第6話 対戦準備

 さっきの客の対応をして暫くした後、俺たちは宿屋の会計前である議論をしていた。


「もうぶっちゃけあれだ、店畳んでさっさと逃げようぜ」


「いやいや何言ってるんですか、今日開店したのに今日閉店する店があるもんですか!」


「よそはよそ、うちはうち」


「それ絶対このタイミングで使う言葉じゃないですよっ!」


 

 ――――そう、不良グループである『クオーラルズ』絡まれてしまったので、それをどうやって対処するかの議論だ。正直人数多そうだし、俺弱いし、もうこれ以上変なことに巻き込まれたくないし…………。そんなこんなで撤退することを案として出してみたが、マチレスに却下されてしまった。

 いやもうさ、イグルーみたいにして、各地転々としていたら奴らもあきらめると思ったんだけども。


「そんな逃げるような真似して何になるのです、売られた喧嘩は高値で買い取るのが筋ですよ!!」


「諦めが肝心って言葉、聞いたことはあるか?」


「むむむ………!」


 そんなことを言っているうちに、カールさんがついに口を開く。


「そもそもお二人、『クオーラルズ』はご存知なのですか?」


「「いいえ?」」


「そ、それだったらまずは知ってる人に聞き込みをしてから話し合おうか………」


 と、カールさんが少し呆れた顔をしながら言ってきた。

 まあ確かに。カールさんのいうことももっともだ。ここは地元の人たちから情報を聞き出して議論したほうがよさそうだ。そうじゃないと、いつまでたっても決まりそうにないし。

 

 ということで、俺とマチレスは外に聞き込みに行った。市場のおじさん、通り掛かった主婦、唐辛子をオクラと間違えて食べて口から火を吐いていた人等々。そこまで有力な情報とは言えないが、聞いてみてとりあえず分かったことがある。


 まず、『クオーラルズ』の連中は武器の性能が恐ろしくいいだけで、戦闘スキルはいうほど高くはないらしい。人数も20人程度と俺が思っていたよりも少なかった。  

 しかし、奴らが言っていた『大アニキ』とやらの情報は一切出なかった。それらを踏まえ、俺達はもう一度話し合いを行うことにする。


「うーん、意外とこれ勝てるんじゃないのか?」


 俺は先ほどと意見を変え、カールさんとマチレスに今後どうするか改めて投げかける。


「もちろん、この私にかかれば朝飯前ですよ!」


「マチレスさんがいうのなら、問題ないとは思いますが………」


「よし、じゃあここで奴らを迎え撃とう」


「おー!」


 と、マチレスが気合の入った声を上げる。その顔はどこか楽しげだった。どこに喜ぶ要素あった?戦闘狂なのか?そんな喜んでいいものじゃないんだけどなぁ…………。

 『大アニキ』とやらの情報はなくて不安だが、そのほかのチンピラは戦闘狂(?)のマチレスにかかれば余裕だろう。

 とにかく、いつ『大アニキ』とやらが攻めてくるかわからないし、俺も一応戦う用意をしておくか。


「カールさん、なんか戦えるのに使える道具とかありませんか?」


「え、ああ。確か物置に鍬があったはずですが………」


「それ、借りてもいいですか」


「かまいませんよ。あ、それとユウト君。物置は玄関から出て左のほうにあるから、気を付けてとってきてくださいね」


 俺は物置にある鍬を取りに行くために外に出る。あ、今更だがどこから襲われてもおかしくないからマチレスと一緒に来るべきだったか。そんなことを考えながらも物置に到着する。

 俺は少しきしんだ扉を開けると、早速鍬らしきものを発見する。割とすぐ見つけられてよかった。俺は鍬を取ろうと手を伸ばして――――


「ん?」


 何か、左腕に違和感を感じた。なんだろうと見てみると。


「あー、なんだ。腕時計か」


 そこには、家を出る前に「つけていけ」と父さんがとってきてくれた腕時計があった。しかし、大分薄汚れている。更に、時計の針が止まっていた。どうやら電池切れの様だ。………そこまで雑に扱ってたか?いや、地震があった時どこかにぶつけてしまったのかもしれない。どこかにぶつけてしまったことで薄汚れたり、針が止まってしまったのかも。


 俺は鍬を取り、物置から出て宿屋に戻る。あ、帰ってから汚れでも落とそうかな。俺は腕時計を外そうとベルトのほうを見たところ。


「………なんだこれ」


 少し緩めにつけていたはずのベルトが、腕にきつく巻いてあった。

 ………あれ。俺ここにきてから腕時計いじったっけ?いや、そんな余裕はなかったはずだ。となると………。


「誰かが…………?」


「あ、ユウトさん。見つかりましたか?鍬」


 俺が考え事をしていると、マチレスが外に出てきた。ほうきを持っているので、また落ち葉をはわくようだ。


「ああ、見つかった。心もとないけど、何もないよりいいだろ。あ、そういえば」


「?何ですか」


「お前俺の腕時計について何か知らないかって、知ってるわけねーか」


「…………」


「いや、悪い。何でもない、忘れてくれ」


 なーにいってんだ俺は。マチレスが知ってるわけないのにな、何を思って聞いたんだか。仮にマチレスが俺の腕時計いじったとして、何の得があるってんだ。



「………回収、していなかったのですね」



 すると、後ろからボソリとマチレスの声がした。


「ん、聞こえなかった。なんて言った?」


 考え事をしていたので、マチレスが何と言ったのか聞き漏らしてしまった。俺は、振り返ってもう一度マチレスに話しかける。


「いいえ、別に。ただの独り言です」


「あ、そうか?ならいいんだけど」


 俺は気になりつつも、宿屋に戻ることにする。

 マチレスは外をはわきに出たかと思ったが、特に何も落ちていなかったのか直ぐに戻ってきた。



 その後は『クオーラルズ』の襲撃に警戒しつつも特に何事もなく、とうとう日が沈み夜になった。そこで俺達は、各自寝床に戻って軽く仮眠をとることに。マチレスは雇い主の扉前で待機。もうこのまま来なければいいな~、なんて思っていると。


「オラオラオラァー!出てこいやぁ、練り飴とシュークリーム好きの小僧ーっ!」


 …………気のせいだな、うん。


 いやまあ一応?一応鍬を持って玄関前に待機しておくけど?練り飴とシュークリーム好きな小僧とやらは他にもいるかもしれないしな、この世界のどこかに。それに、クオーラルズが狙っているのは依頼をしたあの男性のはず。俺が狙われるわけがない………あ、ガラス瓶がある。一応持っておこう。俺がそんなのんきなことを考えていると――パリンと、横の窓から音がした。

 見てみると、石か何かが投げ込まれたことによって窓ガラスが割れている。その音に反応して、マチレスが二階から降りてくる。はあーーっ。これは、避けては通れないイベントらしい。



「行くか」



 俺は恐る恐るドアを開けて、マチレスとともに外へ飛び出した――――

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る