第11話 この想いを… (改稿済み)
「よぉ、待ったか?」
校門の傍に目線をやや下げ、静かに立つ仁絵に声を掛ける。
「いえ、大丈夫ですよ。」
はにかみながら、そう答える。
「じゃ、行くか?」 そう促すと
「はい」 と仁絵から返事がくる。
校門の周りには、俺たち二人以外が何やらジロジロこちらを見ながら「きゃーっ」だの「地獄に堕ちろ」だの意味不明な声が聞こえる。
あーっ、面倒臭ぇ!スルーだスルー…!! 余計に緊張するわ、声震えて無かったよな? こういうのが嫌だから、仁絵はあまり登校したがらなかったんだろうな。
仁絵に落ち合う前に教室を出る間際、宏樹には仁絵に告白の返事をすることは話してきた。
ツレ(友人)の中では一番信用してるやつだ。
九条には、それとなく話も伝わるだろう。
上手いこと言っておいてくれ。
しばらく二人で横並びで歩きながら、今日学校であったことを話している。
やれうちのクラスは相変わらずで、とか仁絵の愚痴やら困惑を聞かされる。
それはそうだろう、彼女だって人間だからな。
いろいろな感情があって当然さ。
それが、他人に見せるのが苦手だけと言うか何と言うか。
公園へ着く前にコンビニへ立ち寄り、温かいコーヒーとミルクティーを買い
店内で飲む。
昼が近いとは言え、まだまだ寒いからな。
相手に風邪を引かせたく無いし、俺もひきたく無い。
大体、こんな時に出てくる話は、家族のこと、学校のこと、シーカー活動のこと。
「ねぇ、大和さん。私、大和さんをサポートするって言いましたよね?」
「あぁ、そう聞いた。」
「実は、投資信託をやって得た資金を元手にシーカーの会社を立ち上げたいの
です。」
仁絵は、常々、社会におけるシーカーの立場の弱さって言うのに悩んでいたんだ
そうだ。
資源の少ない日本にとっては、今や、シーカーのもたらす魔石燃料は新たなクリーン・エネルギーとして必要なのは間違いがなく、それを得るシーカーはもっとリターンを求めても良いはずだ。
日本シーカー協会は、あくまで国の立場による第三者機関なので本当の意味でのシーカーの為の組織にしたいのだ。
会社設立は、その為の第一歩なんだそうだ。
「まぁ、手伝えることは何でも手伝うさ、微力だけどな。」
「是非、お願いします。」
「でもな、俺や家族のみんなが居ることも忘れんじゃねぇぞ。」
そう、仁絵の悪い癖だ。夢中になった途端、狭窄視野になりやすい。
「それじゃあ、行くか。」 と仁絵を促して店から出ることにした。
公園の南口から入り、植物の植えてある庭園へ横並びで歩を進める。
仁絵も俺も公園に着くなり、次第に無口になってしまう。
あぁ、緊張してきた。踏ん張れよ、俺っ!
庭園は、赤や白の寒椿が咲き揃いとても華やかだ。
「わぁ、素敵♪」 歩みを止めてしばらく眺める仁絵。
「こっちだ。」
俺が右手を差し出すと彼女はそれをしっかりと握ってきた。
庭園の先は小高い丘のようになっており、木組みを利用した屋根付きの展望台が
見える。
「アレに登ろう。」
「は、はい」
展望台の床は、正方形の形をしており東、南、西にそれぞれ一台ずつベンチが
置かれている。 ここに来るのも随分久しぶりだ。
以前来た時は、中学の頃か。
その時は、宏樹から川谷のことが気になって仕方がない。
告白したいけど、どうしたらいい? と相談をされたんだ。
その後、告白が上手いこといって二人は付き合うようになった。
今じゃ双方の親もそれを承知で、婚約もしたらしい。
確か九条には、そのことは内緒にしてると言っていたな。 その内に話すとも。
ちなみになんだが、現在の日本では人口が半減し、超々高齢化社会になりつつある。
年金なんぞ既に崩壊して、人間死ぬまで働けだってよ。
その為か判らないが、政府は子供をどんどん産めよ増やせよと太平洋戦争時代の標語的なことを言い、結婚できる年齢も男女問わず16歳に変わっている。
もちろん、成人年齢もだ。
その為、高校にも学生結婚してるのもある程度は居るし、学内には託児所もあるんだぜ。
「そこに座ろうか。」 俺は南側にあるベンチに仁絵を誘う。
カバンを床に置き沈黙する俺たち。
「・・・。改めまして、神野大和と申します。 本日は、大変けっこうな天気に…。」
「・・・。や、大和さん、おっ、落ち着いて、、、」
「あっ、ごめん。」 再び起きる沈黙。
俺、今、顔が真っ赤だと思う。
「ん、んんっ」 と咳払い。
「ごめん、やり直す!」 立ち上がる俺。
「・・・、仁絵、以前、お前から好きだと言われたの、すっげぇ、嬉しかった!
と、同時にすげぇ戸惑った。 なんせそれまで妹としてしか見てなかったからな。
だから、返事を保留させて貰った。」
「はい。」 静かに応える仁絵。
「で、いろいろ考えてきた。そして、決意を固めたんだ。」
「はい。」
「これから先の人生に、お前が必ず居て欲しい。 俺は、これからもっともっと強くなる。 必ず特級のシーカーになってやる。 俺の背中を預ける。
・・・、だ、だから、、、お、俺と、結婚を視野に入れて付き合って欲しい。
いや、結婚して下さい!」
「はい、はい…。」
何度も頷きながら涙を幾つも溢す仁絵。
そして、立ち上がる。
「私、あなたに何度も助けてもらいました。」
仁絵はそう言いながら、俺の左手を取り握りしめてくる。
「あぁ。」
「あの時からあなたが好きでした。」
「知ってる。」
「私、重いですよ?」
「それがどうした。それだけ真剣に想っていてくれるんだろう?」
「あなたを死んでも離しません!」
「俺もだ!」
そして、どちらからともなく、互いの身体に腕が伸びる伸びる俺たち。
「「愛してます!!」」
お互いを強く抱きしめ合い、同時にそう言っていた。
そして、俺たちの唇はどちらからともなく重なった。
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