第16話 迫る危機

 卒業式後に担任の芳川先生とクラスメイト全員で謝恩会では、大いに盛り上がった。

 やがて、楽しい時間はいつかは終わりを迎えるもの。

 これからのみんなの健闘と多幸を祈って万歳三唱で解散となった。


 宏樹、瑞希、九条と校門で仁絵が来るのを待つ。

「ちと遅くないか?」 と九条。

「悪い、様子見てくるわ」 と特進課の校舎を目指して走り出す俺。 たまに見せる本気の走り。


「仁絵さん、あんな奴と一緒になったなんて、嘘だよね?」

「本当です、私は既に大和さんと永遠の誓いを捧げあったんです! 離して!!」


 大きな声で拒絶する仁絵の声が、校舎裏から聞こえる。 

 俺の耳が嫁の叫び声を拾った。 

そちらへ猛ダッシュ。


「僕が高校に入って一度も首席になれないなんて、どんなインチキを使ったんだよ!」

「わ、私、そんなこと、してない!!」


「、、、そうだよ、・・・も言・・・。」


 仁絵は、どうやら背後から腕を掴まれ、捻りあげられてるのか?


「仁絵、遅いから迎えに来たぞ!」

「あっ、旦那様!!」

「お前、何しに来たんだ!彼女を騙してるんだろう。彼女と別れろ!!」


 ??? なに言ってるんだ、こいつ?

意味が判らん。


 そいつは、仁絵の腕を掴む反対の手でナイフを取り出し、振りかざす。


「彼女は、僕のものだ! 仁絵さんと一緒になれないなら、君を殺して僕も死ぬ!!」 ナイフを振り下ろそうとする。


「キャーーーぁ!!!」

「仁絵は、俺のだ! アホが!!」


 俺は、〈縮地〉でヤツの背後に回り、振り上げる利き手を掴み、手刀を首に落とす。

ヤツは、無様に昏倒し、意識を喪失したようだ。


「仁絵、怪我は?」

「う、うん、大丈夫。」

 余程怖かったんだろう、震える声でそう言う。

 ショックのせいか、彼女の両目から涙が溢れ出している。

「大丈夫だ、こっちへ。」


 俺は、そう言って仁絵を抱き締めて背中をゆっくりとさすってやる。

制服が涙で濡れるが、そんなの関係ねぇ!


「ありがとう、迷惑かけちゃったね。」

「気にするな、お前は俺の妻だからな。間に合って良かった。」 落ち着かせるように静かにそう言う。

「うん。」


 遅れて、宏樹たちがやってきた。

「大和、無事か?」 と宏樹が声を掛けてくる。瑞希は心配そうにこちらを見つめ、宏樹のブレザーを摘んでいる。

「ひ、ひーちゃん、大丈夫?」 と瑞希。

「う、うん。」


「すまん、大事にしたくないが刑事事件だ。芳川先生、呼んできてくれ!」

「わ、分かった!」 そう言って、職員室へ九条が走ってくれた。


 暫くして、仁絵も落ち着いたようなので瑞希に預け、犯人を宏樹と囲む。

まだ、そいつは気絶しているようだ。 潰してやろうか、コイツ? 怒りがおさまらん!!


「神野、どうした?!」

九条が芳川先生と他3名の先生を連れて、慌てて走ってきてくれた。

「九条、ありがとうな! 先生、仁絵が襲われた。 腕を後ろ手に締め上げられ、ナイフで刺されそうになったんだ。」

 俺は落ちているナイフを指差しそう言った。


「あ、あぁ。」 九条の顔にも困惑の表情が隠せない。


「な、なに!? それは、本当か! 神野さん、怪我は無いかい?」 と芳川先生。


 他の先生は、犯人を気付けし事情を糺すようだ。

「ひとまず、生徒指導室へ連れて行きます。」

そいつは、先生たちに連行されていった。


 ひとまず、俺たちは揃って職員室へ行くことになった。

 慰労会をする予定だったが、それどころでは無くなってしまったな。

制服のポケットからスマートフォンを取り出し、裕也さんに電話を入れる。


「もしもし、裕也さん?大和です。」

「おぉ、どうした? 慰労会なら、準備できてるぞ!」


「すいません、仁絵が襲われて。まだ学校なんです。」

「えっ、なんだって?! それで、仁絵ちゃんは大丈夫なのか?」

「えぇ、ナイフで刺される前になんとか助け出せましたから。」


 電話の向こうに女性の声がする。


「あなた、どうしたの?」

「大和からだ、仁絵ちゃんが襲われたらしい。」

「まぁ!! ちょっと代わってくれる?」


 通話の相手が代わったようだ。


「もしもし、大和君? 美江です。 それで仁絵ちゃんは大丈夫?」

「えぇ、怪我はありません。」


「そう、まずは良かったわ。今日は慰労会のことは良いから、そちらが終わったら家に帰りなさい。あなた、それで良いでしょ?」


「あぁ、仕方ないだろう!」 と裕也さん。


「それでね、大和君。身体に怪我はなくても、心に怪我を負っている場合もあるからね、ちゃんと仁絵ちゃんのフォローをしてあげて! お義父さんには、私から連絡を入れておくわ。」


「すいません、ご迷惑をお掛けします。義父さんへの連絡お願いします。」

「じゃあね、しっかりね!」

 そう言って電話が切れた。


 傍では、芳川先生、教頭先生が仁絵の事情聴取を進めていた。


「概ねは、分かりました。神野さん、災難でしたね。卒業式というめでたい日にこんなことが起きて申し訳ありません。校長先生と少し協議をして参ります。 もう暫くお付き合い下さい。」 と教頭先生が謝罪していた。


 そして、急ぎ足で職員室を退出していった。


 暫くして、教頭先生が校長先生と特進課3年の担任を連れて戻ってきた。

確か、担任は河辺先生だったか?


「神野さん、お怪我はありませんでしたか?」 校長が仁絵に訊ねる。

「はい、 怪我はありません。」

「この大切な日にこんなことになって、本当に申し訳なかった。」 頭を深くさげ、謝罪する校長先生。

遅れて、河辺先生も頭を下げる。


「これは、校内では対処できる事案ではありませんので、既に警察に連絡を入れてあります。もう間もなく来るでしょう。」


「神野君、彼女を助けてくれて感謝するよ。あんなクズだとは思わなかったよ。」 と河辺先生。


んっ? なんだ? ・・・、気のせいか。


 それから5分ほどしてパトカーが2台、けたたましいサイレンを鳴らし校内駐車場へ入ってくる。


 パトカーから降りる4人の制服警察官を出迎える教師。 何度も何度も頭を下げて、彼らを職員室へ誘導するようだ。


「愛知県警察中央署の徳山です。 この度は大変でしたね。 お怪我はありませんでしたか?」


 警察手帳を見せながら仁絵に告げた。

俺は、仁絵の横に立ち一緒に事情聴取を受ける。

 その後、校長先生、教頭先生、芳川先生、河辺先生、仁絵を含む俺たち5人、そして警察の高山さんらと現場を確認しに特進課校舎の裏側へといどうした。


 既に鑑識作業が行われて、二人の立ち位置やナイフの落ちた箇所にマーカーが付けられ、何枚も写真が撮られているようだ。


 「どう言う状況だったのか、少しお話を聞かせて下さい。」 と徳山さんが仁絵に告げる。

 「は、はい。」 仁絵もようやくショックから立ち直ったのか粛々とそれに応じている。

 俺も嫁さんの隣で話を聞いていたんだが、再び頭に血が上がりだす。


「まあまあ、旦那さん、で良いのかな? 気持ちは分かります。 ひとまず、落ち着いて下さい。」 と宥めてくる徳山さん。


「はっ、はぁ…。申し訳ありません。」


「いやいや、大丈夫ですよ。 では、続けますね。 で、校舎裏に呼び出されたと…。」

「はい。」

 事情聴取が終わり、俺たちが解放されたのは午後5時を過ぎていた。

それと同時に現場となった校舎裏の規制線も外され、静かな様相を取り戻している。


「大和、神野さん、本当に今日はハレの日にこんなことに…。」

「芳川先生、もう良いって! 仁絵もこうして怪我も無く無事だったんだから。」

俺と仁絵は、互いに目を合わせそう言う。


「そ、そうか。 また、事後報告に一度お邪魔するよ。 新居の方だな? 羨ましいなぁ、俺も早く嫁さんが欲しいぞ。」


 盛り下がった場の雰囲気をなんとかしてくれようという気遣いが嬉しかった。


「頑張ってよ!」と俺。

隣には、うふふと微笑みを浮かべる仁絵。

そして、後ろには友人が立っている。

ようやくみんなの気も晴れたようだ。


 威を正し、気をつけをし芳川先生に対して気をつけをする。


「芳川先生、担任になって頂いたのは一年間でしたが、三年間、俺たちはあなたに見守って頂きました。感謝してもしきれません。

 本当にありがとうございました!」

「「「「ありがとうございました!!」」」」


 そう言って一礼をし、俺たちは学舎を後にした。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

どうも、作者の天狼星です。

いや、本当に迫るのはショ●カーだけにして欲しい、いや、冗談ですが。

第一章も今度こそ終わらせます。

まさか前に書いてから、ここまで伸びるとは思いませんでした。あと、1、2話かな? いや、場合によっては3話か?

ま、まぁ、頑張って書き上げます!

今後とも宜しくお願いします。

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