第17話 事件のその後と祝宴

「痛っ、」 


 帰り道、手を繋いで歩いていると、仁絵が小さく呻いた。

「どうした?」

 仁絵が制服の袖を捲り、掴まれていた手首を確かめる。


「あぁ、痣になってる。」

「クソっ、あの野郎! やっぱり潰しておくんだった…。」

「あの後、直ぐは無かったのに。」

と手首をさする。


「あなた、あなたのスマホで写真を撮って、先程の徳山さんに送ってくれる?」

「分かった。手首をこちらに見せて。」


 俺はスマホを取り出し、何枚も角度を変えて撮影し、徳山さんにもらった名刺に書かれたアドレスに写真を送った。


「もしもし、徳山さんですか? 先程はお世話になりました。神野と申します。

 えぇ、仁絵の夫の大和です。

・・・

 はい、彼女が掴まれていた手首に痣が、

・・・

 はい、病院へ行って、診断書ですね?

・・・

 はい、分かりました。

・・・

 はい、失礼します。」

 

 通話を終え、仁絵に

「これから、病院へ行って念の為に診てもらえって。あと診断書が欲しいそうだ。」

と告げる。


「うん、分かった。でも、とんだ一日になってしまったわね。ごめんね、あなた。」


 その後、自宅の義母に仁絵が電話をし、診察を受け帰宅する。

 玄関の外には、既に義両親が立っており、走り寄った義母が仁絵を抱擁する。


「良かった、本当に無事で良かったわ」

と何度もなんども彼女の顔を確かめていた。


「え、えぇーん、お母さーん」 義母の温もりに安心したのか、しっかりと仁絵は涙を流しながら抱きついていた。


「大丈夫、大丈夫、誰がなんて言ったって、貴女は私の娘なんだからね。 よしよし、もう大丈夫よ。」

 義母さんは、涙を溢しながらそう言う。


「お母さん、お母さん」 と何度も繰り返す仁絵。


 前にも言ったが、仁絵は6歳の時に実の母親からの酷い虐待を受けて、ここにやってきた。

 だから、義父、義母のことを「義父様」「義母様」と大人に対して、一歩距離を置いて接してきた。これで、ようやく本当の親子になれたのかな? 良かった良かった!


「よくやってくれたな、大和!

 美江ちゃんから連絡をもらった時、心臓が止まるかと思った。

 何か支障があってはと思い、学校へは行けなかった。済まなかった。」

 義父は、俺の肩を叩いて労ってくれた。


「さぁ、みんなで家に入ろう」

 義父さんがみんなを促し、中へ入っていく。

 義母さんと仁絵は、腕を組み合い顔を合わせて笑っていた。


 俺たち義親子が本当の親子に近づけたのかな? 俺は、それが非常に嬉しかった。


 さて、その後のことを書いておこう。


 容疑者として捕えられた仁絵のクラスメイトの佐藤は、留置場の中で憔悴しきっているらしい。

 傷害未遂と銃刀法違反が実質的な嫌疑のようだ。


 ヤツは決まっていた東大への進学も、その他の大学の進学も辞退した。

 校内での事件であり、軽く見ることができないと高校も退学処分となった。


 翌々日に佐藤の両親が手土産を携えて謝罪に訪れたが、義母に対応を一任して、俺たちは会わなかった。


 玄関先では、佐藤の両親が義母の前で土下座して謝罪していたが、

「そちら様の謝罪は受けますが、こちらとしては一切許すつもりはありません! お帰りください。」

 そう言って追い返していた。


 暫くあちらの両親は謝罪のために来ていたようだが、次第に姿を見せないようになったな。


 捜査が続く中で、俺と仁絵も名古屋地方検察庁と佐藤の担当弁護士から話が聞きたいと、呼び出しを受けた。


 捜査資料として高校から防犯ビデオの記録は提出されているので、供述内容の確認をしたいとのことだった。


 ただ、俺のシーカー3級が佐藤に対しての暴力行為として、佐藤側から告発を受けているらしい。

 あの首トンが暴力行為なんだとか。


 現場の状況から、人質の身体生命の保護と言う緊急避難だったこたとが認められる筈なので、告発自体が不受理または不起訴だろうと担当検察官が言っていた。


 ちなみになんだが、シーカー4級以上のライセンス保持者は、有段の格闘家としてみなされ、一般人への暴力は危険行為と見做されている。


 ある日、俺のスマホの着信ベルが鳴る。


「もしもし、愛知県警察中央署の徳山です。」

「あっ、もしもし、神野です。」

「ご無沙汰しております。仁絵さんは落ち着かれましたか?」

「いえ、こちらこそ。ありがとうございます。元気にしてますよ。 で、なにかありましたか?」

「いえいえ、特に悪い話ではありません。凶悪な犯罪を最悪な事態から防いだということで、大和さんが感謝状が出されることになりまして。」


 えっ、俺、表彰されちゃうの!?

日にちはまた後日連絡しますとのこと。


 さて、話は前後するが、その週の内に俺たちの周りも落ち着きを取り戻し、改めて、今日はナポリで卒業祝いのパーティーだ!


「あなた、そんな格好で行くつもりなの?」

「いや、良いじゃないか。知らない奴らに会うわけじゃねぇんだし。」

「私が恥ずかしいんです。お願い、こちらの方が素敵よ♪」 と薄い緑色のシャツと紺のジャケット、グレーのパンツを出してきた。

嫁さんのお願いには、勝てないや。

親父の気持ちがよく判った!


 二人でナポリの玄関から店内へ入ると、見事に飾られた店内に数日ぶりに会う仲間の顔。


「裕也さん、美江さん、先日はありがとうございました。」

「ありがとうございました。」

「何もなくて良かったわ!」

「義弟妹の為なら、造作も無いさ♪」


「ひーちゃん、もう大丈夫?」

「みーちやん、ありがとう!もう平気!」

両手を握りながら喜んでる女子二人。


「「よう!」」

「よう! この間はありがとうな。」

「よせやい、水臭い。」 と九条。

「無事に済んで良かったよ。」 と宏樹。


「さぁ、みんな席に座れ!! そろそろ始まるぞ!」 と裕也さんがみんなを促す。


「さぁ、みんなグラスを持ってね? 行き渡った?」 と美江さん。


「先日のご卒業、本当におめでとうございます。これからの皆さんのご活躍とご健康を祈念します。それでは、乾杯!」 裕也さんが音頭を取る。


「「「「「カンパーイ!!」」」」」

打ち鳴らされるグラス。そして、拍手。

 美江さんは、カメラを構えて写真を撮りまくってくれている。


こうして、楽しい宴が始まった。

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