第8話 アレン 十四才 鍛冶師の門出と近づく糸②


 それは、アレンが初めてゴドーの家に来た日の事だった。


 ――何事も出だしが肝心だよな……


 ――そう……元気よく、はきはきと、丁寧に……


 ――大丈夫……落ち着け……よし! 行くぞ!


「おはようござい……! 」


 出だしが肝心と思い、意気込んで朝の挨拶を告げようとしたアレンの声は、次の瞬間に家中に響き渡った、鉄を打つ音のそれに、見事にかき消されてしまった。


 音の出処はどこだろうと辺りを探るアレンが、その音を出したのが誰あろう、老鍛冶師ゴドーその人であるらしいと気付くのに、さほど時間はかからなかった。


 老鍛冶師は、家に入ってきた少年には気にも留めなかった。

 ひょっとすると、入ってきたことにすら気づいていないのかもしれないと思わせるほどに。


 節くれだったその大きな手には、柄の短い大きな金槌が握られていた。

 その身体は、老いたりとはいえ未だに衰えというものを知らないのではないかと思わせるほどに力強かった。

 実際、ゴドーのその筋骨隆々の腕は、ゆうにアレン少年の腕の倍はあるように思われた。


 暗がりで、片目を閉じ、汗を炉の火と火花に照らせて、老鍛冶師は黙々と鉄を打っていた。


「……ます」


 いきなり出鼻をくじかれたアレンは、申し訳程度に挨拶を済ませることにし、静かにドアを閉めた。


 父であるホーストと同様、もしくはそれ以上に、老鍛冶師が紡ぎだす金鎚の音色は、それを聞く者を委縮させる、何らかの特殊な効果があるように思われた。


 無骨な剛腕から振るわれる鎚が奏でるその響きは、文字どおり――この場合は「音どおり」が正しいだろうか――「とんちんかん」な響きを奏でる鍛冶師見習いのそれとは、本質において異なっているようにすら思えてくる。


 そんなことを考えながら、アレンは黙々と作業をしている老鍛冶師にそろり、そろりと近づき、その作業を見守ることにした。


 少し埃っぽく、太陽の光が入りにくい、暗い作業部屋。


 支配者として暗闇が君臨するその空間には、その支配者を切り裂かんとする二筋の光があるのみであった。


 一つは、音を立てて燃える高温の炉の、凡てを無に還さんとしているかと思うほどの、圧倒的な紅の奔流。


 そしてもう一つは、その紅の奔流によって洗われ、燃え盛る松明のように煌々と光と熱波とを放つ鉄の塊と、人の剛力によって振るわれる、冷たい輝きを放つ鉄の塊とがぶつかった際に生み出され、刹那に消えていく橙色の火花であった。


 アレンには、老鍛冶師の――彼が過ごしてきたであろう長い年月を物語っているかのような――その白目の濁った瞳の中に映し出される橙色の刹那の煌きが、心なしか楽しそうに踊っているように見えた。


 見る者の視覚を刺激する、紅と橙。

 聞く者の聴覚を刺激する、鉄を打つ無骨な響き。


 この二つに支配されたこの空間は、アレンを緊張感のある、それでいてどこか心地よい世界へと誘っていった。

 


 どのくらいの時間がたったのか。


 不意に、聞く者を委縮させる、その無骨な鉄の響きが途切れた。同時に、橙色の火花も消えてなくなった。


 次にアレンが耳にしたのは、ジューッという、『水の焼ける音』であった。


 どうやら、ゴドーの作業が一段落したらしい。


 それっきり静寂に包まれた作業部屋の中、アレンは高温で燃え盛る炉の、炭が爆ぜるパチパチという――いつもならばただ静かに音を立てているだけのはずの――音のみが、馬鹿みたいに大きく部屋に響き渡っているように感じた。


「……火花は良い」


「……ぇ」


 突然口をきいた気難し屋の老鍛冶師の言葉に、長い間口を噤んでいたアレンは反応することができなかった。


 無理やり開いたその口から申し訳程度に出てきたのは、掠れて間の抜けた声だけであった。


 そんな少年の間の抜けた返事などお構いなしに――というより、はじめから誰かに話しかけている訳でもないのかもしれないが――老鍛冶師ゴドーはその節くれだった大きな手に鎚を握ったまま、物思いにふけるように目を細めている。


 その視線の先にあるのは、ごうごうと燃え盛る炉の紅の奔流。


 老鍛冶師は何かを思い出そうとするかのように、その低いしわがれ声で、ゆっくり、ゆっくりと言葉を続けた。


「こうして飛び散っては消えていく火花は、俺の命と同じなんだ。こうしているときだけ、俺は俺として生きていることを感じる。一族代々鍛冶師の家系。俺の爺さんも、その爺さんもそのまた爺さんも……だから俺も生まれてこの方、鉄を打つことしかしか知らん。物心ついたときから鎚を握って、太陽のように輝きを放つ鉄を、打っては延ばし、打っては冷やし……気付いたら五十年以上が過ぎておった。人と向き合う時間より、鉄と向き合ってきた時間の方が長いこんな俺のことを、町の人間は偏屈ジジイだとか、変り者だと面白おかしく口にする。そんな俺の中にあるのは、真っ赤に燃えた鉄と、それを打ち叩く鎚だけだ」

 

 半ば独白めいた言葉を、その固く、ひび割れた唇から紡いでいた老鍛冶師ゴドーは、ここで一旦言葉を切った。


 アレンは、その言葉の持つ意味を推測しようと試みる傍らで、鎚を握るゴドーの大きく節くれだったその手と、人ひとりなら簡単に殴り殺せるのではないかと思うほどのその剛腕に、目を奪われずにはいられなかった。


 彼の――言葉を紡いでいる間は弛緩していた――身体の筋肉が、言葉を切った途端に瞬時に盛り上がり、身体の節々に力が入っていくのを感じ、思わず息をのむ。


 少年のその息遣いが聞こえたのだろうか、老鍛冶師はジロリ、と――ここまで『ジロリ』という表現がぴったりな動作を、アレンは今まで見たことはなかった――炉の紅の奔流からアレンへと、その視線のみを移した。


 長い年月を経て濁った白目と、鷹や鷲などの猛禽を連想させるその鋭い眼光に、アレンは思わずひるみそうになった。


 事実、今の鋭い眼光のみならず、この家に足を踏み入れてからというもの、この老鍛冶師の一挙手一投足に完全に委縮してしまっていた。


「――お前は、俺のことをどう思う? 」

 

 決して、猛禽が口をきいた、というわけではない。

 言葉を発したのは、壮年をとうの昔に通り越した、ただの老人のはずである。


 しかしながら、老鍛冶師のその鋭い眼光と、その身に纏う、自然界の捕食者のみが醸し出すことを許されたはずの雰囲気は、そんな簡単な事実関係すら疑問に伏してしまうほどのものであった。

 まるでその場の空気が固体化してしまったのではと錯覚させるほどの重圧だ。


「え? 」


 アレンは、そんな重苦しく息苦しい空間にも負けず、今度はしっかりとした声で――さっきの掠れ声はなかなかに恥ずかしかった――疑問を示す返答に成功した。


 この重圧に真っ向から立ち向かえる少年はなかなかいないだろう。

 もし仮に、ここにいるのがアレンの幼馴染カッティだったなら、その場で泣き出すか、その場で凍りつくか、尻尾を巻いて逃げ出すかのいずれかだったであろう。

 

 その点では、アレンはこの瞬間に、老鍛冶師の信用を得ることに成功していたのかもしれない。

 

 問題はこの後である。


「う、う~ん……僕は……」


 それに続く言葉が出てこなかった。


 先程の言動もしかり、どうもアレンは、この老鍛冶師が、自分を試しているのではないかと考えてしまっていた。


 下手なことを言って、せっかくホーストが用意してくれた修行のチャンスを棒に振ってしまっては申し訳ない。


 そして、それ以上に、ここでの鍛冶師としての修行が、これからの自分に大きなものを与えてくれるであろうことを、アレンは強く感じていた。


 ゴドーの家に入ってからここまでの、ほんのわずかな経験だけからでも、アレンはそれを直感で確信していたのだった。


 となれば、である。


 よくよく考えてものを言わなければならない。そう考えたアレンは自己の思考の中へと静かに沈んで行った。


 質問を浴びせた当の老鍛冶師は、アレンの返答を待っているのだろう。その固く、ひび割れた唇を開くことはなかった。


 部屋には紅の奔流を湛えた炉から漏れ出る、パチパチという音だけが静かに鼓膜を刺激するのみであった。


 そのことも相まって、アレンの思考はより深く、深く――姉のルーシーの言葉を借りるなら、アレンにとってのこの思案は文字通り『高尚な』思案であるといえるだろうが……――進んでいった。



 ――相手は鎚を握ってただひたすらに、五十年以上も鉄を打ち続けてきた熟練の鍛冶師である。


 同じ鍛冶師として――もっとも、自分はまだ見習い段階だが……――尊敬に値する人物であるのは間違いない。


 しかし、彼の人生は良くも悪くも普通の人――『普通の人』というのがはたしてどのような『人』なのかは置いておくとして――とは違っている。


 おそらく自分が感じている違和感は、一職人としての彼と、一人間としての彼との間にある極端な偏りにあるのだろう。


 確かに自分を含む周りの人間と、この老鍛冶師には大きな違いがある。


 それが仮に、人々が許容できる範囲での、ほんの小さな違いだったならば、人々はそれを「個性」と評するのだろう。


 だがそれが、皆の許容できる範囲を超えた段階で、人の「個性」と呼ばれていたものは、単なる「爪弾きの対象」としかなり得ないのだ。


 幸い、腕の良いの品物を必要としてくれている人が少なからずいるため、は完全に社会から隔絶されている訳ではない。


 もちろん、そのか細い繋がりを除いてしまえば、今ではこの家にくる人は、の作った品物を受け取りに来る人くらいしかいないんだろうけど……」


「……思うとることがちょいちょい口に出とるぞ」


 老鍛冶師の静かなしわがれ声が、目まぐるしく頭を回転させて、ここまでを頭の中で整理していたアレンの意識を、不意に覚醒させた。


「えっ!? 口に出てた? 」


 ハッとしたのと同時にアレンはひどく赤面した。ゴドーに対してかなり失礼な推測を立てていた気がしたからだ。


 当の本人はというと、再びその視線は炉の中で燃える――もはや喰らうべき炭をなくし、今やすでにゆらゆらと、その勢いを弱め始めている――火炎に戻っており、アレンの言葉を気にしている様子ではなかった。


「……ごめんなさい、でも――」


 非常に気まずい感情を抱きながらも、アレンは改めて口を開くにあたっては、正直に素直な感情をぶつけてみることにした。


 結局、先程のような考え事の中に出てきたような、文字ばかり小難しい問題を追求したとしても、それを有意義に語ることができなければ、かえって己の無知蒙昧ぶりを露呈させることにつながるからだ。


 ……ちなみにこれは長女ルーシーからご教授を受けた『ありがたい教え』の受け売りである。



「ゴドーさんは……寂しいと思った時はない? 」


「……なに? 」


 またもジロリ、と視線のみを移したゴドーの口から、決して怒気を帯びている訳ではない――そう思ったのは完全にアレンの主観から見てのことであるが……――低いしわがれ声がこぼれる。


 おそらく、純粋な疑問なのだろう。


 アレンは彼の語気からそう判断した。


「ずっと一人でいて、誰かと一緒に暮らしたいと思ったことはないの? 」


「……そうだな」


 ゴドーは、その老いて色の濁った眼をアレンからゆっくりと逸らし、何かを考え込んでいる様だった。


 その視線は、アレンにでもなく、炉の炎でもなく、薄暗い作業部屋の、何もない虚空へ向けられていた。


 思えば、アレンが質問をしてからだろうか。


 もしかしたらもっと前からかもしれないが……老鍛冶師が先程まで纏っていた、空気を固体化させる類の雰囲気は、不意に途切れていたようだった。

 

 少しの間、二人の間に沈黙が走った。


 時折、炉の中でわずかに生き残った木炭達が爆ぜていく。

 そのパチパチという音だけが、作業部屋に静かに、しかし大きく響いていた。


 そして、そんな沈黙を破ったのは、老鍛冶師ゴドーの方からだった。


「……寂しい、か。そうだな、今となっては遠い昔だが、かつてそんな感情を抱いたことは……あったかもしれん」


 老鍛冶師は、ゆっくりと言葉を紡ぎながら、記憶の彼方を見つめているかのようにその目を細め、虚空を仰いでいた。


「……そう……そっか……ふふっ」


「……何がおかしい? 」


 この言葉にも怒気は感じられない。


 アレンの含みを持たせた笑いに、過去の記憶への旅行を邪魔され現実に引き戻されたゴドーが、今度は視線だけではなく、その深いしわが刻まれた顔を目の前の少年に向けた。


「ご、ごめんね。でも、ゴドーさん。僕は、ゴドーさんが、偏屈ジジイだなんて、思って、ない、よ? 」


 おずおずとした話し方に、ついつい言葉も切れ切れになってしまう。


「……ほう? 」


「……でも、確かにゴドーさんは、ヘファイスの町の人達から見たら……変わっているのかもしれないね」


 ここで、アレンは正直に思ったことを打ち明けた。


「……」


 アレンは、老鍛冶師の相槌を待ったが、当の本人はこの発言には無言であった。槌は仕事にしか使わない主義らしい。


 ここで話を切ってしまっては、いらぬ勘違いを招きかねない。アレンは意を決し、先を続けることにした。


「でも多分、町の皆が感じているものと、僕の感じているものは、似ているようでいて、違うものだと思うんだ。う~ん。例えて言うんなら、多分、『暗闇の中で、何も見えないこと』と同じなんじゃないかな……あ」


「……わからんな。どういうことだ? 」


 ――良かった。

 ここでこの返答が来てくれて、アレンは心底ホッとした。上手いことを言おうとして、非常に解りづらい例えを用いてしまったからだ。こんな時に詩的な言い回しは全くもって必要ない。


 ――そういえば、ちい姉さんも言ってたっけな……


『思ったことは、しっかりと相手に伝わるように伝えないと駄目よ? 言葉はそのためにあるのだから。使う方のさじ加減で、武器にも、薬にもなる。もっと言えば、言葉は、それを与えられる人にとって、希望にも、絶望にも、その姿を変えることができるの。これって、すごいことじゃない? 』


 ……確かに、その通りだ。

 アレンは心の中で次女にも感謝した。


 もう一度、意を決してすうっと大きく深呼吸をする。言葉は、しっかりと出てきてくれた。


「さっきのゴドーさんの話を聞いて、思ったんだ。人は、自分が理解できる範囲のことしか理解できないでしょう? 自分にとって理解できないものには、少なからず人は興味を示すかもしれない。でも、それと同じくらい、理解できないものには……なんていうか、『恐怖』に似た気持ちを持つと思うんだ。ううん。これがきっと『恐怖』の元になっているものの一つなんだ。小さいとき、一人で暗闇にいたときに感じた『恐怖』と、多分、これは同じものなんじゃないかな? 」

 

 少し間をおいて、アレンは相手の出方をうかがったが、老鍛冶師は丸々十秒間もの間沈黙していた。


 またしても自身の説明不足を痛感したアレンは、言葉に詰まりながらも先を続けることにした。


「えっと……ゴドーさん、さっき言っていたよね? 鍛冶の仕事一筋で生きてきて、もう五十年以上になるって。人と向き合ってきた時間より、鉄と向き合ってきた時間の方が長いって。確かに、ヘファイスは鍛冶の町だけど、この町でも現役で五十年以上鍛冶師をできる人なんて、滅多にいないよ。ただでさえそんなすごい人が、人と関わらないでずっと一人で生活しているんだから、周りの人も気にかけて当然だよ。きっと、ゴドーさんのことを、皆もっと知りたいと思っているんじゃないかな? 」


 ――きっと、「偏屈ジジイ」や、「変り者」などのあだ名の裏には、言葉通りの悪意はないのだろうと思いたい。


 ただただ、極端に仕事一筋で、周りと関わりを持ちたがらないが故に、この人の本当の姿を知る人がいないというだけなのだと。


「それに、僕はまだゴドーさんの作った物を見たことはないけれど、ゴドーさんの話は父さんから聞いているんだ。あの負けず嫌いの父さんが、ゴドーさんの鍛冶師としての腕がどれだけ凄いかを、すごく楽しそうに話してくれたのを、ちょっと不思議に思っていたんだけど……でも、ゴドーさんに今日初めて会って、その理由がわかった気がするんだ。飛び散っていく火花を、自分の命だって言ったゴドーさんは、きっと……生粋の鍛冶師として尊敬に値する人だって! 」


 決然とした表情でそう告げたアレンの顔を、老鍛冶師はまたしても丸々十秒もの間見つめていた。


 老人は目の前の少年の姿に、昔、言い放った言葉こそ違えど、同じように決然とした表情で自分と向かい合ったある青年の、その遠い記憶にある姿とを重ね合わせていた。


 いつだったか、身一つで家の戸を叩き、


 ―――『俺はアンタの作品に惚れた! アンタの全てを、俺に見せてくれないか? 』


 ……そう豪語して居候を決め込んだ、不遜で小生意気な、それでいて誰よりも眩しく輝いていた若造の姿を。



 老鍛冶師は懐かしそうに、ほんの少し目を細めると、


「クックックックック……カーハッハッハッハ!!」


 突然、せきを切ったように、低重音でよく響く笑い声をアレンに返した。


 アレンはといえば、突然の老鍛冶師の高笑いに目を白黒させていた。


「クク……あの若造め……面白いヤツを送ってきよってからに。まったく、親が親なら子も子だわい……『血は水よりも濃し』か。いや、この場合は、『三つ子の魂百まで』と言った方がいいのか……」



「……? 」


「……いや、なんでもない。しかし、お前さんは親父と違って、その年で随分口が達者なようだな。おまけに思慮深い。」


 老鍛冶師はそう言って作業場を離れると、アレンに歩み寄り、彼の間近で向かい合った。


「そ、そう……かな? 家には母さんや姉さんたちもいるから、もしかしたらその影響、かも、しれない、けど……? 」 


 アレンは、急に老鍛冶師のその身に纏う雰囲気が変わったことに驚きつつも、おずおずと言葉を返した。


 きっとゴドーも、ホーストと同じく、(この場合は、弟子であるホーストも、師のゴドーと同じく、と言った方が正確だろうか? )仕事以外ではあんな険しい顔をすることはないのだろう。なんとなくだが、アレンはそう思った。


「そうか……良い家族を持ったな。それを大切にすることだ。鍛冶師として尊敬に値するとお前は言ってくれたが、はっきり言って俺はお前の親父よりも『良いお手本』とは言えん。俺から何を吸収するか。それを決めるのは、お前自身だ。初めに警告しておくぞ? 」


 老鍛冶師ゴドーは、その節くれだった大きな手をアレンに差し伸べた。


「……! はい! 今日から、よろしくお願いします! 」


 アレンも満面の笑みで、差し出された手を取って握手を交わした。


「……ところで……お前、名前はなんていう? 」


「……へ? 」 


「……む? 」



 微妙な空気の中、炉の中に残っていた最後の木炭の欠片が、パチン、という音を立てて燃え尽きたのだった。


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