第13話 家族への挨拶 (改稿済み)

「二人とも、ありがとう! 」

「ありがとうございます! 」

「末永くお幸せに。」

「おめでとー、ひーちゃん! 感動したー!! 」

 改めて涙を流しながら仁絵に抱きつく瑞希。仁絵も再度、涙を流しながら抱きついてるな。


 みんな揃って、展望台下まで降りてくる。


「じゃあ、俺たちはここで帰るよ。これから、瑞希の家で試験対策だ。」

「あぁ、今日は本当にありがとうな! 」 宏樹と握手を交わす。

「宏樹さん、瑞希さん、改めて今日は本当にありがとうございました! 」

 仁絵は深々と頭を下げる。


「ひーちゃん、これからもっと一緒にね。」

「はい、みーちゃん♪」 微笑ましいね。二人とも。


「「「「じゃあな(ね)!」」」」

 そう言って俺たちは、それぞれの帰路に着く。


帰り道の途中。

「仁絵、最高の血魂式になったな! 改めて宜しくな、奥さん。」

彼女の頭に手をおきひと撫で。 まだ、若干言ってて照れてしまうな。


「こちらこそ、宜しくお願いしますね、旦那様!! 」

 キャーキャーと一人で騒いで、俺の背中をバシバシ叩いてくる。

地味に痛いんだからな? 判ってるよな?


「義父さんと義母さんに言わなきゃな。」

「そうですね。」

「まぁ、なんとかなるさ! いや、してみせる!! 」

「お願いしますね? 旦那様。」

 そう言って、仁絵が上目遣いで俺を見てくる。くそ、いつもより可愛く見える。


 午後2時半頃に孤児院にたどり着く。

母屋の中から「おやつ、なーに? 」だの賑やかなチビっ子どもの声が聞こえる。

玄関を開け 「「ただいまー! 」」 と声を掛ける。

 すると、三姉妹の

「「「おかえりー! 」」」 が返ってくる。


 遅れて、トテトテと優が歩いてきて

「にに、ねね、おかっ! 」と出迎えてくれる。


「ただいま。」

 膝を曲げ、優の目の高さに視線を合わせ、頭をひと撫でして、そう言ってやる。


 ニパーっっと顔一杯に微笑む優。 本当に可愛いな!

同じように仁絵もひざを曲げ、

「優ちゃん、ただいまー。」 とこちらも頭を撫でていた。


 靴を脱ぎ、下駄箱へ入れると

「にに、ねね、こっち」 優に手を引かれ食堂へ。


 すると、エプロン姿の義母が一つの戦争を終えたように椅子に座ってこちらを

見ている。


「お帰り、ちょっと遅かったね。 お腹は空いてない?」 と聞いてくる。

 そう言えば、告白の返事をして血魂の議を済ませる前にコーヒーとミルクティーを飲んだだけだったな。


「ごめん、義母さん。少しお腹空いたかも。」

「義母様、すいません。ちょっとペコペコです。」 


「えぇっと、もらいものだけど香星堂のバームクーヘンで良い? 二人とも紅茶で大丈夫?」

 腹に溜まるおやつと温かい紅茶を準備してくれるみたいだ。その間に手を洗ってくるように促される。


「優ちゃん、ちょっと夢ちゃん達のところへ行っててくれる?」

「あい。」

 義母は、優を送り出して、三人で話ができる環境を作り出してくれる。

ありがたや。


「で、二人とも、何か報告することがあるんじゃないの?」

 バームクーヘンと飲み物をテーブルに出しながら切り出してくる義母。

椅子を引き、隣り合って座る俺たち。


「あ、あのね、義母さん。」

「あ、あの、義母様。」

「うんうん、、、」

「「俺たち(私たち)、血魂式をしました。」」

 二人揃って真っ赤になりながらそう告げる。


「あら、そうなの!? それは、良かったわねぇ! 私も立ち会いたかったわ。

それにしても、仁絵、よく今まで我慢したねー、本当偉いよ、この娘は!

私も本当に嬉しい。 幸せになってね。」

「はい。」

「大和も良かったね。 あなたも大概、父さんに似たのか脳筋だからねぇ。

あまりの鈍ちんだったらどうしようかと思ったわよ! 一生を添い遂げる相手が

見つかったのは、本当に素敵なことだと母さんは思うよ。」

 義母はティーカップを手に取り、一口紅茶を含み、口を潤す。


 「相手を思いやり、いたわり、労う。 これから先、どれだけ長い年月が経とうとも忘れてはいけないわよ?

 賢いあなたたちなら、私の言いたいことが判るわよね?

 本当これからの人生があなたたちにとって素敵なものでありますように。

 二人とも、おめでとう!

 さぁさぁ、私の可愛い子供たち、冷めてしまうといけないから、早くお上がりなさい。」

 そう言って祝福してくれる。


「義母さん、ありがとう。 義父さんは?」

 仁絵は、隣で涙で目を潤ませながら、紅茶を飲んでいる。


「お父さんは、今日は午後5時半頃には帰るって、先程連絡があったわよ。

 あぁ、そうだ、二人とも、大切な約束をしてください。

 大和、そして、仁絵、 家の中では悪いんだけど、過度のイチャイチャは無しね。 アレをしたいなら、そういう所に行ってなさい。

 お互いの部屋の行き来は、これまで通り午後10時までです。

 部屋でも、基本、キスまでは許します。

あまり大きな声を上げなければ、、、まぁ、そこまでなら許してあげるわ。

詳しくは、言わなくてもわかるわよね?」


 そんなことを言ってきた。義母さんって、、、。

いや、俺も男だし、興味のある年頃だからな。仁絵は隣で真っ赤になって俯いてるし。

 

 そして、夕食になるまで、仁絵の部屋で明日から始まる実力テストの対策。

まぁ、判らなければ、真横に座る仁絵先生に聞けばいいしな。

3学期に良い成績をとってもあまり意味はないので程々に勉強するか?


 いや、待てよ。 たまには学年の連中にいたずらを仕掛けてやろう。


 隣の仁絵は、会社経営の参考書や簿記、法人税についての参考書を積み上げて読んでいる。 時折、ふんふん、へーっという声が聞こえてくる。

シーカー企業の法人化は、まだまだ珍しくそれ程の数は国内には無い。

勉強の手をいったん休め、仁絵に会社のことを聞く。


「仁絵、多分、義父さんに聞かれるからな。 会社のこと、今後のことを聞かせて

欲しい。」

 俺は仁絵に仮想問答を促す。


「そうですね。 まず、会社を設立するにあたり、司法書士と行政書士を兼ねていらっしゃる方、税理士事務所に法人設立について相談と実務の依頼を出しました。

 税理士の方は、月一で検査というか、確認に来て頂けます。

それから、確定申告などの税務の代行もしてもらえるように頼んでありますよ。


 とりあえず、資本金5千万円で設定してあります。

資本金の5千万円は、ひとまず、私の方で用立てて会社に貸し付けるという方式を

取ります。

 借用書を交わす必要がありますが、こちらは私で用意します。

戸籍も入れますので、金利は生じないようにします。

 戸籍、入れてくれるんだよね?」


「もちろんだ。 ただ、2級のプロライセンスまで待てるか? 少なくとも、プロの格式だけは欲しい! なに、半年も待たせる気はない! それから、金利とかは掛からないなら助かる。 経理や対外面は、仁絵に任せても大丈夫か?」


「もちろん! と言いたいところですが。 極力努力しますと言うしかありません。 大和さんもご承知のように、私、軽くコミュ障なので。


あと、本社は、当面、私たちの新居となるマンションの部屋です。

本当なら、どこかのビルを押さえたい所ですが、こちらは一年以内を目標としたいところです。」


「会社っていうと、社長とかいるだろ?」

「えぇ、代表取締役の選任ですね。創業時とそれ以後の年一回の決算期に選挙で

決めます。」

「あては、あるのか?」

「仮の話で良いのでしたら、旦那様が代表取締役、私が取締役で進めたいと思います。」


「だ、旦那さまって。。。まだ、慣れないし、恥ずかしいぞ。 で、俺でやれるのか?」

「私だって、まだ慣れないわよ。 どうしても口調が心に蓋をしていた時の癖が

抜けないんだから。 ごめんね。 えぇーっと、旦那様でもなんとかなります、

というかします!


「会社に会長とか相談役とか居るだろう? あれは要るのか? 」

「必ずしも、必要ではありません。 会社の顧問には、義父様、義母様にお願いするのも良いかもしれません。 社会信用度が上がりますから。 ただ、私は、親族

つまり、私たちの後見人でもある養育者の義両親以外にはなって欲しく

ありません。」

「確かにそうだな。」


 「あと、役員の入れ替えは、普通、取締役の会議で決まります。 変更した場合、その議事録を法務局へ届け出て、変更を行う必要があります。

取締役会の議事録は、税理士事務所にあるひな形を用いることが常です。

 これは、税務署や法務局の方でも暗黙の了解で、ほぼ使い回しですね。

 あとは、代表取締役が変更された場合、社会保険事務所へ変更届を出す必要があります。」


「んじゃ、当面の会社の目標は?」


「まず、旦那様の3級シーカーの昇級。 それから、社員集め。 社員のシーカーレベルの昇級が目標です。 社員募集はどうしましょう?」

「うーん、それなんだよなぁ。」

 俺は腕を組み考え込む。

 仁絵は、頬に左手の薬指を当てて首を傾けて考えている。 本当、可愛いな。俺の奥さん。


「宏樹、瑞希、それから、九条にあたってみるか。 まずは、近い所から攻めてみよう。」

「そうね、判ったわ。」


それから暫くすると、階下から華香の声がする。


「兄ちゃん、仁絵ちゃーん、ご飯だよー♪ 」

「おーっ! 」 と返事をする。

 部屋を出て行こうとすると、仁絵に腕を取られ、おもむろに頬にキスをされた。


「じゃ、行きましょ♪」


 いつも通り、賑やかな食卓。

今日は、ご飯がお赤飯だ。

「なにか良いことあったかなぁ!? 」 と胡麻化してみた。


「おい、大和、、、後で話がある。仁絵もだ! 」

義母から話が行ってるな。 まぁ、当たり前か。


「あぁ、判った。」

「義父様、判りました! 」


 3学期が始まったので、義隆、夢香、華香、静香の話題提供が止まらない。

時折、俺や仁絵も話題を振る。

まぁ、取るに足らないがいつも通りの楽しい食卓をみんなで囲んでいる。


 やがて、義隆をはじめとする香三姉妹は、いつもの如く、チャンネル争いという戦場へと旅立つ。


「義隆、実力テストの勉強も忘れるなよ!」

義父からのスナイパーショットが命中したようだ。

 首をうなだれて「へーい」 と言い、自室へ戻っていった。


 優は、義母さんにしがみついてコックリを始めている。

「優ちゃん、お眠かな? もう少し頑張ってね。」

 身体を揺すり、何とか起きさせようとする。

「あなた、二人の話を聞いてあげて頂戴ね。」

「うむ。」

 義母は優を連れて、お風呂の時間となった。


「さて、お前たち、話を聞こうか?」

こういう時の義父は、ちょっと怖い。 いや、迫力満点なんだ。


「「俺たち(私たち)は、この度、正式に血魂の儀を済ませました。つきましては、この世界でも結婚をしたいと思っております。 お許しくださいますか?」」

 二人ハモって話す。


「おぉう、息ピッタリじゃねぇか。

 そうか、大和がうちに来て18年、仁絵がここに来てもう10年が経つのか。

早いものだな、子供の成長っていうのは。

 だがな、母さんも言ったと思うが、ここでの子作りは認めない。これは大前提だ! 他の子供たちへの影響もあるからな。

 義隆なんて、そういうことに興味がある年頃だからな。

すまないが、我慢して欲しい。」


「それは承知してます。 今は大和さんと一緒になれることが嬉しすぎて。

義母様も仰っていましたが、家の中では自重します。」


「あぁ、そうしてくれ。あとは、お前たちの人生設計を確認しておこうか? とりあえず、卒業してからの5年間を想定してくれ。」


「まず、卒業前に俺たちは、賃貸のマンションを契約する。

一応、名義は俺だけど、実質家賃を払ってくれるのは仁絵なんだ。

情けないけどな。

 で、そこで同棲というか同居する。」


「そうだな、情けないな。

まぁ、なんにせよ、新居が決まって二人で生活を始めてくれるなら、俺も安心だ。」            義父はそう相槌を打つ。きっつー!


「それから、卒業前には、シーカーによるシーカーの為の会社を興す。

 社長は俺、取締役が仁絵、会長にはできれば義父さん、相談役に義母さんに

ついてもらいたい。

 社員は、まだこれから募集するつもりだけど、義父さんも知っている小坂井宏樹、川谷瑞希、九条知仁に声を掛けてみるつもりだ。

最初はアルバイトでもいいから、ゆくゆくは正社員になってもらいたいと考えて

いる。

 顧問料は、できるだけ希望に添えるような額にしたいと考えてる。 」


「どんな商売にするつもりだ? 」

「義父様、大和さんに代わってお答えしてもよろしいでしょうか? 」

「あぁ、構わんよ。二人で始める会社だからな。 ワンマン経営では困ることも出てくるだろう。 今やそんな風潮がまかり通ると思わないしな。」


「まず、考えられるのは、二人で、もしくは今後増える社員とパーティーを組み、各地のダンジョンに侵入をし、魔石の回収、アイテムの回収、素材の回収をします。

そして、それらを使い、国・企業・個人間との取引をします。 また、社員が他社に販売する際に仲介手数料を取るようにします。」


「ふむ。で?」

「次に、当社社員になったもののレベリング、つまりは人材育成です。

 または、それに付随する形ですが、社員を派遣してシーカーの養成を請け負い

ます。」


「ふむ、まだあるのだろう?」

「最終的には、自社ビル、寮などを完備し、更に最大の目標としてシーカーの地位

向上と生活向上を目指します。 また、民間でシーカー・ギルドのようなものを設立し、シーカーの保護に繋げていきたいと思います。 例え、国に裏切られようと、 逆に私たちが国を食らってやります!」


「・・・、・・・、フフフ、ハハハ、フハハハハ!」

「と、義父さん、どうしたんだ?」 こ、壊れたのか? 話が大きすぎて??


「いや、大和、これが笑わずにいられるか! 御大層な夢だ。 所詮、夢物語かも

しれん。 だが、それが面白い! 俺も乗ってやる!

 これ以上、国に好き勝手に俺たちの人生、俺たちの夢、俺たちの希望を潰れ

させてたまるか!! そうだな、一つだけアドバイスをやろう。

 国を食ってやるとあまり大きな声で言うな! 良いな?

そう言うのは睦み事のように秘かに行うのがコツだ。 まずは、身の回りを固めろ。 強者が干渉できないくらいにな!

 いいか?奴らに目を付けられると、邪魔でしょうがない。

で、勝算はどうなんだ? 仁絵。」


「はい、義父様、大和さんは半年で2級まで上がってくれると約束してくれました。なので、5年もあれば出資金の回収は可能ではないかと考えています。

 その間は、子作りは諦めます、残念ですが。

義父様、義母様も孫の顔は当分諦めて下さいね。   


 また、会社の純利益は初年度で3000万円、3年以内で従業員を増やし、まずは1億円を目指したいと考えてます。 その後、順調に会社の規模を上げていきたいと考えています。」


「よし、あとは役員給与、社員、時間社員、アルバイトの給与の案を考えておけ。

 あとは福利厚生と保険の面だな。キッチリやらないと労基が煩いからな!

実利の面で判らなければ、いつでも相談しろ。

何しろ、顧問だからな。それぐらいは、面倒を見させろ。

なにせ、俺はお前たちの父親だからな、わっはっは!」

大変上機嫌のようだ。


 その日の晩、仁絵が俺の部屋にやってきた。

「大和さん、こんばんは、隣で寝ても良いですか?」

電灯を消し、何度か啄むようなキスを交わして、眠りについた。

仁絵、愛してるぞ!


 次の日の朝、少し早いが朝食前に優も含めて義弟妹に食堂に集まってもらった。


「みんな、おはようございます。今日は、私と大和兄さんから大事な話があります。」

 まだまだお眠な優は、義母に抱っこでしがみついている。


「みんな、おはよう! まだまだ、眠いと思うが頑張って聞いて欲しい。」

「「「「おはようございます!」」」」


「間もなく、俺と仁絵は高校を卒業して、それとほぼ同じ頃にここを出ることに

なっている。 これは、この孤児院の決まりで変えようが無い。

 だがな、ここを出ようとも、俺と仁絵はお前たちの義兄姉だ。

それを忘れてくれるな! それから、俺たち二人は、昨日、血魂の儀を執り行った。 近い将来は、籍を入れることになっているのでよろしく頼む。」

「これからも、よろしくお願いね、みんな!」


「ねぇねぇ、籍を入れるってどういうこと?」 と静香が聞いてくる。

「結婚するっていうことだよー。」と華香が静かに教える。

義隆と夢香はびっくりしたようだ。


「「「「おめでとー!!!」」」」 みんなが揃って祝福してくれたのが、俺たちにとってものすごく嬉しいものであった。

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