第12話 血魂の儀 (改稿済み)

 告白が無事に終わって、ホッとしている。

お互いの想いも通じ合い、生涯大事にしたいと思う。 いや、する!


 再び、ベンチに座り直し今後のことを話し合っている。 手は、所謂、恋人繋ぎと言うやつだな。 初めは妙に照れ臭かったが、それも次第に慣れ、今では当たり前だと思ってる。


 ブーーーっ、ブーーーッ。 スマートフォンのマナーモードのバイブレーションが

電話の着信を告げる。


「あっ、電話のようです。御免なさい。」

仁絵が上着のポケットからスマートフォンを取り出し、話しだす。


「もしもし、はい、仁絵です。 あっ、みーちゃん? えぇ、えぇっ、・・・はい。今からですか? 分かりました。 伝えておきます。 はい、お待ちしてます。」


 んっヤケに親しげだな? みーちゃん?誰だ? 仁絵にそこまで親しい友人に

心当たりが無い俺。 俺の知らない仁絵を見た瞬間だ。


 少し雲が流れ込んできたな。 小雨がきそうな感じだ。 気温も十度ぐらいまで

上がっているから、雪ということは無いだろう。


「どうした?」

「瑞希さんからです。 今から、宏樹さんとこちらに来るって…。 良かった?」

 少し、口調に固さが無くなってきたな。 義兄妹から、恋人兼婚約者になれたからか?

 兄妹として十年間一つ屋根の下で暮らしてきて、前の告白以後は、自分の気持ちを抑える為にワザと口調を丁寧にしてたらしい。


「あの二人なら良いだろう。」


 暫くすると、トントントンっと階段を登ってくる音がする。


「おう、ご両人!」

 右手をを挙げて俺とハイタッチする宏樹。

「おめでとー!! ひーちゃん! 」 と仁絵に抱きついて祝福する瑞希。

「ありがとー!! みーちゃん! 」 をいをい、お前ら抱き合って泣くなよ。

 そこまで、仲が良かったのか?


 いつのまにか小雨が降り出している。 海のある南の方から弱い風が吹いてくる。


「良かったな。なんにせよ、上手くいって俺も嬉しいよ。」

「そうだよー、これで心置きなく4人でWデートもできるもんね♪」

 二人に祝福されて、嬉しさが更に募る。


「あとは、九条だな。」

「あぁ、いつになるやら。」

「「・・・、えーっと。」」 そこ、女子二人。 無理に突っ込んでやらないで!


「それはそうと、お二人にお願いがあります。」

 改めて、友人カップルに話しだす仁絵。 同時に俺の顔を真剣に見つめてくる。


 彼女が友人二人に何を頼むかは何となくは判っているので、何も言わずに首を縦に振る俺。 今の俺に怖いものはない。


「んっ、どうしたの? ひーちゃん??」

「これは義母様からお聞きした、私たちエルフ族。つまり古代エルフ、ハイエルフ、ライトエルフ、ダークエルフ、ワイルドエルフ、シーエルフ、全てのエルフに共通する伝統儀式があります。先天性のオリジナル、後天性を問わずにだそうです。」


「それは、なーに?」 瑞希が興味津々になって聞いている。


「まず、婚約者同士、つまり私達のお互いの左手薬指の先を針で突き、ほんの少し血を出します。」

「ちょっと、痛そうだね。 うんうん、それで?」

「次にその血をお互いの唇に塗り、唇を交わす。 と言う儀式です。意味合い的には血(肉)も魂もお互いに捧げ、肉体が滅びようといつまでも一緒にいたいという誓いをたてるというものだそうです。 あちらでは《血魂の儀》と言うそうです。

こちらで言う結婚に近い儀式だと思います。 是非、お二人にはその証人になって頂きたいのです。」


「仁絵さん、そんな大切な儀式に俺たちで良いのかい?」

「もちろんです。私には、お二人以上のお友達は居ませんので。」

「宏樹、瑞希、俺からも頼む。 お前ら二人にとっては相当重い儀式だと思う。 それは十分分かっている。 だが、俺たち二人の大事な第一歩なんだ。」

 仁絵と一緒に揃って頭を下げる。


宏樹と瑞希は、黙ってお互いの顔を見合わしている。


「二人とも、頭を上げてよー。」

「分かった。お前たちの決意と覚悟を尊重しよう。」

二人が神妙にそう告げる。


**************************************


「「では、僭越ながら…。小坂井宏樹と川谷瑞希が証人を務めさせて頂きます。」」 俺たちの前に宏樹と瑞希が立ち並ぶ。

二人の言葉が寸分のズレもなく重なる。


「ん、んっ、なんだか不思議だね。自然に言葉が出てくるよ。」 と宏樹。


・・・。しばらくの沈黙。

やがて、ここに居る四人が姿勢を正し…。


「汝、神野大和。汝は健やかなる時も病める時も、変わらず神野仁絵を愛しますか?」 と瑞希が俺に問う。

「はい。」


「汝、神野仁絵。汝は健やかなる時も病める時も、変わらず神野大和を愛しますか?」 と宏樹が彼女に問う。

「はい。」


「汝、神野大和。汝は富める時も貧する時も、変わらず神野仁絵に尽くすことを誓いますか?」 再度、瑞希が俺に問う。

「はい。」


「汝、神野仁絵。汝は富める時も貧する時も、変わらず神野大和に尽くすことを誓いますか?」 再度、宏樹が俺に問う。

「はい。」


「「汝ら、身体が滅びようとも、魂が滅ぶまでお互いを尊重し、共に在ることを誓いますか?」」

「「はい。」」


「それでは、お互いに心に近い血の交換を。」 宏樹が促し、瑞希が裁縫道具の

ポーチから縫い針を取り出して俺たちに手渡す。


 俺たちは、互いにそれを左手薬指に軽く突き、ぷくっと出たほんの少しの血を相手の下唇に塗る。 上気した顔でお互いを見つめ合い、ゆっくりと唇を合わせる。


 少し、間をおき、

「「二人の血魂(けっこん)を認めます。」」

宏樹と瑞希の宣言が聞こえた。


 いつの間にか雨は止み、北東の空には虹が掛かっていた。さも二人の前途を祝すように。



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