第二章4話 名古屋駅ダンジョン ~リザルト
一泊二日の名古屋ダンジョンで、俺たちは一階層から30階層までをクリアした。
特に30階層で倒したフロアボスのサイクロプスとジャイアントスコーピオン二匹は、ドロップアイテム以外に宝箱も出ることとなった。
俺たちの目の前には、幅が2m、奥行き1m、高さ70cmほどの割と大きめの木製の宝箱が鎮座している。蓋の四隅と底の四隅は金属製の補強金具が取り付けられている。
「おいっ、おい、宝箱っ! 出たよ出たよ!! さぁ、何が入っているのかねぇ?」
「知仁、慌てんなって。 罠が作動したら、どうすんだよ?」
俺は知仁に注意する。
「警報かなぁ? なら、もう一戦やれるのか? 俺、暴れたりねぇぞ?」
「調子に乗るんじゃない!」
親父が知仁の頭に拳骨を降らせる。
「痛ぇっ! なにすんだよ、オヤッさん!!」
「さっき褒めたばっかりなんだが、取り消させてもらうぞ。」
と親父は苦笑交じりに言う。 パーティー一同に笑いが起きる。
先程まで、戦闘後の興奮と失敗の息苦しさがあったのだが、親父と知仁のお陰で
緩和した感じだ。
ありがとうな、知仁。
「取り敢えず、サイクロプスの魔石とジャイアントスコーピオンの魔石が2つよ。」 と仁絵。
「他には、焼けた蠍の外殻、粉々になった外殻ぐらいかしらね。ゴミ扱いだわ。義父さん、焼け蠍の肉って美味しいの?」
「まぁ、エビに近いとは聞くが食べたいと思わんだろう。」
凉香義姉と親父の間で交わされるグルメ談義というかゲテ食い談義が始まりそうなんだが。
「えっ、食べられるんっすか?!」
「まぁ、一応な。 昆虫型や蜘蛛なんかは似た味と言われるな。 ほら、あれだ。
エビやらイナゴの佃煮のアッサリ目なヤツに近いか。」
おいっ、知仁、お前も乗るんじゃないよ!!
「知仁、取り敢えずコイツに罠がないか見てくれないか?」
俺はそう言って、知仁を妙なグルメ談義から逸らせることにする。
「良いぜ、ちょっと待ってくれ。」
そう言って、知仁は腰に付けたポーチの中から解錠道具を一式取り出し、広げる。
「さぁて、可愛い子ちゃん、君の秘密を教えてくれないか?」
最初は虫眼鏡を使い、蓋の周りや鍵穴周辺をつぶさに観察する。
次に金属製のピッキング用の金属片を両手に持ち、まずは一本、鍵穴に差し込んでいる。そして、もう一本を鍵穴に差し、角度をつけてゆっくりと回してみたりする。
「あぁ、そうだぜ? ここが良ぃんかい? なら、ここをこう攻めてやるよ! で、ここをこうして…、ほら、イキそうなんだろ? イケよ!!」
側から聞いているとなんだか男女の睦事のようにも聞こえるが、知仁のを聞いて
いると女性陣がその都度顔が赤くなっている。
「なぁ、知仁。毎回それ言わなくちゃ、ダメなのかい?」
生真面目な宏樹が訊く。彼もやはり顔が赤くなってる。
おかしいなぁ、俺たちの中で一番早く彼女を作ったんだから、それなりに経験者の
はずなんだが? 解せぬ。
そして、少しの時間の後、ガチャと宝箱の鍵が無事に開いた。
みんなが中を覗き込む。
箱の中にあったのは、八本のガラス瓶に入った液体、スクロールが三本、短刀が一本。刀が一振り、幾つかの宝石と数十枚の硬貨だった。 思ったよりも隙間がある。が肝心なのは、その価値だ!
「「「わぁっ!」」」
と声を上げる女性陣。 お目当ては、宝石かな? へぇ、少なくとも1.0ct以上の
ものが5個はありそうだ。 取り敢えず、一個ずつは女性陣に渡すとして、残りの二つはイギリスの家族に渡すか? 要相談だな。
「仁絵、取り敢えず、トレジャーボックスに収納を頼む。」
「はい、あなた。《トレジャーボックス》収納」
仁絵の横に光る渦巻き状のものが出現し、次々に収納していく。
「よし、それではポーター魔法陣がこのエリアにあるはずなので、それを探す。
そして、今回の訓練を終了とする。 宏樹と瑞希は、明朝、道場へ出頭する
こと。 では、ポーターを探そう!」
皆の「了解」の声で分散し、目的のものを探すことにする。
結局、30階層を離れたのは、それから10分後だ。
名古屋駅ダンジョンの管理棟内にあるポータールームを出、揃って、ホールへ向かう。
相変わらず、親父に肩を貸しているのは言うまでもない。
**************************************
俺と仁絵が孤児院から独立してから、実に様々なことが起きた。
日本シーカー協会の不正が世界的に明らかになり、その国際的権威の失墜と
国内でのシーカーの大規模な離反が起きたのも、そんな出来事の一つだ。
この事実が明らかになるには、俺の嫁さんとお袋の力が働いた。
そもそもの話は、俺が仁絵に対して「魔石の単価が安すぎじゃねぇ?」と冗談
めかして言ったことが発端だった。
彼女は、日ごろからインターネットを介してやり取りのある国際シーカー協会、アメリカ合衆国ニューヨーク市支部長、イギリス・ロンドン市支部長、フランス・パリ市支部長など、旧G7加盟国の主要都市支部長に魔石の国際取引価格の情報整理を
依頼し、国内取引価格と比較した。
そして、日本国内のシーカーがかなりの割を食っていることに気づいた。
それを養父母である源三、エミルに報告して相談した結果、国内の上位シーカーに連絡を入れ、シーカーによるシーカーのための保護団体を設立した。
そして、ダンジョンのレベル、得られた魔石の大きさと数量、買取価格の情報収集を行い、サンプルを表にまとめた。
協会の手口としては、各ダンジョンの管理棟の支部長が、魔石強制買い入れの際の
価格を世界基準の五分の一にし、その事実を長年公表しなかった。
分かりやすい例を出すなら、買取価格10万円の魔石は、本来であれば50万円が
適正である。その中から、魔石取引税の35%が源泉徴収されても、32万5千円が手元に残る。 だが、日本シーカー協会は、買取価格の10万円から魔石取引税を引き
6万5千円しかシーカーの手元に残らないようにしていたのだ。
シーカー保護団体は、その調査資料を元に日本シーカー協会に団体交渉を持ち
かけたが門前払いを受けた。
その上部組織のダンジョン庁、経済産業省、国税庁、財務省、与党・自由国民党、
公正党、野党各党、日本政府にも交渉を持ちかけたが、一切取り合うことは
無かった。
そこで、お袋と仁絵は、
勿論、他国のシーカー協会の思惑もあろうが、現状をとりあえず打破したいと
考えた保護団体は窮余の策として、あえてその道を選ぶことにしたのだ。
国際シーカー協会は、国連の外部組織であるので、日本国内のシーカーの人権調査が調べられ、即座に勧告が発せられた。
G7の場でも、議題に日本の人権問題について取り上げられ、その中でシーカーの人権の保護が各国から出され、その要求を日本政府は飲むしかなかった。
結果を書いておくとだ、日本政府、与野党、地方議員、財務省、国税庁、
経済産業省、ダンジョン庁、日本シーカー協会、大手商社を巻き込んでの21世紀
最大の疑獄事件へと発展した。
一時期、警察署にも留置所が足らず、凄いことになっていたらしい。
時の政権は総辞職し、国民に信を仰ぐと解散総選挙に打って出た。
野党系が選挙には勝利したものの、逮捕者には野党幹部も十数人含まれているため、
新しい政権になってもなかなか調査が進まなかった。
その過程で、俺の家族や友人たち、会社、取引先、シーカーのみんなにも意味の
無い誹謗中傷や圧力が沢山あったが、その都度、警察への告発や裁判によって、
正しいことが証明され、賠償金を得ることができた。
ただ、裁判で勝訴しても、嫌がらせは続く。
やれ、遊んで金を得てるだけだの、亜人の癖に!だのだ。
両親は、年少組の身の危険を感じたので、お袋のエミル、義隆、夢香、華香、
静香、優を連れ、イギリス・コーンウォール州へ移住。父は、孤児院を信頼のおける友人に預け、道場を建て今ではそこに住むようになった。
今の日本シーカー協会は、国際シーカー協会の指導の下、組織を再編し主に
ライセンスの発行、昇級の管理、ダンジョンの入退場の管理を主に行う組織へと変革中だ。当然、魔石の強制買い取りも無くなっている。
**************************************
「株式会社日本シーカーズ・ギルド本社の皆様のパーティーですね? 探索お疲れ様でした。 魔石の確認を致します。 取得魔石表と魔石の提出をお願い致します。
また、武器類の安全カバーの希望数量をお願いします。」」
仁絵は、魔石をトレジャーボックスから出し、プラスティック・トレイに載せる。
「載せましたので、確認をお願いします。安全カバーは持ってきているので必要
ありません。」
今までのシステムと違うのがまず、これだ。シーカーは、探索で得た魔石の
大きさ、数を取得魔石表に書いて協会に提出し、実数との照合を受けなければ
ならない。また、これまで使い捨て同然だった安全カバーは、任意になった。
値段は変わらないけどね。俺たちは、いそいそとそれぞれの武器に安全カバーを取り付けていく。
「ありがとうございます。確認致しますので、しばらくお待ち下さいませ。後程、番号札でお呼びいたします。」
受付タグをもらい、しばらく、ホール内の喫茶店や売店に分かれ時間を潰して
いる。
「お待たせ致しました。 魔石の確認ができましたので、控えと魔石をお返し致します。 今回の査定額で昇級された方はいらっしゃいません。 次にドロップ品の確認です。こちらで査定し買取もいたします。そちらで鑑定されるのも構いません。」
「ありがとうございます。魔石を先に収納します。 ドロップ品はこちらで鑑定し、取引先に売却します。」
「かしこまりました。 またのお越しをお待ちしております。」
「ありがとうございます。」
こうして、俺たちは名古屋駅ダンジョンを後にし、会社へと引き上げるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます