第10話 学校で (再改稿済み)

 自宅の孤児院を出発し、そろそろ学校に辿り着く頃、背後から背中を軽く

叩かれる。


「よう! 神野 」

「おはよう、大和くん 」

「大和、宿題終わってるか??」


 上から、クラスメイトの小坂井宏樹(こざかいひろき)。 川谷瑞希(かわや

みずき)、そして、九条知仁(くじょうともひと)だ。

 この三人は中学時代からずっとクラスも同じ腐れ縁の連中だ。普段からつるむことも多いし、シーカー仲間でもある。最初に親友になったのは、宏樹だ。次に瑞希。

知仁とは、中学三年の時から急に親しくなった。


「おはよう。冬休みはどうだった?」 と挨拶を返す。

「おぉ、珍しい。氷姫も今日は一緒か!久しぶり!」 と軽い口調で九条。

 学校の生徒は、仁絵の他人に対してのそっけなさに対して「氷姫」と称することが多い。 まぁ、仁絵も他人に対して、それほど興味を持たないからなぁ。

 なんでだ?


「皆さま、おはようございます。 義兄がいつもお世話になっております。」

仁絵はどことなくぎこちない挨拶を返す。

「九条くん、仁絵ちゃんに失礼だよ! おはよー!仁絵ちゃん!! 」

「仁絵さん、おはよう!元気だったかい?」

こう挨拶したのは、小坂井と川谷だ。 この二人は中学の頃から付き合ってる。


「川谷さん、少し相談があるのですが…」 仁絵は川谷を誘い、俺たちから少し距離を置き何やらゴソゴソ話をしている。 時折、瑞希からキャーなど言ってるのが

聞こえるんだが、何を話しているんだか?


 久方ぶりに4人で集まったので、この冬休みにあった思い出を言い合い、校門を

潜る。


「それでは、私はこちらの校舎ですので失礼をします。」 そう言って皆にお辞儀をし、俺には小さく手を振って離れていった。


「俺、何か嫌われることした? なっ、なぁ???」 九条、お前のその軽い所

だぞ、仁絵が苦手としてるのは。 そう思ったが黙っていることにした。


 ついでにな、九条、お前が仁絵に惚れているのは俺を含む三人はみんな気づいてるぞ! 譲らんけどな。


 教室に辿り着き、ロッカーにカバンを置く。

間もなく始業の予鈴が鳴り響き、担任の芳川帯刀(よしかわたてあき)先生が入ってくる。


 背は高からず低からず、容姿は猫背気味の髪ぼさぼさ、清潔感は捨てきっては

いないけど、スーツがちょっとよれている。 早く嫁さんもらえと内心、みんなが

思っている。


「起立、礼、着席」 クラス委員の桜井君が号令を掛ける。

「それじゃあ、点呼とるぞー! 居ない奴?」

 いつも彼はこんな感じだ。


 偉い人(校長や学年主任)を前にしてもスタイルは一切変えない変わり者。

まぁ、悪い人ではない。 だからか生徒からの信頼と人気は高い。

ちなみに数学の教科担任でもある。


「先生ーっ、みんな揃ってます。」 とノリで答える九条。

「おう、了解! それではみんな、改めまして、明けましておめでとう。 いよいよ泣いても笑ってもあと実質あと2か月で卒業だ。 大学、短大、専門学校に進学するもの。 就職するもの、シーカー、あえて浪人の道を選ぶもの。 いろいろあると思う。 なるだけ、後悔の無いようにするんだぞ。」

「はーい」 と新年の挨拶と芳川先生の言葉に返事をするクラス一同。


「それじゃあ、始業式が行われるので体育館へ移動する。」

芳川先生の言葉に促されて教室を出、移動開始。


 始業式は、たいてい体育館で高等部の全校生徒が揃って行われる。

つまり一学年のクラス+特進クラスだ。

ひとクラスが30人で6クラス、そして、特進クラスは20人。

つまり、一学年は全部で200人と言うことになる。


 一般クラスと特進クラスでは、カリキュラムが異なるので校舎も別棟だし、教科による合同授業も無い。 それでも、入学式、始業式、終業(終了)式、卒業式、

体育祭、文化祭、遠足、修学旅行は一緒にやる。


 さて、仁絵の特進クラスの連中は上位5人の内、各教科の所定以上の成績を収めた者が通学免除が許可されている。 仁絵は、高等部に上がって以後、常にこの枠に入り続けた才女だ。義兄の俺としても鼻が高い。 さすがに海外では大学卒業者

だからな。 でも、なんで高校に?


 全生徒が体育館に入場し、国歌斉唱、校歌斉唱に続き、校長先生のありがたくも

クソ面白くも無い話がダラダラと続く。 話が続く中、あちこちで生あくびの声に

ならぬ声が聞こえる。


 その後、校務主任の先生から3学期の行事予定の報告を聞き、それぞれの教室へ

引き返す。

その際、仁絵が俺の前を通り過ぎて行く際に俺に小さく手を振っていった。九条が

自分にと勘違いして大きく手を振っていた。 可愛いもんだな。


「頼むよ、神野ーっ、お前だけが頼みなんだって!!」

「だから、なんだよ?」

「頼む、この通りだ。宿題見せてくれよー」 と情けない声を出して九条が頼み

込んでくるが、敢えて突き放す。


「お前なぁ、それ自業自得だろうが。お前の為にならんから、見せる気はねぇ。」

「まじかよぉ、頼むよー!」

「知らんて。」 宏樹と瑞希はその様子を見て笑い転げていた。


 教室に戻り、宿題の提出、掃除、ホームルームの後、下校。

校門のところで、仁絵と合流。

図書館のある市の中央公園に寄って行くことにした。

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