第7話 ボス襲来


「出てきたのはいいけど………、どうしてくれようかこの状況」



 俺達はさすがにこのまま奴らの好きにさせることもできず、勢いよく外へ飛び出していった。だがしかし、数が多すぎた。いつもは見えるお向かいの家の一階部分が完全に『クオーラルズ』の集団で埋め尽くされていた。道路の幅はかなりあるはずなのだが。誰だ、20人とかいうデマを流した奴は。30人近くいるぞこれ。


 この分だと、いくらマチレスがいても、俺が足手まといになりそうだ。近隣住民は窓ガラスが割られた音を聞きつけてなのか、外に出てきたり、ベランダから覗き込んでる者がいる。ギャラリーがいないほうが目の前のことに集中できていいんだけどな………。そうはいっても、起きたことは仕方がない。


「おいこらお前ら、近隣住民のことを考えろ。こんな夜遅くに人の家の窓ガラスを割るんじゃない」


 俺はなるべく冷静を装い、一番先頭にいた男に話しかける。あ、よく見たらこいつ、朝マチレスにワンパンされていた男だ。


「はっ、そんなの俺らの勝手だろうが。それにしてもなんだ、お前の手に持っている物は。そんなんで俺らとやりあうつもりか?」


 そう言い、そいつは俺に刃物をぎらつかせてくる。いや、これは護身用であって、俺は前線に出ないつもりだったけど。なんか誤解を招いてしまった。くそ、やっぱり持ってこないほうがよかったのか?

 俺は横にいるマチレスに視線を落とす。目が合うと、マチレスは俺が置かれている状況を察してくれたのか、少しため息をついて一歩前に出る。


「えーと………あまり手荒なことはしたくないんですけど。これ以上ちょっかいかけてくるようであれば鞘から剣を抜きますよ」


 そう警告をすると、男は少し苦い顔をする。

 そりゃそうだ、朝やられたばっかの相手にもう一回ボコされるのは誰だってごめんだよな。メンタル的にもきつい。お、そう考えるともうこれ以上手を出してこないんじゃないか?



「待て」



 男の後ろのほうから、低くずっしりとした声が聞こええた。俺はドキリとして、男の後ろに視線を移す。道を埋め尽くすほどいた『クオーラルズ』の奴ら全員が道を開け、その声の主がこちらへと近づいてくる。やがて俺たちと対話していた男も端へとよけた。



「お前らか。銀の首輪のマチレスと、ねり飴とシュークリームが好きな小僧というのは」



 そう言って現れたのは、全身がとても大きい鬼のような見た目をした奴だった。周りの奴らの反応を見る限り、こいつが『大アニキ』とかいう奴だろう。角や牙が生えているところを見ると、依頼人と同じように別の種族の血が入っているのだろうか。

 ……というか、俺の肩書だけめっちゃダサい。なんで?舐められそうですごく嫌だ。

いや、もう舐められているんだろうな………。


「そうですが、何の様でしょう」


 と、マチレスがそいつに返事をする。というか、マチレスとこいつの身長差えぐいな!大人と小学生が話してるみたいな感じになっている!それでなんで顔色一つ変えずに話せるんだよ、すごすぎだろ!


「俺の名はガノン、2代目の『大アニキ』だ。いやあなに、俺んとこの奴らがあんたに世話になってるみたいだからなあ。どんな奴かと思ってきてみれば、大したことなさそうな奴らだな」


 うわぁ………、フラグ立てちゃったよ。そんなこと言ってマチレスにボコられて終わるとかシャレにならないって………。『大アニキ』の面目丸つぶれだよ………。


「大したことない、ですか」


 マチレスが少し低い声でそうつぶやく。

 …………あ~もう、『大アニキ』終わったわ。


「私の評価をいくら下げてもらっても構いません。ですが、ユウトさんのことを悪く言うことは許しません」


 うんうん、そうだよね………じゃなくって!


「え、俺!?」


「ほう、そんなにやつなのかこいつは………」


「ええ、あなたなんかよりよっぽどですよ。そうですね、例えば―――」


「ちょっとまてっ!」



 嫌な予感がする。俺はマチレスの耳元で、今から何を言おうとしているのか問いただした。


「なあ、お前今から何言おうとしてたんだ?もしかして、俺が飯をおごったとかいうクソしょうもないことを話す気じゃ………」


「え、その通りなんですけど。なんです、何か問題が?」


「問題大ありだわ、あぶねえな!」


 よかったわ、確認しておいて!これ以上変な肩書増やされるのはごめんだ!


「ほう、簡単に言いふらせないほどの偉業を成し遂げた奴なのか………」


 こっちもこっちでなんか勘違いしてらっしゃる!!………いやでも、あながちこれはチャンスかもしれない。


「………そうだな、確かに俺は強い。その気になればお前ら全員相手にできるほど」



 ………相手にはできる。瞬殺だろうけど。う、うん、嘘は言っていない。



「だが、それだとあまりにも俺の力が強大すぎて、周りの被害が大きくなるからな。そこで、提案なのだがここにいるマチレスと戦って、マチレスが勝った場合にはこの店から手を引いて頂きたい」


「ふん、いいぜ」


「え、聞いてないですよそれ!第一、あなたが戦っているところみたことがないですよ!?」


 悪い、聞いていないのも無理はない。今言ったからな。

 それにしても、マチレスならノリノリで引き受けてくれると思ったのだが………もう一押しか。



「これで勝てば、噴水の近くの店で売ってる美味しいパフェをおごってやる」


「やります」



 マチレスは快く引き受けてくれた。

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