所の中央に、ひときわ大きな楠木がそびえ立っている。


 ここがまさに、アレンの目的地だった。



 ――大丈夫、やれるとm……



 イノシシが接近していることを背中の全神経で感じながら、アレンは楠木を一歩、二歩、三歩と垂直に駆け上がった。


 ――考えるな、感じるんだ……


 イノシシが全速力で頭から楠木へと突っ込んだ。



 人が十人手を繋いでやっと足りるほどの太さの幹が鈍い音を立てて揺れ、木の葉が地面に舞い落ちる。


 イノシシの動きが、そこで止まった。


 アレンの足は三歩目と同時に木の幹を離れ、その躰は後方の宙へと弧を描いて舞っていた。


 宙返りする形でアレンは動きの止まったイノシシの背に乗り、筋肉の躍動を身体全体で感じながら、両の手でしっかりと鎚を握りしめ、大きく振りかぶった。



 頭蓋を貫く鎚の一撃と共に、大イノシシの断末魔の叫びが、黒森に響き渡った。



 それは人と獣、一年以上もの間続いた両者の戦いが決着した瞬間だった。



「よくやったな。アレン」


 しばらく経った後、中身の満ちた皮袋をアレンに放りながら、クロウは笑いかけた。

 アレンはイノシシの背に乗ったまま、放られた皮袋を受け取った。


「結局、倒すのに一年以上もかかっちまったけどな。それに……あんまりスッキリはしねぇよ」


 初めて黒森に踏み込んだあの日、その初日から、このイノシシとの戦いは始まっていた。


 森の奥に足を踏み入れた際、茂みを突き破って突進してきたイノシシに、アレンは見事に吹き飛ばされてしまったのである。


 幸い、命に別状はなかったものの、突進による全身打撲と牙による切創により一旦退くことを余儀なくされたアレンは、クロウに背負われて村へと戻ったのである。


 回復には少々時間がかかってしまったが、クロウご自慢の「すごい水」の不思議な力のおかげで無事に全快へと向かうことができた。


 そして傷が癒えるとともに、アレンはクロウに懇願して、この一年の間、度々黒森に籠っては鍛錬を繰り返してきた。


 その都度何度か遭遇した折、アレンの投擲した素槍がイノシシの背中に命中し、イノシシは手負いの身となった。


 それ以来、久しく姿を見なかったこのイノシシを、やっとのことで屠ることができたのだった。


 アレンは乾いた血でどす黒くなったイノシシの頭部を苦い顔で見下ろした。


 皮袋の中身を飲むと、黒森の泉で採れる湧水の、ほんのりとした甘みとポカポカとした温かさが体中に染み渡る感覚を感じ、アレンは表情を幾分和らげた。


 そんな弟子の顔を見て、クロウは目を細めた。


「しかしな、アレン。お前はこれで、命を削る戦いを経験した。そこから見出すべきものは何か。これまでのお前の人生を通して、それを見つめてみるといい」


 その言葉は、かつてホーストが問いかけた「問い」に近いものをアレンに感じさせた。


「……あぁ、そうだな。こういうのは考えるもんじゃない。感じるもんなんだよな」


 そう言ってアレンはするりとイノシシの背から降りた。


 クロウの隣に立つアレンの身長はこの一年でまた一段と伸び、かつてあったクロウとの身長差はどんどん縮んでいた。


 アレンは今ならば、鍛え上げた筋肉も含めてホーストとも肩を並べられるほどの男になっている自信があった。


 改めてクロウと並んでみて、自分の成長を実感したアレンは、握られた皮袋を見つめて笑みをこぼした。


「それにしても、やっぱりこの水、『すごい水』だ。こいつのおかげでイノシシに吹っ飛ばされた時も助かったし、一年でこんなに背も伸びた」


 笑みをこぼすアレンを見て、クロウも和らいだ表情を見せた。





 一つの死線を越えて、意気揚々と村に戻って以来、アレンの成長はその速度をグングンと上げていき、それに比例するように、時はあっという間に過ぎ去って行った。


 クロウが教える技の多くを、アレンは次々と吸収していった。


 戦いにおける足の運び。

 間合いの取り方。

 相手の攻めの隙を見極めて反撃に転じる技術。

 緊急時における回避。


 クロウは器用にも色々なタイプの戦士の戦い方を実践して見せ、アレンはそれらの対処法を一日に何千、何万と反復することで、一つでも多くを頭と体に叩き込むために最善の努力をした。


 アレンはクロウに何度打倒されようと立ち上がった。


 叩きのめされるたびに体中に青痣が増えて行った。


 叩きつけられるたびに肉は震え、骨は軋んだ。


 振るう度にマメは潰れ、爪はひび割れた。


 致命傷一歩手前の一撃を受け、動けなくなったことも一度や二度ではない。


 それでも、アレンは立ち上がった。


 決して開き直ったわけではない。


 そうすることが今の自分にとって最善だと、心からそう思っているから。


 救いたい命があることを、深く心に刻み込んでいるから。


 例え血反吐を吐こうとも、血の小便が出てこようとも。


 明日、もう一度精一杯生きるために、アレンは自分にできることをした。




 一月が過ぎ、二月が過ぎ、一日一日がまるで矢のように過ぎていった。


 じれったくても、もどかしくても、決して諦めず一歩一歩着実に鍛錬を積み重ねた結果、アレンは色々と得物を変えて鍛錬を重ねていくうちに、どれも同じくらいに使いこなせるようになっていった。


 そして自分で使える武器については、その武具を持った相手と相対した際に、それがどのように使われるのかがよくわかるようになっていった。



 どう攻撃すれば相手が嫌がり、逆にされた場合にはどう防げばよいのか。


 何万、何十万回、ともすれば何百万回の動作の反復を以て頭よりも体で記憶した。


 剣や槍、そしてナイフ。正しい間合いを掴むために時には素手で戦うこともあった。


 しかしそれでも、いつでもアレンが好んで使うのは、村の鍛冶屋の主人に貰った鎚だった。


 鍛冶師としての『鎚』が、戦いの中で高揚するアレンの意識を、いつもすんでのところで引き戻してくれていた。





 白騎士の祭典も近づいてきたとある昼下がり、クロウはアレンを村の広場に誘い、木剣での本稽古に臨んだ。


 村人たちが人だかりを作り、目を丸くして打ち合いを見物するなか、木と木がぶつかり合う乾いた音が広場に響いた。


 両者はひとしきり激しく打ち合っては距離を取り、そしてまた打ち合うことを何回も繰り返した。


 今までの鍛錬の総復習をするかのように、打ち合ううちにクロウは次々と戦法を変え、アレンも次々とそれに適応していった。



「そうだ! そうやって常に軸を意識しろ! 相手から目を離すな! 」


 普段の疲れた感じの声とは違う、クロウのよく通る声が広場に響く。


 アレンは鋭い犬歯をむき出しにして歯を食いしばり、クロウの剣戟を全て受けきると、鍔迫り合いからクロウを広場の中心へと押し戻し、再びクロウとの剣舞を展開した。


 力強く木剣を振るう両者を始めは恐ろしげに見ていた村人たちは、徐々に熱い視線を送るようになり、いつしかそれは声援を伴い始めた。


 それに応えるように両者の動きのキレも増していき、全力同士の打ち合いが何分か続いた後、ついにはアレンの繰り出した鋭い一撃が――両者の木剣をバラバラにしてしまった。



 クロウは息を弾ませ、持ち手だけになった木剣を見てニヤリと笑った。


「腕を上げたな。アレン」



 村人たちの惜しみない歓声と共に、アレンは笑顔を浮かべた。





 その晩、村の酒場は大賑わいだった。


 アレンもクロウも酒場に招かれ、カウンター席から村人たちのどんちゃん騒ぎを眺めていた。


 村人たちは箒や棒を使って、昼間のアレンとクロウの真似事をして盛り上がっている。


 争いごとに対して皆が持っていた盲目的なまでの拒絶は、幾分薄らいでいるようだった。


 それほどに、アレンとクロウの仕合は人の心を動かすものだったのだ。


「アレン、話がある」


「ん? 」


 アレンが店主の作った料理を飲み込むのを待ってから、クロウは切り出した。


「お前、ヘファイスへ帰れ」


 アレンは水を飲もうとして、その手を止めた。


「……どうして? 最後まで鍛錬に付きあってはくれないのかよ? 」


「お前は十分強くなったよ。もう白騎士の祭典まで日も近い。今のお前に必要なのは、鍛錬よりも、けじめをつけることだ。違うか? 」


「……けじめ、か」


「あぁ、帰りを待っていてくれる人がいるってのは、なかなかいいもんだぞ? お前はそのために戦うことを決意したようなもんだろう? 」


 クロウはそう言うとゴブレットを傾け、ハチミツ酒ミードを一口飲んだ。


「まぁ、実際、俺もこの三年間、それほど悪くはなかったぜ? 」


「なんだよ、それ……」


 アレンは言葉に詰まって俯くと、手に持ったカップの水面に自分の顔が映し出されていることに気付いた。


 三年の鍛錬で鍛え上げられ、いつの間にか子供っぽい感じが抜け落ちたような、そんな自分の顔が、そこにあった。


「……今まで、本当にありがとう、師匠」


「……なぁに、大したことはしちゃあいないさ。戦いのないこんな時代に、自分の意志でここまで強くなったのは、お前自身の力だ。そのことは、自信を持っていい」


「……なぁ、師匠。争うことって、いや、戦うことって、本当に聖典に在るとおり、悪徳、なのかな? 」


「さぁてな。確かに平和ってのはいいものだが、白の精霊から与えられた平和に甘んじるばかりに、他人の強さを潜在的に妬んで、自分たちと同じ位置に引きずり降ろして満足を得る奴もいる。横一列で皆一緒な方が安心できるから、互いに互いの足を引っ張り合う。俺から言えるのは、皆が望む平和の中に、そんな自己欺瞞的羨望ルサンチマンを知らず知らずのうちに抱えているヤツが増えてるのも確かだ、ってことだ。……おっと、言っとくがこれは白の精霊を愚弄しているのでも何でもないぜ」


 ――きっとクロウはそれに染まりたくなかったのだ。


 今では数少ない武人としての道を今もこうして歩いていることが、何よりの証明だった。


「力への意志」を胸の内にしっかりと秘めたクロウの生き様は、アレンにわずかばかりに残っていた迷いを捨てさせるのには十分すぎるものだった。


「こうして村の連中の心が動いたのも、強くあろうとするお前の意志の力の賜物だ。いいか、アレン。弱さも、強さも、それだけでは罪じゃない。しかし、自分の弱さを言い訳にして現状に甘んじたり、強さをひけらかして他の者を傷つけることは、決してあってはならないことだ。お前はこの三年で強さを手に入れた。この先、信じるものは自分で探せ。そして白の精霊が与える運命を愛するんだ。最後の最後までそれを持ち続ければ、きっと誰かがお前に微笑んでくれるだろうさ」


 ニッと不敵に笑うクロウの言葉は、けれど弟子の成長を素直に喜んでいた。


「あぁ、それと……」 


 クロウは床に置いてあった背嚢から、分厚い猪皮の腕甲を取り出し、アレンに手渡した。


「記念に造ってみたんだ。小屋の前に同じイノシシの皮で作った盾も置いてある。持って行け」


「……大切にするよ、師匠。本当にありがとう」


「忘れるな。運命は変えられないかもしれんが、自ら選び取ることはできるってことを、な」


 師と弟子は固い握手を交わした。


 こうして、三年間の修行は終わりを告げ、アレンはヘファイスへと帰還した。


 白騎士の祭典まで、あと半月のことだった。





 ヘファイスへと帰還したアレンが真っ先に向かったのは、老鍛冶師ゴドーの家だった


「おう、帰ってきたか」


「……久しぶりだな、アレン」


「……父さん? 」


 そこには既に先客がいた。ホーストだった。


「しっかし、随分とでかくなったなぁ、おい。もう俺と同じくらいあるんじゃねぇのか? 」


 ホーストは椅子から立ち上がり、アレンに歩み寄った。


 確かに、アレンの身長は既にホーストと同じくらいになっていた。


 アレンは無意識的に一歩後ろに退いしまった。それを見て、ホーストが足を止める。


「……アレン? 」


「いや……あの……」


 実に三年ぶりの再会である。

 そしてそれはつまるところ、三年前の論争以来初めての再開、ということになる。


 勝手に家を飛び出した手前、心の奥で、アレンは心にどこか負い目を感じていた。


「……ちい姉さんは、大丈夫、なの、か……? 」


 おずおずとアレンは切り出した。


「あぁ、神父様が新しい薬の調合に成功してな。なんでも薬草の効果を高める効果のある、不思議な水を、ある伝手から手に入れてくれたみたいでな」


「不思議な水……まさか、それって……? 」


 アレンは反射的にゴドーを見た。ゴドーはむっつりとした表情のまま、ゆっくりと口を開いた。


「クロウのヤツから、情報をもらったのさ。黒森の湧水、だったか? ヤツの話じゃあ普通の人間ではあまり体に受け付けないという話だったが、この町の神父もなかなかの努力家でな。さまざまな薬草との調合や、濃度の希釈を試行錯誤して、お前の姉さんの体に合うように調整を施したんだ。」


「……じゃあ、師匠、何回かヘファイスに来てたってのか? ……まさか、ちょいちょい村を開けて旅に出てたのはそれが理由だったのかよ!? 」


 ホーストとゴドーは顔を見合わせ、声を合わせてクックッと笑った。


「それだけじゃないぞ? お前がどんだけ厳しい鍛錬を積んでいるか、来るたびに聞かせてくれたしな。お前が、俺たちのことについて悩んでいることも、あの人はきちんと見てたんだよ」


「……なんだよそれ。結局俺は師匠の掌の上ってわけかよ」


 急に体の力が抜けてしまった。

 なにが、「けじめをつけろ」だ。

 アレンは心の中で毒づいた。


「そんな言い方すんなよ。少なくとも、俺たちにとっては嬉しい知らせだったんだからな」


 ホーストは再度、アレンに歩み寄った。

 今度はアレンは後ずさりはしなかった。


 近くまで歩み寄ると、目線の高さが同じになった息子の両肩を、ホーストはしっかりとその大きな手で掴んだ。


「よく帰ってきたな、アレン」


「……ごめん、父さん。勝手に出て行って」


 アレンは俯きながらそう言い、ホーストから目を逸らした。ホーストはアレンの首に腕を回し、引き寄せた。


「気にするな。随分と遅くなっちまったが、『親子』の和解に時効はねぇだろう? ん? 」


「……あぁ、ありがとう」


 しばらくして二人は離れ、それぞれ椅子に座った。


 ゴドーは地下の倉庫に用があるといってロープで地下に下って行った。


 ゴドーが戻ってくるまでの間、アレンとホーストは色々なことを語り合った。

 ホーストは、アレンがいない間のヘファイスのことを。

 アレンは自身の鍛錬を通して何を見て、何を感じてきたかを。

 色んな事が重なり合って、今の自分がいることを。


 ――ランダルに叩きのめされなければ、『戦うこと』を決意しなかったことを。


 ――カトリーナが病にならなければ、『救うこと』を決意しなかったことを。


 ――ホーストに拾われなければ、『生きること』さえ、できなかったことを。


 全ての要因が密接に絡み合って初めて、自分という存在があるという、ごく当たり前のことを。


「……成長したな、アレン」


 ホーストは父親らしい、暖かな微笑みを浮かべた。


「いや、長い時間をかけて、当たり前のことを再認識しただけだよ。言葉にしちまえば、本当に当たり前の事だ」


 ホーストが可笑しそうに顔を歪ませた。


「当たり前が「当たり前」なのは、それが人にとって一番大事なことだからだ。俺がお前にしてやれたことなんざ、たかが知れたことかもしれん。だがな、俺はお前を誇りに思うよ、アレン。きっと母さんも同じだろうさ」


 アレンはこの言葉を聞いて、心の中のしこりのようなものが解けていくような感覚を覚えた。


「父さん……俺、絶対に勝つよ。勝って、また皆で楽しく暮らそう」


「……あぁ、皆、お前の帰りを待ってるよ」


 お互いを理解しあった親子は、互いに微笑みを浮かべた。


 ちょうどそのとき、ゴドーが地下の倉庫から這い上がってきた。背中には何やら大きな袋を背負っている。


「すまんな。遅くなったわい。親子水入らずを邪魔して悪いが、アレン。俺からの選別だ」


 そう言って、ゴドーはアレンの目の前に大きな袋を置いた。


 アレンが袋の封を開けると、中には、人の胸筋や腹筋などの筋肉を見事に再現した古風な叩きだしロリカと、これまた古風な造りの兜が入っていた。


「これって……ゴドー爺さんが? 」


「あぁ、腕甲と盾はもうお前は持っているだろう。ちいとばかし造りは古いが、動きやすさと丈夫さを兼ね備えておる。全身鎧フルプレートなんかじゃあアイツの動きにはついていけんからな」


「こいつはいい作品だ! おい爺さん、この叩きだし鎧ロリカ、モノはなんだ? 青銅か? 」


 ホーストが口笛を吹いてゴドーの作品を見つめながら尋ねた。


「詳しくは言えんがな。強度について言えば、今騎士団で使われている鎧と遜色はないはずだ。軽さと動きやすさに重きを置いて作ってある分、鎧に慣れていないアレンには丁度いいだろう。壊しても構わん。思い切り使ってやってくれ」


「……ゴドー爺さん」


「……なんだ? 」


「……いや、なんでもない。ありがとう」


 ゴドーはフン、と鼻を鳴らした。


「……貸すだけだ。必ず返しに来い、いいな? 」


「……あぁ、必ず! 」


 こうして、自分や父との間でけじめをつけたアレンは、その日の夜のうちに、帝都ニーヴェルンゲンへと出発したのであった。




 さまざまな人々の想いと共に……

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