この瞬間、この場所
古びたアパート。ここはこれから俺が住むことになっている場所だ。海の隣とでも言えるような場所にあり、仄かに潮風の匂いがする。
錆びてもう少しで壊れてしまうような鉄でできた階段を上り、2階へと行く。
歩く度にギシギシと音をたてる階段は少し怖かった。
横を見ると海が見えた。
サンゴ礁のエメラルドブルーから濃いコバルトブルーの色にグラデーションになっていて言葉にはできないくらい綺麗だった。
ドアノブに鍵を差し込んで手動で回すとギイィっと言う音と共にドアが空いた。
そこはいかにも普通の部屋だった。
特別なことといえば引っ越しの段ボールが積み上げられ、木の匂いがかすかにしたことだろうか。
1Kの間取りの部屋で狭いところが好きな俺には丁度良かった。
そこから地道に段ボールを開けて、物を出していく作業をした。プチプチに包まれた新しいソファーを出してしばらくプチプチを潰して遊んでいた。
とりあえず必要な物だけ出して、よく分からない段ボールは隅に置いておいた。
気がつくともう夕方になっていた。
せっかくだから海に行ってみようと思い部屋を出た。さっきとは違い、冷たい風だった。
ザクザクと砂浜を歩くと靴の中に砂が入ってきてじれったかったので、靴と靴下を端において裸足になった。
リズミカルにゆっくりと流れる波の音を聞きながら海に近づいた。
透明な海は気のせいかもしれないが、水道水よりも透けて見えた。
眼の前に見えたのは夕日が水平線に沈んでいった景色だった。
真っ赤な半熟卵が溶ろけるようにあの海にゆっくりと。
この瞬間、この場所が好きだと思った。
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