第二章3話 名古屋駅ダンジョン 〜 30階層フロア攻略完了
タッタッタ、29階層の階段を降り、30階層に降り立つ。
知仁の報告にあったように、前室は仄かに明るい。
「それじゃ、瑞希、バフを頼む。」
「判ったわ! 《シールド》《ストレングスアップ》《アジリティアップ》」
前衛の親父、知仁、そして俺にバフが掛かる。
「《ヘイスト》」
仁絵が、全員に攻撃回数、移動速度、詠唱速度を早めるヘイストをそれぞれに掛けた。これは、知仁も掛けられた。
これで、更に攻略が楽になるだろう。だが、油断は禁物だ。
「ふん《隠形の術》」
知仁が再度、
先にボスのいるエリアへと進む。
やや遅れて、宏樹、親父、俺の三人がボスエリアへと進む。
知仁は、そろそろエリアの半分まで進んだのか?
タイミングを見計らい、仁絵、凉香義姉、瑞希もエリアに進む。
それを見て、俺たちもエリアの半分辺りまで歩を進める。
仁絵、凉香義姉が俺たちのいる辺りまで、ラインを上げる。
サイクロプスとサソリの姿を視認。
すると、突然、サイクロプスの目の辺りから、ガッシャーンと何かが割れる音が
聞こえると同時に広い範囲で火が着いた。
粘り気のある可燃性の液体は簡単には消えず、一つ目の巨人は、熱さと痛みに
苦しんでいるのか雄たけびを上げる。
そして、サソリから落ち、ゴロンゴロンと転げまわっている。
その怪力の為か、石畳が割れ破片が辺りに散らばる。
サイクロプスが落ちることにより自由となった巨蠍二匹が、一丸となって俺たちの方に接近してくる。
「大和、宏樹、前に出ろ。 尾の毒には気を付けろ!」
親父の指示が飛ぶ。
「「おう!」」
掛け声とともに、最前線へ向かい、ジャイアントスコーピオンと接敵する。
両の鋏を振り上げ、一緒に俺めがけて叩きつけてくる。
ヘイストの効果により、それぞれの鋏を簡単に避ける。
もう一方のサソリは、宏樹に対して尻尾を振り上げ毒を喰らえとばかりに突き刺してくる。大盾でそれを受け流し、長剣を叩きつける。
尻尾の甲殻の隙間を見つけ、肉を切り裂く。が、切断までは至らない。
「下がって!!」 仁絵から指示が飛ぶ。
速さを生かし、宏樹と共にバックステップで巨蠍から距離を取る。
「凍てつきなさい!《アイスエイジ》」
凉香が自分の杖を掲げ、呪文を詠唱する。
俺と相対していたジャイアントスコーピオンが、真っ白に変色を始める。
初めは動きが鈍くなったぐらいにしか感じなかったが、やがて厚さ15cmほどの氷に覆われ、やがて粉々に崩れ落ちた。
《アイスエイジ》は、水の派生魔術の氷系呪文の上から2番目の呪文に当たる。厚みのある氷に対象を閉じ込め、極低温で永続ダメージを加えるというもの。
氷系の攻撃呪文は、上から
《コキュートス(氷地獄)》
《アイスエイジ(氷河期)》
《アイスストーム(氷嵐)》
《アイスジャベリン(氷槍)》
《アイスボール(氷球)》
《アイスアロー(氷矢)》
《アイスバレット(氷礫)》
となる。
「燃え尽きよ!《ファイヤーストーム(焔の竜巻)》」
途端に宏樹に接敵していた巨蠍を中心に渦高く焔を帯びた竜巻が発生する。
《ファイヤーストーム》は、文字通り高熱を帯びた焔の竜巻だ。火系攻撃呪文では、上位に当たる。約3mの直径の範囲でなら、留まらせるのも移動させることもでき、攻撃を受けたものは30秒間の持続ダメージを受ける。
焔に包まれたジャイアントスコーピオンが尻尾を宏樹に向けてきた。
宏樹は、それを受けようと盾を前に出す。
だが、死の間際の一撃というのは途轍もなく重いもので、宏樹の盾を割り、毒針が腕に突き刺さる。
うっうぐ…。
宏樹がうめき声を上げて、その場に倒れ伏す。
「バカがっ!」
急いで駆け寄る親父と俺。
「大和、そいつを連れて後ろへ下がれ。」
「おぅっ!」
宏樹を肩に担ぎ、瑞希の元へ連れてゆく。
前に出る親父。
「あぁ、宏樹、宏樹っ!!
宏樹が死んじゃう!
ど、どうしよう…。」
パニックに陥る瑞希。 目を瞑り、ガクガクと震えるばかり。
「瑞希、すまん!」
「ぱーんっ!」
ある程度の強さで彼女の頬を張る。
「・・・。」
「瑞希、針を抜いたら、ヒールとキュアポイズン。できるな?
「・・・。」
「瑞希っ!」
「ごっ、ごめん、分かった!」
俺は半龍化した手を元に戻し、思い切り引っ張る。
ぐぐぐ・・・っ、ズリズリっ。
「ふん・・・!!」
力を入れて再度引くと、毒針が抜け落ちる。
「傷を癒せ!《ヒール》」
「毒を癒せ!《キュアポイズン》」
傷口が塞がり、毒により紫色に変色していた皮膚も元の色を取り戻したようだ。
「この野郎!」
最前線の親父が真っ赤に灼けたサソリの尻尾に抱き着き、力任せに引きちぎり。
GIiiiii…
と悲鳴じみた声をあげて、その場から逃げようとする。
すかさず、俺もそれに近づき、槍スキルを発動する。
「喰らえ、《刺突》三連」
槍スキルの《刺突》は、通常の突きにより攻撃を更に早く威力を強めたもので、
一度に使う回数を増やすことで、更にその威力を向上させることができる。
槍は、ジャイアントスコーピオンの目と目の間に深く突き刺さり、やがてそれは動きを止めるに至る。
倒れたサイクロプスは、両手をつき、片膝を立て、立ちあがろうとしていた、
「
声と共に九条が姿を現し、高く跳躍し、サイクロプスの影の輪郭に沿うように何本もの飛び苦無を放つ。
《影縫い》は、忍者固有の特殊な攻撃スキルで、対象の影に苦無などの武器を放ち、さも、その影を影を大地に縫い付け行動不能とする。
「動くんじゃねぇよ! 今、お前に動かれると困るんだよ!」
九条の声に続き、
「《アイスジャベリン》《アイスジャベリン》」
凉香の詠唱が二度、響く。
《アイスジャベリン》は、上から4位の呪文であり、行使されると目標に向かってかなりの速さで飛び、突き刺さる。そのスピードは、下位の氷呪文の中では最高速で
ある。ダメージは、直接のダメージと突き刺さった周辺30cmに1分以内の追加ダメージを与えると言うものだ。
ドスッ、ドスッと鈍い音が響き、サイクロプスの大きな目に2mほどの氷の槍が突き刺さる。
サイクロプスは、痛みから逃れようと両腕を振り回し、氷の槍を途中からへし折る。 その破片が扇状に上方に飛び散り、知仁に当たる。
「くっ、、、。」
九条は、小さく呻きを上げ瞬時にその場を離脱し後方に移る。
「仁絵、強打!だ」
親父は、荒い声で仁絵に《ストライキング(強打)》の呪文行使を指示する。
《ストライキング》は、無属性の攻撃呪文である。武器や拳、足などに掛け、攻撃がヒットした時に本体の攻撃ダメージ以外に追加のダメージを与えるものである。
「《ストライキング》!」
親父の両腕が鈍い光を放つ膜に覆われる。仁絵の呪文が発動したらしい。
親父は、サイクロプスの折り曲げている膝を足掛かりに飛びあがり、
「喰らえ! 《金剛撃》」
とてつもなく重いフックを氷の槍の断面に何度もぶつける。
幾度か、サイクロプスはその太い両腕で親父を払い落とそうとするが、次第に
その力が失われていく。
最後の最後の一払いが親父に当たり、吹き飛ばされ石柱に激突する。
「ぐはっ、、、!」
強烈な音と同時に親父から漏れる息。
・
・
・
「親父、生きてる?」
「あぁ、なんとかな。」
「立てそう?」
「悪いな、手を貸してくれ。」
「ほら。」
俺は親父の腰のベルトを両手でしっかりと掴み、ゆっくりと立たせる。そして肩に腕を回して補助をする。
「オヤッさん、無事ですか?」
知仁が駆け寄ってきた。ところどころに、出血が見られる。
「お前こそ、ケガはどうだ?」
「こんなんは、かすり傷っす。大丈夫っす!」
「今日、初めて忍術を使ったとは思えん勝ったぞ! 忍びの極意はな、正面切って戦うようなものではない。 昔流行った渦巻き忍者みたいにな。 忍の本分は忍ものだ。 それを忘れるな! 派手さはないが、その働きは凄まじいと俺は思ってる。 頑張れ! 」
「「お父さん(義父さん)」」
「お前たちも、良くやったな! 凉香は、腕を上げたな。安心したぞ! さすが雪女の因子を持つだけはある。仁絵も魔法のタイミングや読みが良かった流石だな、安心できる。」
「会長、ご迷惑をお掛けしました。」
「すいませんでした。」
最後に宏樹と瑞希がきた。
「お前たち、大丈夫か?」
「はい、今回のことでどれだけ基礎が出来てなかったのかを思い知らされました。これから頑張りますので、ご教授をお願いします。」
「まだまだ、甘えや迷いがあったみたいです。また、いろいろ教えて下さい。」
「そうだな、今回のことを忘れるな。誰かが欠ければそれだけ危険は増すんだ。 失敗を糧にしろ、次に活かせ! なに、シーカーなんざ、辞めたければいつでも辞められる。 自分に負けないようにな!」
「「はい!」」
「じゃあ、ドロップ品を回収して帰ろう!」
親父が、このボス戦をそうしめた。
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