船の上で
出発当日、港までバスで行ってから船に乗って島へと移動した。
ボーッという船の出発の汽笛の音が海一面を震わせるように鳴り響く。
俺は船が揺れるのもお構いなしに甲板の上に立った。船は勢いよく深い青色の海をかき分け、白いメレンゲのような泡をたてていた。
風がせっかく気合を入れて整えた髪をボサボサにしてきた。向かい風だった。
ずっと同じ景色を見るのにも飽きてきたので船室に戻ろうとして振り向いたところ、ご年配のおじいさんにぶつかってしまった。
「あ、すみません。」
「高校生?」
「え、あはい。今年から高校に入学します。」
「そうか。じゃあ島に来るのか」
コクコクと頷いて返事を返した。
「綺麗じゃろ?この海は。」
「ですね…」
おじいさんは手すりに腕を乗せて海をみていた。
和やかなその表情は荘厳な眉毛と対照的だった。
「あれが見えるか?」
指を指した先を見ると小さな島が見えた。
「あそこがわしの住む島じゃ。島自体は小さいけれど、海は昔から自慢できるくらい綺麗なんじゃ。暇があったら見てみるといい。」
「分かりました。ありがとうございます。」
軽く会釈をしてその到着地となる島を見つめた。
木々が茂り、遠目に見える森の青葉が島らしさを引き立てていた。
「少年。不安なこともあるだろうけど頑張るんだぞ。」
その一言を言われた瞬間、おじいさんが青年に見えた。俺の何かを見透かしたような瞳はどこまでも真っ直ぐだった。
「はい。頑張ります!」
久しぶりにした精一杯の笑顔でおじいさんの期待にこたえようと心から思った。
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