第二章7話 日常編:朝練
翌朝、親父の道場。
平屋造りで、純日本家屋って感じ。
雰囲気的には、田舎道場って感じだな。
流石に建てたばかりなので、まだまだ檜の良い匂いがする。現在、午前5時45分。
「師匠、おはようございます。」
「お父さん、おはようございます。」
「義父さん、おはよー!」
玄関を潜り、声を掛ける。
「おぉ、お前達も来たか! おはよう。 相変わらず仲が良いな。」
そう、今、俺たちは、三人で会社から徒歩15分ほどの所に家を建て、そこに住んでいる。 三人でと言うのは訳がある。
前に住んでたマンションに凉香義姉が転がり込む形で始まった共同生活。
ある日、凉香義姉から想いを打ち明けられた時は、戸惑った。
しかし、仁絵の強い勧めもありそれを受け入れた。「凉香姉様だから、許したんですよ!」だそうだ。
彼女が18歳、俺が16歳、仁絵が14歳までは同じ屋根の下で生活してた訳だし、嫁同士仲が良かったし気心も分かっていて、と言うのもあったんだろう。
もちろん、2回目の血魂式もやることになった。これからも三人長い時を過ごすのだから、やって欲しいと凉香に頼まれた。
この時は、仁絵が承認役をやった。
そんな訳で、俺は今、新婚さんなんだ。
「大和、おはよー!」
「うーす!」
「大和君、凉香さん、ひーちゃん、おはよー!」
「社長、副社長、凉香さん、おはようございます。」
「「「おはよう(おはよー!)」」」
あれ? なんで、葉子さんが? そう言えば、葉子さんも瑞希もなんだか肌がツヤツヤしてるような?
なんか、隣で嫁同士が「あぁ」とか「遂に!」とか言ってるな。
「お前ら、そろそろ始めるぞ!? 準備は、良いか?」 と親父が言う。
「まずは、ラジオ体操第1から〜!」
チャンチャッカチャチャチャチャ…とお馴染みの曲がラジカセから響く。
その後、各自ができる早さで15分間のハイスピードマラソン。
あれ? 瑞希と葉子さんが動きにくそうにしてるぞ? ちょっとガニ股だし…。
「おい、瑞希、葉子さん、体調が悪いなら見学でも良いぞ?」
「えっ、んっ、だ、大丈夫よ! 決して、体調が悪い訳じゃないの…。」 と瑞希。
「葉子さん、無理しない方が…。」
「トモ、アンタが言うな!」 顔を真っ赤にして葉子さんが知仁に抗議してる。
考え込む俺に凉香が俺の背中を突き、耳打ちする。
「大和、そっとしておいてやりなさいよ。 ようやくハコさんも瑞希ちゃんも大人の女性になったんだから!」
「・・・、あぁ、なるほどね!」
「全く、鈍いわね。」
仁絵と顔を見合わせて苦笑いをしている。
・
・
・
「な、なに、これっ! 」
「まじっ、キツイんだけど…」
「…。」
道場の床に倒れ込み、肩で息をする宏樹、瑞希、葉子。
「いや、こんなん普通でしょ?」
「「うんうん。」」
「慣れればその内、余裕ーっしょ!」
「トモっ、あ、あとで、あんた、はぁはぁっ…。」
「これで、分かったか?これが、二年間の差ってことが。」 親父が静かに言う。
「5分休憩後、各自の修練に移る。時間、30分。 続けて組み手だ。」
「「「「おうっ!」」」」
「「「・・・。」」」
15分の修練に俺は、槍と刀を選ぶ。
まずは、いつも通りに槍の型をなぞり、次に演舞。それが終われば、刀の型と居合いをなぞる。それぞれ半分ぐらいずつか。
嫁はそれぞれ、短剣と格闘による型をなぞってるな。
宏樹と瑞希には、親父がついて指導をしている。盾の効率的な使い方を復習しているようだ。
親父が木製のロングソードを持ち、宏樹と瑞希にやはり木製の丸盾を持たせて、殴りつけている。受け止める場合は、如何にそのショックを和らげるのか、受け流す場合はどう言う角度で受け流せば、相手の姿勢を崩すことができるのかを身体で覚えこませている。
一朝一夕では無理だが、毎日やり続ければ覚えるはずだ。
知仁とハコさんは、回避の練習のようだ。軟式テニスボールを知仁が連続で投げ、ハコさんが避けるというものだ。知仁も休みなく投げるから、ペーパー5級シーカーのハコさんでは随分キツイはずだ。 基本、ハコさんは会社で事務仕事ばかりなので体力はさほど無いと思っていたから、案の定って感じだ。
さて、組み手だ。
うちの道場、基本的に魔法師と言えど格闘は必須なのだ。
親父と俺は、親父がトンファー、俺が槍を使っての組み打ち。
仁絵と凉香は、無手による組み打ち。
宏樹とハコさんが楯とショートソードで。
知仁と瑞希が短刀と杖での組み打ちだ。
宏樹と瑞希、知仁と葉子さんをバラしたのは、親父の命令。カップル同士だと無意識に手加減が生まれるからだとさ。
「大和、先手で打ってこい。」
「了解!」
俺は木槍を正面中段に構え、親父の顎を真っ直ぐに突く。親父は左手のトンファーで受け流し、右手で腹を突きにくる。
俺は木槍を回して石突で、親父の足を払いに行く。
親父はそれを足の裏で止め、両手で頭を挟み撃ちに来た。
それを俺は、屈んで避けようとしたところに側頭部に蹴りが来て、一戦目が終了。
うーむ、相変わらず勝てねぇ…。
「続けるか?」
「親父、もう一丁!」
「息や良し!」
「いざ!!」
俺は、中段右半身空けて木槍を構える。
親父は右手を腹前、左手を首前を斜めに構える。
「参る!」
裂帛の声と共に親父が駆け寄る。牽制のため、下突きに見せかけて、そのまま穂先を上に切り上げ、右足を親父の側頭部目掛けて回し蹴り。
親父の反応が一瞬遅れたかのように見える。
まさかのギリギリのところで、親父がトンファーを二本揃えて受け、反射的に横へ跳び、蹴りの威力を殺すと共に着地して二回三回と転がる。
「いやぁ、参った参った。 初めて一本取られたな。」
「親父、大丈夫?」
「おぉ、大丈夫だ、心配するな。 おちちちっ、俺も年かねぇ?」
二人とも、なんだか毒気が抜けた感じだ。
他のみんなも俺らの方を注目して、手が止まってるし。
「おう、お前ら、何時から観てんだ? 今サボってた分、延長だぞ!」
と親父。
この後、30分以上、しっかり組み手に付き合わされたのは言うまでもない。
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