第15話 卒業

 それから、仲間たちの要望などを聞きつつ、いろいろなことを話し合った。時折、義父さん、裕也さん、凉香義姉、繭さんからもアドバイスをもらう。

 大体の骨格は固まったので、一度、司法書士の所に会社登記の為に面談に行こうと思っている。


 仲間たちからも会社に対して比較的、良い印象を持ってもらえたようだ。

 九条は、卒業後、すぐ就職したいと言ってきた。

決まっていた就職先よりも、俺たちの夢に乗ってくれるのだとか。

ただ、条件に新入社員が女性の時は、真っ先に紹介しろだと?

全く、ブレんね、君は!

 やつの家庭は、母子家庭だからなぁ。母親を早く楽にさせてやりたいらしい。


 宏樹と瑞希は、まだ迷っているそうだ。

しょうがない、直ぐに決断できるようなものでもない。

二人とも同じ大学への推薦での進学が決まっているので、当面はアルバイトでなら参加したいと言っていた。


 裕也さんは、店も家族もあるので参加は難しい。

だが、社外スタッフや業務提携と言った感じでなら協力してくれるようだ。

えっ?ランチの割引チケットとか!? 入りびたり確定!!


 凉香義姉さんは、仁絵を連れ出してホールで何やらボソボソやってる。

時折、「えぇ!」とか「はぁ、」とか仁絵から漏れ出る溜息のような声が聞こえる。

「仁絵、どうした?」

 席に戻ってきた彼女に問うと、「いずれ分かります」と言う答えだった。

なんだろうな?

 凉香義姉は、4月から大学の4年生(飛び級)で、あとは卒論提出だけなんだそうだ。時間はたっぷりあるから、非常勤社員として加わってくれるらしい。

気心も知れてるから、かなりありがたい。


 また、繭さんは、まだまだ学生の方身分を楽しみたいようで、ご縁は無かったようだ。


 その日は、その辺りで解散となり、義父さんの車でみんなを送り届けた。


 実力試験が終わると次第に、クラスメイトの数が減ってゆく。

そう、大学入試のシーズンが始まったのだ。

全国大学共通テストは、推薦合格者を除く、大学進学を考える生徒が受ける必要がある。 その後、その点数に応じて進学できる希望に見合った大学に進むのだ。


 で、その実力試験の結果だが、一般クラスの中では常にトップだった隣のクラスの山本君を抜いて、俺が1番だ。クラスのみんなが吃驚していて笑ったぜ!

特進クラスの方は、相も変わらず嫁さんの独走で終わったらしい。 さすが、嫁!略して「さす嫁!」だ。


 さて、大学入試が本格的に始まると、就職組や俺たち九条のようなシーカーになる者、宏樹や瑞希のように推薦合格者は途端に暇になる。

 2月1日から始まる学年末テストまでは時間があまりあるので、自動車免許を取りに行ったり、ダンジョン・アタックを公然と行うようになる。

学校の出欠も確認が大幅に甘くなるのは、伝統なんだろう。


 ここらで、ダンジョンのことをまとめておこうか?


 日本国内のダンジョンは、かなりの数がある。

愛知県だけでも最低54箇所。 つまり、市町村に最低一つはある。 稀に一つの市町村に複数の所もある。

非公式だともう少し増えるものと思われる。


 ダンジョンにもランクがあってな。


 日本の首都である東京都には、S級のダンジョンがある。日本では、ここだけだ!

 東京都の東京タワーや東京都庁、東京ドーム、国会議事堂の地下にある。

一つの都市で4つ以上のS級ダンジョンは、世界的に見ても東京と中国の北京、

インドのニューデリーだけだ。


 大阪、名古屋、福岡、仙台、札幌、広島、兵庫のような人口集中が見られる政令指定都市にあるA級ダンジョン。


 ここまでが俗に言う大規模ダンジョンで階層は50階から100階層と言われる。

 推奨シーカーレベルは、特級から3級以上。それ以下は入ることすら許されていない。


 各都道府県の中で県庁所在地や中核都市にあるB級ダンジョン。20から50階層。

 それ以外の市に広がるC級ダンジョン。10から20階層。


 これらは、中規模ダンジョンと言われる。

 推奨シーカーレベルは、2級から4級。5級でも入らないことはないが、上級の指導の下という条件が付く。


 町には、D級ダンジョン。こちらは5から10階層のものが多い。

推奨は、3級から5級。

 村には3から5階層のE級ダンジョンがひろがる。推奨は5級。無理をしなければ、ソロでも行けるとされる。

これらは、小規模ダンジョンと言われる。

特にE級ダンジョンは、俗にチューリアル・ダンジョンとも呼ばれる。。


 俺たちは、その自由登校期間を利用して、愛知県尾張地方の入れるダンジョンを一つずつ、できる範囲でクリアしていくことにしたんだ。


 まずは、近場にある津島ダンジョン。

ここは、津島市にある。

全国にある津島神社の総社の境内下に発生した。

規模はD級だった。

午前9時に1階層から潜り、10階層のボスを倒して戻ったら、午後3時ぐらいだった。

高校在学中に3級シーカーに上がりたい俺たちは、4人でここを突破した。

「D級なら、私が居なくてもみんなが居れば大丈夫ですよ♪」 と嫁さん。

その通りでした!

 さしたるトラブルも無く、順調に終わってしまった。


PT構成;欠席の場合は、()です。

 前衛: 神野大和  軽戦士  短槍、ライトハンマー、飛び苦無

     小坂井宏樹 騎士   長剣、カイトシールド、クロスボウ

 中衛: 九条知仁  ローグ  ロングボウ、ショートソード、ダガー

 後衛: 川谷瑞希  ヒーラー ロッド、スリング、光系呪文、聖系呪文

    (神野仁絵) 魔法師  スタッフ、ダガー、六属性魔法、無属性魔法他


 魔法師の仁絵が居ないので、こんな感じ。

仁絵の六属性は、光、闇、火、水、地、風だ。さすが、ダークエルフ因子のホルダーだけはある。

近接火力重視だね。


 学年末テストを挟み、D級を10箇所、C級を3箇所クリアして、揃って3級に昇級ができた。

 ちなみに学年末テストでも一番でした♪

2番が宏樹、6番に瑞希。意外や九条が山本君を抜いて10番にランクイン!

山本君、人生にはいろいろ試練がつきものだよ、頑張れ!!


 そうそう、C級ダンジョンをクリアした際には、仁絵に助力してもらったのは言うまでもない。


「えっ? 報酬の分配ですか?

 私への報酬は、別段、要りません。

 さっさとみんなプロ・シーカーのライセンスに昇級して下さい。

 これからは、私もパーティーに参加します。

 ビシバシ行きますよ!!」

 そう言って俺たちの所得を増やしてくれた。

彼女の頭を持ってすれば、株や投資信託の方がこれまでは格段に増やせたのだそうだ。

 安定的にC級より上のダンジョンを回せるようになると、企業としても申し分が無いんだそうだ。

不甲斐なくて申し訳ない。


 2月の半ばまでに源泉所得を除いて、866,125円が一人頭の取り分になった。

実質約三週間の成果だから、一般の会社員よりも多い方かも知れない。

今の時代、40代サラリーマンの平均月収が税込み諸手当込みで、50万円前後だから高いと言えば高い。


 仁絵に言わせれば、海外は同程度であればもっと所得は多い筈だと言う。

多分、協会の上役の中抜きなどが横行しているのではないかという。

仁絵に海外相場の情報収集を依頼しておこう。


 場合によっては、早急に2級以上のシーカーライセンスを取得して、拠点を海外に移そう!


 ダンジョン・アタックを繰り返す中で、ダンジョンへ行かない日には会社設立の為の準備に奔走する。

司法書士、税理士などを訪問し、各種面談や訪問を繰り返す。

司法書士の八坂先生と協議した際、会社設立日を4月1日と定めた。

ちょうど、新年度でキリも良いしな。


 会社設立に関係して、労働基準監督署に労働保険(労災保険、雇用保険)の手続きの確認、職業安定所で事業登録をした。もちろん、労働保険の手続きもお願いしておいた。


 税理士に確定申告に必要な書類作成のお願いに出向いた際、付き合いのある社労士を紹介してもらった。

給与計算など、ソフトがあっても面倒だからね。


労使間で結ぶ雇用契約書とか36協定とか。

その辺は、丸投げにしようと思う。


 税理士の富田先生によれば、必要経費として処理できるとのこと。

あと、彼から経理の専任を雇用した方が良いと言われる。

普段から事務所に居てもらい電話番もしてもらえるから、奥様も戦力として「ダンジョン・アタックに行けます!」と言われた。

 奥さんやる気になってるぞ!!!


 そうそう、義父の伝手で印刷屋さんを紹介してもらい、俺と仁絵の名刺を作った。

現在では、名刺もデジタル化が進んでいるが、古くからの伝統でもあり未だに会社の儀礼の形として残っているのだとか。


 卒業間近、会社創立間近ということで、新たに家具や事務用の機材などを買い求める必要ができたので、戸籍上はまだ夫婦ではないが夫婦で出掛けることが多くなった。

 まだ、新居には移ってないぞ。


ていの良い仁絵とのデートだな。

 2月14日に買い物や手配を済ませ、夕飯を食べ、ホテルへ行って初めて夫婦としての務めも果たした。

素敵な体験でしたよ。

 どんなとかは、あまり詳しくは話すもんじゃ(ごにょごにょ…)。


そして、その日を境に俺たちの左手薬指には、マリッジリングが光るようになる。


 血魂式後の俺と仁絵の日常を書いておくと、それ程変化はないな。

だいたい、毎日のように他の家族も交えて3食摂ってるし、気づけば視線を合わせてニコッと笑ったりだな。


 ただ、お互いのボディータッチやキスの回数がそれとなく増えていると思う。

同じ施設にいる家族の前では自制しているけど。

夜寝る時は、どちらかの部屋で一緒ということが多い。寝入るまでにいろいろ話をしたり、キスしたり、抱擁したり。

まぁ、そんな感じだ。


 そして、3月2日。

いよいよ俺と仁絵の卒業式の日が来た。

いつも通りの朝、のはずだったが妙にソワソワしている義両親。

ハレの二人の門出を祝う為に、高校に来るんだそうだ。


 孤児院の玄関傍には梅が植えられている。

ちょうど、今が満開だ。

 縁があって、ここの子供として育ててもらって18年か。

色々なことがあったなぁ。


 んっ、そろそろ仁絵が出てきたかな?


「あなた、お待たせしました。」

「いや、平気平気。 じゃあ、行くか?」

「はい。」

 どちらからともなく、手を握り合い、学校へ向け歩き出す。


 仁絵は3学期に入り、登校する機会が増えた。

それ程、回数が多いわけではないがな。

1月に4回、2月に3回、そして、今日か。

これまでに比べたら、多い多い。


 学校へ行くときは、必ず一緒に登下校している。

まぁ、俺の役目は愛する嫁さんのボディーガードだ。

 手を恋人繋ぎして歩くことにより、第三者が仁絵を見ても、よっぽど痛いヤツでない限り声を掛けようとはしないだろう?

おまけに左手薬指には結婚指輪だぜ?


 いつも通りに無事に学校に到着し、校舎手前の分岐で別れる。

帰りまでの辛抱だ。でも、なんだか隣がスースーするな。

そして、下駄箱で宏樹と会う。

「おはよう!」

「おはよう!」

「あれ? 川谷は?」

「あぁ、クラスの池中さんに捕まって、先に教室に行ったよ。」

「ふぅん、じゃ、俺たちもいこうか?」

「だね。」


 思えば、こいつとも6年の付き合いになるのか。

最初の頃は、おどおどした陰気な奴かと思ったんだがな。

まさか、一番の親友になるとは思わなかったぜ。

仁絵は嫁だが、宏樹は相棒だな。一番の!

ふとそんなことを考えてしまった。


 ガラガラガラ。

「「おはよー!」」

「おはよう!」 クラスメイト全員が俺たちの方を見て挨拶をする。

瑞希は自分の旦那に小さく手を振ってるな。


なんだ、俺たちが最後か?


 予鈴が響き、芳川先生が教室へやってきた。

「よーし、全員居るか? 居るな? 居ない奴は、入試か落第した奴か?

 今日は、大掃除の後、午前10時から卒業式だ。

 校歌忘れてるやつ、居ないよな?

 式自体は40分ぐらいだ。 流れは予行演習の通り。

 校長の話はつまらないだろうから、そこは寝てても俺が許す。」


 くすくすくすと笑い声が教室のあちらこちらで起こる。

この先生、こう言うところが人気の秘訣なんだろうなぁ。


 「では、各自掃除に入ってくれ!」

割り当てられた場所へ移動し、最後の感謝を込めて掃除を始めた。


「それでは、第47回尾張第七中高一貫校高等部の卒業式を行います。

卒業生、在校生起立。」

 まぁ、よくありきたりな卒業式だな。校長の話はつまらんし、来賓の話はやたらとあくびが出た。


 最優秀生徒の特別表彰が行われた。勿論、嫁さんの「神野仁絵」がもらった。

 特別表彰を受けた後に仁絵が5分ほどスピーチをした。

学校での処遇への感謝、俺と血魂式を挙げたこと、そして、新規に会社を創業することを告げた。

血魂式の行では、すげえ歓声だったな。びっくりしたぜ!


「それでは、最後になりましたが、保護者の皆様、職員の皆様、在校生の皆様のご多幸、ご健勝を切に祈ってお礼の言葉と致します。 特進課3年 神野仁絵」


 静かに拍手が会場に鳴り響いた。


 別れの言葉(送辞、答辞)の辺りから周りでもシクシクと泣く声も聞こえる。

いろいろなことが思い出され、俺も少しうるっと来たな。


「これで、卒業式を終了します。 卒業生、退場。 在校生は拍手でお見送りをしてください。」


 保護者の席を横切る際、義父さんと義母さんが大泣きでどうしようかと思ったぞ。

でもな、ありがとうな、親父、お袋!

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