第18話 旅立ち ~第一章・エピローグ~

 卒業記念パーティーは、本当に楽しかった。楽しいお喋りありの、カラオケありの、凉香義姉さんの乱入ありの。


 あとは、うちの義両親が下の連中みんな連れてきたり、美江さんのご両親が赤ちゃん連れてきたりともう何がなんやら…一言で言うならカオスだった。


 宏樹と瑞希は、大学が始まる前にアパートを借りて一緒に生活を始めるらしい。

早目に大学を飛び級で卒業して、結婚するのが当面の目標らしい。

 まだ、弊社、株式会社日本シーカーズ・ギルドへ正式に入社するかどうかは決まっていないようだ。


「すまん、まだ御社に入社するか決めかねてるんだ。」 宏樹、相変わらず口調が固いな。まぁ、それがお前さんの良いところだ。

「気にすんな! 堅実さは大切だからね。 アルバイトで手伝ってくれるんだろ? まずは、それで満足しておくよ。」 と返しておく。

 彼らが決めやすいように取締役である俺と仁絵が頑張らないとな!


 九条は、会社の創立式に間に合うように、一度、母親を連れて、富山の祖父母の元へ帰るのだそうだ。母子家庭だから、なかなか帰るだけの旅費が捻出できなかったんだそうだ。でも先月までのダンジョンアタックの連戦で資金ができたので、これを機に元気な顔を親戚に見せてくるとか。


「り、凉香さん、も、もし良かったら、ぼ、僕と・・・」

「あっ、ごめん! 私、気になってる人が居てね♪ 私は、その人のこと必ず落としたいから、あなたは他に良い人見つけなさい。頑張れ!」


 即刻振られ、九条は、両膝を突いて項垂れていた。

九条、次こそ頑張れよ! 俺は、心の中で密かにエールを送っておいた。


「そうそう、大和。 私、次の年度は最初の三か月で大学の卒業の為の卒論を出し終えるから、それ以後なら合流できるから。 一応、経営学の学士だからある程度のことはできるわよ。簿記も取ってあるから♪ それから、今契約しているマンションの期限が迫っていてね・・・。」


「凉香義姉さん、シーカーライセンス持ってたよね?」

「4級だけどね。」

「ごめん、今月中に3級まで上げてくれない?」

「えぇーーーっ、大和って”S”なの? 仁絵ちゃん」

「さぁ、私の口からは、なんとも…。」

 えっ、俺ってS属性なの?? 仁絵?


 まぁ、頼もしい助っ人ができるようだ。 昇級のために手伝いますか!


「おい、大和。3月16と17日は開けておけよ!」 と義父が俺に言ってきた。

「卒業のお祝いの家族旅行よ、楽しみにしていてね♪」 と義母。

「「「えぇ!?どこ行くのーーー?? やったー!」」」 と香三姉妹。

「おでかけ?ってなーに?」 と優。

 香お姉ちゃんに聞きなさい。舌っ足らずの喋り方が相変わらず可愛いぞ! 


「大兄、シーカーの資格って、常人でも取得できるものなの?」 と義隆。

「もちろん、取れるとも。 なんだ、興味あるのか?」

「もち!」

「そか、ならまずは高校へ行け! 話はそれからだ。 それまでに義父さんの朝の修

練で体を作れ。 俺が手伝ってやれるのは、それ以後だ。」

「うん、頑張る!」


 こんな感じで楽しい時間は過ぎていった。


~ また、日は流れる ~


 3月17日、義父の運転する車で、愛知県の知多半島にある南知多海洋公園へ。

ここは、歴史が古い。1980年に開園したイルカやペンギンなどと触れ合える施設だ。

香三姉妹と優は、初めて見るイルカのショーに大興奮だ。


「わぁ、おしゃかなさん、すごいねー! びゅーんって、とんだよ!!」

「優君、お魚さんじゃなくて、イルカさんだよ?」 と静香が教えている。


 こういったお世話は、意外と彼女が得意な分野らしい。

どうやら、俺と仁絵が抜けても、この先も安心かな?

さすがに義隆は思春期に入っているので、義妹たちとも少し距離ができ始めてるな。

いざという時には、頼れるお兄ちゃんであって欲しいと思う。


 その後は、山海(やまみ)にある温泉旅館に宿泊。

海鮮料理に舌鼓を打ち、義父、義隆と男三人で男湯へ。

義母さん、仁絵、夢香、華華、静香、優は女湯へ。


「「「あぁ。。。」」」 義父子三人で、揃って声を上げる。

温泉の魔力ってすごいな。

隣の女湯からは、チビたちのはしゃぐ声が聞こえる。

「こらぁ、泳がないの!」 と義母が注意する声が聞こえる。


 深夜、仁絵を誘って露天の貸し切りの家族風呂へ。

夫婦だけのゆっくりとした時間を過ごさせてもらった。

星空に見える天の川は、最高に奇麗だったぜ。

ちなみに俺たち夫婦だけ、別に部屋が取ってあった。

義両親の気遣いに感謝だ!


 この旅行の内に本当に沢山の写真を撮った。

親父とお袋の、俺と義隆のツーショット、香三姉妹の浴衣姿、優のイルカとのキスシーン・ドアップで、などなど。


 翌18日は、更に知多半島の先を目指して移動。

途中、豊浜漁港の魚広場に立ち寄り、義母さんは昆布やら出汁類やら魚の開きの一夜干しなど沢山買い漁っていた。

義父さんに「買い過ぎだ!」と言われていた。


「母さん、車の中が臭くなるから、送れ!」

「お金が掛かるじゃない!いやよ!!」

とは言ったものの、購入したものを義母はやはり送ることにしたようだ。その間、ずっとブチブチ言ってたが。

 うちの義母を見てると、ラノベとギャップがありすぎるんだが…? 気のせいか?


その後、南知多インターチェンジから有料自動車道で帰路に着く。


 その二日後、今日は3月20日。

いよいよ、俺たちの引っ越しが始まる。、いよいよ新生活が始まるって訳だ!


 と言っても、荷物は新居兼会社事務所に運び済み。

新居は名古屋駅の西側にあるマンションである。

名古屋駅までは、徒歩で5分と言う好立地。

家賃は、怖くて言えない。 嫁さんに訊いてくれ。


 会社の経費として半分は落とすつもりでいる。世帯主である俺が、会社に部屋の一部を賃借させているから、家賃として払ってもらうという計算である。

税理士がなんて言うかだな。


 前夜には、送別会としてみんなで揃って夕食に出かけた。

 これまでにダンジョンアタックで得た収入で、家族みんなに回らないお寿司をご馳走した。みんな喜んでくれたし、何より幸せな気分になる。


 既に最低限の着替えは共用のスーツケースに入れてあり、鞄一つで引っ越しできるから、とても楽だ。布団類は、置いていく。身体の大きくなった義弟妹の誰かが使ってくれるなら、それで本望だ。


 旅立ちの前に孤児院の玄関前で、みんな揃っての写真を最後に一枚撮ることにした。 先日の家族旅行のアルバムの最後に貼ろうと思ってる。

 あっ、額縁に入れて新居に飾るのもありだな! 仁絵に相談してみよう。


「大和、仁絵を頼むぞ!」 親父と握手し、これからの健闘を祈ると言われる。

「親父、世話になりました。18年間育ててくれてありがとうございました。」

「俺を親父と言ってくれるのか」 親父は男泣きをする。


「仁絵、大和を頼むわね! しっかり♪」

「お母さん、今までありがとうございました。私、幸せでした。」 こちらはお袋と仁絵が泣きながら抱き合っている。


「大兄、仁姉、またね!」 と義隆。こいつは、あっさりしてるな。まぁ、こいつはシーカーを目指すと言ってるんだ。いつでも相談に乗ってやるさ♪

「いつでも、新居に遊びに来い。相手になってやる。」 笑いながらそう言ってやった。


「「「兄ちゃん、仁絵ちゃん、元気でね! みんなのことは任せて♪」」」 夢香、華華、静香、いつも三人で元気だったな。

「また顔を見に来るからな、みんなを頼むぞ!」

「「「うん!」」」


「にいに、ねえね、ありがと、ばいばい!」 優はまだよく判ってないかな?

 それでもこれだけ言うと、お袋の胸に顔をつけて見せないようにしてた。

泣いてんのか? 頑張って大きくなれよ。


「じゃあ、みんな、今までお世話になりました! また、顔を見に遊びに来ます。どうかそれまで元気でいてください。」

 それだけ言って、二人で深く頭を下げた。


 仁絵はお袋に感謝を込めて大きな花束を渡し、もう一度、抱擁を交わしていた。


 さぁ、行こうかと踵を返し、仁絵と手を繋ぎ歩き出す。

ここからは、夫婦二人の長い長い旅路となる。

お互いの顔を見合いニコリと微笑む。


 少し歩き、後ろ髪を惹かれるかのように、もう一度だけ俺たちの家を振り返る。

まだ、みんなが手を振っている。

俺たちも負けずと大きく手を振り返す。


 万感の思いを込めて、いざ、さらば!


~~ 第一章・完 ~~

 


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