第14話 会社説明会

 キーン・コーン・カーン・コーン。

終礼の鐘が鳴り響く。

俺たちが通う高校は、テストがある時は半日で学校が終わる。ホームルームが終わり、クラスメイトがゾロゾロと教室から去って行った。


「よう、お疲れ!」 俺がいつもつるむ宏樹、瑞希、九条に声を掛ける。

「おう、お疲れさん!」 肩までかかるややロン毛の宏樹がそう言う。

「お疲れ様、大和くん!」 と瑞希。彼女はセミロングで内巻きのカールに巻いていることが多い。


「やあ、三国一のモテ男! お前のせいでテストが散々だったわ!」 憎まれ口を叩くかのように九条が言う。やつは、髪型をベリーショートにしている。

「それは、あい済まんかった。堪忍しておくれやす!」 と丁寧に腰を折って、冗談混じりにそう言ってやる。


頭を上げ、三人の顔を見合わせると、思わずみんなでブーっと吹き出し笑いだ。

そこへ俺の奥さん・仁絵が顔を出す。


「旦那様、終わりましたか?」

「あれ?ひーちゃんだ!?」

「こんにちは、みーちゃん。宏樹さん。昨日はありがとうございました。」 感謝の意を込めて、頭を下げる仁絵。


「えっ、旦那様?! なにその呼び方!? えっ、氷姫って、こんなに表情豊かだったんか!? ねぇねぇ、ギャップ萌なんだけど!! 好きになっても良い??」 と九条。


「あのなぁ、九条。仁絵だっていろいろあるんだからな。 嫁を下げすさむ奴には、こうしてくれよう!」 と九条のこめかみを片手で掴み、徐々に力を入れてゆく。

「アイアン・クロー!」

「ギャーっ、痛い痛い!!」 そう言って奴は俺の右腕をタップする。


「あにすんだよ!

「お前が悪…。」

「旦那様、私なら大丈夫だからね。」 仁絵が背中を撫でて取り直してくれる。


「仁絵ちゃん、ごめんな! 」

「いえ、良いんです。 これまで他人に対して積極性が無かったのは、私の内向性が強い性格のせいですし。 これからは、生涯の伴侶ができたのですから、様々なことに挑戦したいです。」


「わー、頑張ろうね!ひーちゃん。」

「よろしくね!」 と瑞希と宏樹。


「全く羨ましいこって、、、でもなぁ、大和、仁絵ちゃん、おめでとう! 幸せになれよ!! 俺、マジで仁絵ちゃん好きだった。」


「ありがとうございます。 九条さん、大丈夫ですよ。 きっと、貴方を見ている方が必ずいるはずです。 だって、旦那様のお友達なんですからね。」

「だ、旦那様って、俺もそう呼ばれてみてー、チクショー!」 一同から笑い声が起こる。


「それじゃあ、行こうか?」 みんなを促す。

「義父様が、そろそろ校門前に着いた頃じゃ無いかと思います」 と仁絵。

「「「了解! 」」」 揃って校舎を出ることにした。


 校門に面した道路には、いつもの義父の車とは違い、孤児院で使っている十人乗りの中型のワンボックスカー。


「お帰り、大和、仁絵! 」

「ただいま! 義父さん。」

「わざわざ、すみません、義父様。」

「「「こんにちは!」」」 宏樹、瑞希、九条が挨拶をする。

「小父さま、ご無沙汰してます。」 と瑞希が付け加える。

「さぁ、乗った乗った。」 助手席に仁絵、運転席の後ろに九条、仁絵の後ろが俺。宏樹と瑞希のペアは後列だ。

 静かに車は走り出す。


 義父さんの運転する車が、裕也さんの店の駐車場に到着する。

「よーし、着いたぞ!」

「「「「「ありがとうございまーす。」」」」」 お礼を言って降車する。鞄は、車の中でいいだろうと置いていくことになった。仁絵だけは、タブレット端末を持ってるな。


カラン、コローン♪


「いらっしゃいませー。」

「裕也義兄様、こんにちは! 今日はお世話になります。凉香義姉様、繭さん、ご無沙汰しております。」

「裕也さん、凉香義姉さん、繭さん、今日はお願いします。」

「おう! 」

「「「こんにちはー!」」」

俺たちに続いて義父、友人三人も入店する。


「お席はこちらで宜しかったでしょうか?」 と繭さんがエスコートしてくれる。案内されたのは6人掛けのシートと通路を挟んだ四人掛けの席。

「はい、十分です。」

「お水とタオルをどうぞー!」 トレイに乗せてきてやってきた凉香義姉さん。

「義父さんは、温かい番茶の方が良かったよね?」 一回り大きな寿司屋の湯呑みで持ってきた。


「それでは、株式会社日本シーカーズ・ギルド(仮称)の会社説明会を始めたいと思います。」 と仁絵が口火を切ると、居住まいを正す友人達。義父はズズッとお茶を口に含む。


「弊社は、仮称ですが株式会社日本シーカーズ・ギルドを名乗ります。ひとまず、本社は・・・。」 前に義父と仁絵と話し合って練られた内容が伝えられる。ホールに立って聞いていた凉香義姉さんと繭さんもいつの間にか義父さんのテーブルの席に着いて聞き入っていた。


「ですので、弊社は常人、亜人を問わず全てのシーカーの立場の向上と生活レベルの向上、社会貢献を目標としております。ここまで、ご質問はありますか?」

 と、一旦話を切ったところで、厨房の裕也さんから声がかかる。

「繭ちゃん、凉香、一旦、コーヒーを取りに来てくれ。」

「「はーい。」」


「ひーちゃん、すごいね!」

「うん、流石だよ!」

「いやぁ、魂消た!」 銘々に感想を言いあってる。

「義父さん、おかしな点はある?」

「いや、大丈夫だろう。念の為に司法書士にざっと確認してもらえれば良いと思う。」


コーヒーとワンホールのイチゴのショートケーキがカートに乗せられてきた。


「「さぁ、みんな、どうぞ!」」 と二人がコーヒーをそれぞれにセットしてくれる。

「ありがとう」「いただきまーす」の声が重なる。

「ねぇ、裕也義兄様、ケーキは頼んでいなかったと思うんですが?」

「なにを水臭いこと言っているんだ、仁絵。これは俺からの祝いだ、全く…。」 はぁ、と溜息をつく裕也さん。


 パンパンパーン、あちこちでクラッカーが鳴る音がする。俺と仁絵以外のここにいるみんながそれぞれクラッカーを鳴らして

「おめでとー!」 と俺たちを祝福してくれている。

「「みんな(皆様)、ありがとう!!」」 再度、頭を下げ感謝の意を告げる俺と仁絵。


「全く、大和はいつの間に…」とか

「私も早くプロポーズされたいなぁ…」だの

「どっかに良い娘、居ないかなぁ…」だの いろいろ聞こえるが、スルーして良いですか?


「さて、」 そう言って場を仕切り直す仁絵。

「ここからは、弊社の社員募集について説明をします。区分は大きく分けて三つです。」

「三つ?」 と瑞希。

「えぇ、そうです。正社員、時間社員、そしてアルバイトです。」

「時間社員って?」 と凉香義姉。

「正社員よりも働く時間が短い社員ですね。例えば、午前中の三時間だけとか午後の1時から5時までとか。その方の都合に合わせやすい働き方です。」 と説明する。


「福利厚生は?」 と九条。


「初年度で12日の有給を保証します。また、週5日勤務を前提として総合的に社員全体のシフトを組んでいけるようにしたいと考えています。


 また、三ヶ月ごとに連続した休みと言うのも考えたいですね。夏、冬、ゴールデンウィークは、別にできればと思いますが、その辺の調整はまだこれからです。


 現在は社員寮が無いので申し訳ないですが、ゆくゆくは寮も準備したいと考えています。それまでは、住宅手当という形で幅広くサポートできればと思います。」 と、とりあえず概ね決まっていることを説明した。


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