第9話 学校へ (再改稿済み)

 あくる日の朝、伊吹嵐に小雪が混じる中、例によってママチャリに乗って裕也さんの喫茶店ナポリへ。

MA-1を着て、マフラー手袋をしていても寒いものは寒い。


 自転車を駐車場に止め、店内に入っていく。

「裕也さん、居る ?」

「どうした、大和 ?」

「あぁ、良かった。」

「んっ、なんで ?」


「昨日、仁絵と一宮ダンジョンへ行ってね。 これ、20階層のフロアボスのカニ脚

だよ。 アレルギーって無かったよね?」

 透明な袋に入ったカニ脚数本を手渡す。


「おーっ、デカいな!大物だったのか?」

「単体で出たからさ、とにかくデカかった。 半龍化してなんとかね。

こっちのは、美江さんのご実家にも持っていって。 あとこっちは、涼香義姉と

繭さんの分ね。」

「おう、分かったよ ! ありがとうな。」


「それから、バイトのことなんだけど。 今月一杯で辞めたいと思って」

「あぁ、もうそんな時期だったな。 辞めてもいつでも来い。 プロシーカーになるって言ってたもんな。 でも、それまでは貧乏生活だろ? 皿洗いや下拵えを

手伝ってくれれば、飯ぐらいは食わせてやるさ!」

ニヤリと笑う裕也さん。格好良いねぇ!


「それじゃあ、また来ます」 そう言ってナポリを出る。


 チャリを漕いで市内のスーパーへ立ち寄り、昨日得たお金でチビ達のオヤツと昼食の某ファストフードのラッキーセットを買い込んで帰宅。

 明日から学校だしな。 宿題を見直して、準備をしねぇと。


「ただいまー!」 そう声をかけて、台所へ向かいお菓子専用の保管箱に買ってきたばかりのお菓子を袋ごと入れておいた。

 とりあえず、今のところチビどもには見つかっていないしな。

ちょっとした義兄ちゃんからのサプライズってやつだ。


 義父は、日曜日でも仕事を頼まれているだとかで、朝から不在。

義母と仁絵は今日から3日分の食材の買い出しで優を連れて三人で出かけている。


 俺は、三姉妹の昼食を準備して4人で食事だ。

「夢香、華子、静香、ご飯だぞー! 」

「「「はーい!!ご飯だー♪ 」」」

 自分たちの部屋から廊下を抜けて駆け込んでくる。


「お客様、ハンバーガーセットは、如何ですか? 」

食堂に来た三姉妹に本日のおすすめを紹介する。


「「「お願いします! 」」」

「ご一緒にポテトとドリンクは如何ですか? 」

「「「もちろん、お願いしまーす♪ 」」」

「いや、お前ら、ノリノリじゃねぇか。 」

 なんか可笑しくってな、4人で顔を見合わせて笑ってしまう。


「兄ちゃん、おもしろい。」 と夢香が如何にも楽しげに言う。

「手は洗ったか? いいな? じゃあ、手を合わせて いただきます。」

「「「いただきまーす。」」」

 いつも思うんだが、さすが三つ子だな! ちゃんと揃ってるし。


「「「わぁ、美味しいー♪」」」

「ハンバーガーも久しぶりだから、美味しいな。」


 さて、食後は食べたラッキーセットの包装ごみとドリンクの空容器を捨て、三姉妹の冬休みの宿題を見ることにする。


 今の時代、紙媒体のドリルなどではなく、液晶ダブレットに宿題が配信される。

その他には、毛筆の書き初めと防火運動のポスター制作らしい。

 書き初めは未だに必須なんだと。


「お前たち、書初めはやったのか?ドリルは? 」

 どの宿題が済んでないかを聞かないとまずいだろう。

俺は、絵だけはからきし駄目だからな。


 以前、優にキリンを描いたつもりでいたら、静香に「それ、馬になってる」と

言われたぐらいだからな。

どうやら、首の長さ、角度が間違っていたらしい。

慌てて書き直したら逆に長くなり過ぎて、三姉妹に思いっきり笑われたっけ。


「「「書初めは、まだ。兄ちゃん教えてー。」」」

 テーブルの上を片付けて、まずは古新聞を展開する。念の為に床の上もだ。

「じゃあ、習字道具持ってきな。」

「「「はーい」」」

そう返事をして彼女たちは自室へ取りに行く。


 ハッキリ言って、学校から支給される練習用紙では足りないので、新聞の折込広告で裏が白いやつを倉庫から持ち出して、とりあえずそれで練習させることにした。


「ほら、要らない紙を持ってきてやったから、これに好きに字を書いてみな?」

「「「はーい」」」

 筆を墨に浸け、徐ろにいろいろと好き勝手に書き出した。

こうして見ると三つ子と言えど性格は様々なんだなぁ。


 一番集中して練習しているのは、静香だ。 字も上手いもんだな。

運筆もスムーズで止め跳ね、払いも丁寧に処理してる。

普段は、三姉妹の中で一番物静かだが、こうした感性はすげえもんだと思う。

さすが、県内コンクールの受賞の常連者だな。


 気分屋気質の華香は、喋ってないと気が済まないのか字の傾きや大きさのバランスが悪いし、墨の雫が思い切り落ちている。

古新聞を床一面に並べておいて正解だったな。

 もう少し、君は落ち着きましょう!


 夢香は、その中間か? 運筆を進める度に独り言でここはこうで…とか言っている。 研究熱心だな。 でも、他の姉妹の邪魔をしているってのはな…。


 一通り、練習が終わったのだろう。 めいめいに本番の紙に課題を書き出した。

さて、そろそろ書き終わったかな?


「「「兄ちゃん、どれが良いかな?」」」

「よし、夢香から、両手に一枚ずつ持って見せてみろ。」

「お願いします。」

「この2枚なら、右だな」夢香が左を持ち替える。

「次も、右」もう一度左を持ち替える。


 こんなことを繰り返し、三人の提出用の課題を決め、それぞれに自分の学年と名前を書かせ終了。


「ほい、ご苦労様!」

「「「兄ちゃん、ありがとー!」」」

「じゃあ、片付けようか?」

「「「はーい。」」」 まず、硯の墨液を片付け、次に筆を洗う。

4人でテーブルの上、床の上に並べた古新聞を片付けている。


「「ただいまー」」「まー」

 玄関から聞きなれた声がする。 義母と仁絵、優が帰ってきたらしい。


「古新聞片付けておいてな」

三人に頼み、「お帰りー」 と買い出し組を出迎えることにする。


 その後は、書初めを頑張った三人にサプライズのおやつ披露。

「食べ過ぎると晩御飯が食べられなくなるぞ!なんせ、今日はカニ鍋だからな!」

「「「えぇ!!! カニ鍋なんて初めて食べるかも(^q^) 」 とお祭り騒ぎだ。


 宿題のお手伝いのお礼にと、三姉妹と優が平仮名チョコレートを一粒ずつ

”あーん”と食べさせてくれた。 それを義母と仁絵に微笑みを浮かべながら見物

される。 可愛い弟妹に癒される。 あー、ブラックコーヒーが美味いぜ。


 夕食間際、仕事に出ていた義父と部活の試合に出掛けていた義隆が帰宅。

義父は、今日はトラック配送の仕分けと積み下ろしパート。 寄る年波のせいか

仕切りに肩が痛いの腰が痛いの、義母に甘えている。


 義隆は、名翔中学の初戦に勝ち2回戦に駒を進めたらしい。頑張ったな!


 夕飯はやはりカニ鍋であった。 義父の前には、焼きガニの脚が三分の一本と晩酌の焼酎がコップで置かれていた。


 ボスドロップ品のカニ脚は、1本が約1mだ。

太さも7から10cmなので、1本もあれば明日の昼の分まで家族の分がカバーできる。今晩はカニ鍋で明日はカニ雑炊にすると仁絵が言ってた。


 みんな好き好きに食べてた。

先にカニ脚を水から煮て出汁をとり、その後取り出して、身を掻き出しマヨネーズやポン酢、胡麻だれで美味しく頂いた。

その後白菜、しめじ、練り物類を投入し、ひと煮立ちさせる。


 その後、風呂に入るまで俺の冬休みの宿題の仕上がりの点検と二学期の復習を

する。


「いいかあ、三学期は最初の実力テストがある。中間テストは無いので注意しろ。1月中旬には大学共通試験。授業自体、2月一週目には終了し、学年末テスト。二週目以後、順次、各大学の入試が始まる。」

 と高校のクラス担任の芳川先生が と言ってたな。

クラスの連中とつるむのも、あと僅かなんだなあ。


 俺は、大学には行かず、プロシーカーの2級を最短で目指したい。

ソロで何とかしようと考えて居たんだが、仁絵がサポートに付いてくれるらしい

からな、パーティーを組んでペア狩でも良いのかもな。


 アレコレ考えている内に時計は午後9時を回っていたので、さっさと風呂に入る

ことにした。


 翌日はいつも通りに起床。朝の修練をこなして朝食。

うちの中学・高校は男子はブレザーにスラックス、それにネクタイだ。

女子はブレザーにスカートまたはスラックスだな。


 女子でスラックスを履くというのも、西暦2020年代に児童生徒の性同一性障害やLGBTの問題が教育の場でも取り上げられるようになり、次第に導入された形だ。

 ついでに書いておくと、スカートの長さは今では下着が見えない常識的な範囲で

あれば自由になっている。


 制服に着替え、学校へ向けて出発しようと玄関へ向かう。


「兄さん!」

仁絵が呼び止める。

「んっ、どうした?」

よくよく見れば、珍しく仁絵がうちの高校の制服を着ている。


「最後の始業式なので、顔を出しておこうかと思いまして。」

「んじゃ、一緒に行くか?」

「はい! 」

 仁絵は嬉しそうに微笑んで首を縦に振るのだった。


 自宅でもある孤児院から、高校まで徒歩で20分程。

昔、そこは競馬場だったと言うが今はその名残はない。

サラブレッドが力一杯駆けているブロンズ像と銘板は、設置されていたか。

通い慣れた通学路。 時折吹く風が少し冷たい。


「それで兄さん、話そびれてましたけど新居のことですが。」

 仁絵が口火を切る。

「そうだ、この間から聞けなかったんだよな。」


「昨日、午前中、義母様と優ちゃんと3人で買い物に出かけた際に不動産屋に

寄りました。」

少し不安気に続ける義妹。

「うん、で?」

「候補は、二つに絞っておきましたので内見をして仮契約をしておきました。」

その概要を示したリーフレットを見せてきた。


 それによれば、「築15年 2LDK 家賃12万 図書館まで徒歩10分 スーパー5分 駐車場完備 敷金礼金不要」外観写真と部屋の写真が幾つか載っていた。


「家賃12万円だと?高過ぎじゃねぇか?それに俺一人で済むんだから、ワンルームでも…」

 注文をつける俺。

「えっ、何を言ってるんですか?私も住むに決まってるじゃ無いですか! イヤなんですか?」

 眦を上げ、やや興奮気味の仁絵。 こうなると俺は勝てない…。

10年の付き合いで身に染みているんだ。


「いえ、大丈夫です。そちらでお願いします。」 人間諦めが肝心か。

まぁ、好意も持ってくれてる訳だし、俺が奮起しねぇとな!と決意を再度固める俺。


「はい、分かりました♪」 本当に嬉しそうだ。


「仁絵、悪ぃんだが、今日学校が引けてから時間くれないか?」

 ちょっと畏まって俺がそう言うと


「えっ?は、はい、分かりました。」 と答えが返ってくる。


仁絵も若干緊張した表情を見せる。 俺も更に緊張が強まる。


 やがて、高校の校舎が見えてきた。

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