第7話 ダンジョンで リザルト (再改稿済み)

 化け蟹をなんとか倒し切った俺たちは、暫しボーッと突っ立ってしまっていた。

いかんいかん、こう言った時が一番殺されやすいんだった。

半龍化を解除し、デバフをかけ直しつつ、どかっと腰を下ろす。


「おい、仁絵、怪我は無ぇか?」

 俺の呼びかけに彼女は正気を取り戻す。

「えぇ、有能な前衛さんが頑張ってくれたので全くの無傷ですよ。ありがとう。」

 俺の横に立ち、そう言った彼女は腰を折り見上げる俺の顔の横に手を当てながら、

眉間にキスをする。

 熱い唇の感触に真っ赤になる俺。


「頑張ったからご褒美ね。」

柔らかく微笑んでくれる。


「んんっ、んじゃ、周りを警戒してドロップ品を集めようか。トレジャーボックスに入れてくれるか?」

 仁絵の手を借りて、立ち上がりながらそう言った。 なんか気恥ずかしいぜ、

照れる。


「大和さん、いろいろ落ちてるみたいですよ!」

 まずは、長さ2m×幅1mのキチン質の蟹の装甲板。

トリミングすると横80cmぐらいになるか。蜘蛛の巣状のヒビがかなりデカかった

からなぁ。

「これで、胸当てでも作ります?」

「いや、やめとくよ。特撮変身ヒーローものの悪役怪人になりたくない。」

仁絵の軽やかな笑い声が響く。


「そうだ、義父さんに丸投げしよう!」

義父さんの困った顔を思い浮かべてほくそ笑む俺。


「では、これは?」

 仁絵が長さ1m程の3節ある蟹脚の束を指さす。

しかし、何本あるんだ?

 少なくとも20本はありそうだぞ?それに数が合わないじゃん。

 流石、ダンジョンだな!


「おっ、こりゃ食いでがありそうだな。鍋にするか、焼くか?なんにせよ、義父さんが喜ぶ。 量があるから取っておいても良いが、裕也さんのところと凉香義姉さん、繭さんにもお裾分けするか?」

「それは、お任せします。」


「あとは蟹爪が二つと、魔石か。流石にボスだけあってデカいな! それに真っ赤だ。」

 中規模ダンジョンのボスだけあって、魔石はそれなりに直径30cmぐらいと大きい。


 これは、強制買取だからなあ。

 買い叩かれるにしても、そこそこ元は取れるかもしれない。


 今回は甲羅の横幅が15mの化け蟹一パイだったが、月が変わると5mのヤツが三パイになったりするらしいから不思議なもんだよなぁ。


 他に目ぼしい物もないようなので、仁絵にトレジャーボックスへの収納を要請。

収納トレジャーボックス

彼女はドロップアイテムに手を触れ、次々に収納していく。

本当に便利なものだよな。


 前に仁絵に聞いたんだが、容量は魔力に比例して増えるらしい。

彼女の場合だと、名古屋城の天守閣の半分ぐらいらしい。

 それって、凄くね?半月型のポケットをローブのお腹に着けてもらったら、昔

流行ったアニメの青いネコ型ロボットみたいだよな。


 そして俺は放り投げた短槍を回収。

あっ、これはもうダメだ。再生も再利用もできねぇ。

穂先の刃は完全に折れてしまっているし、棹も大きくヒビが入ってしまっている。

買い替えかぁ。 余計な出費が痛いな。

流石に俺自身の筋力が強くなりすぎてるからなぁ、魔鋼製の物を探した方が良いのかもなぁ。


 魔鋼ってのは、ダンジョンで採れる鉱石で鉄に似た物質と言われる。


 硬さはオリハルコン>アダマンタイト>ヒヒイロカネ>ミスリル銀>魔鋼>

(ここまでダンジョン産)>特殊工業鋼>鉄>青銅(ここまで地上世界の産)の順になる。

 ここでは、あえて、木や石は別にした。


「よし、回収できたな?そろそろ、地上に戻ろう。」

「はーい。明晩は、カニ鍋にしてもらえるように義母様に頼んでおきますね♪」

「頼んだ。」


 20階層は結局、ボス部屋一室だけだった。

下りの階段が見当たらず、ダンジョンコアのある部屋へ繋がる隠し扉も今回の

アタックでは見つからなかった。


 広いボス部屋の本当に奥の奥、石筍の茂みのような箇所にポーターの魔法陣が

あり、それに乗って協会のポータールームへと転送された。


 明るいLED照明に暫く目が眩む。

 念の為の人間には無害な消毒用のスプレーが散布され、室外に居る協会の女性

スタッフの労いの声がスピーカー越しに聞こえてくる。


「仁絵さん、大和さん、お疲れ様でした。 無事のご帰還でなによりです。 魔石は、必ず買い取ることになっておりますので、提出をお願い致します。 また、買取希望のもの、鑑定希望のものは、それぞれのトレーに置いて提出して下さいませ。 鑑定後、お呼びします。 受付票をご持参の上、カウンターまでお越し下さい。

 本日はご利用ありがとうございました。」


 まぁ、雛形があるとは言え、このセリフを聞くと地上に戻ってきたと言う気に

はなる。


 魔石用のトレーには、化け蟹のものや砂漠ゴブリンなどの小さなものまで残さず

乗せる。 今回、モンスター素材などでの買取希望は無いので、そのまま受付票の

レシートを取り、ホールの喫茶室で休憩することにした。


「仁絵、何にする?」

「私は、ミルクティーとモンブランのケーキセットで♪」

「俺は、何にしようかなぁ。 半龍化したから、腹が減って仕方ない。 ガッツリ

食べても大丈夫か?!」

「うん、良いですよ。 でも、帰宅したら晩御飯はちゃんと食べて下さいね。」


 ウェイトレスを呼び、仁絵のケーキセットと俺の食事を頼む。

俺は焼きそば大盛りを3人前とアメリカンコーヒーとイチゴのショートケーキに

した。


 空腹の為、急いで流し込むように焼きそばを啜る。

いやぁ、美味い!何杯でもお代わりできそう。

正面で仁絵は、生温かな視線で俺を見て微笑みを浮かべてミルクティーに口を

つける。


「美味ぇ!腹が減り過ぎていたから、ひと心地ついた。」

「本当、美味しいですね。」

 仁絵は、ミルクティーを美味しそうに飲んでいる。


「なんだ、ケーキ食べないのか?」

「大和さんと一緒に食べたいと思って。 そうかと言って、急がなくて良いですよ。急ぐと消化に悪いんですからね。」 と俺に注意を促してくる。

「へーい。」 俺は3皿目を口にする。


 俺らの周りに居る他の客は、俺の食べっぷりと優雅にミルクティーを飲む仁絵を

見比べて唖然としていた。 焼きそばを食べ終わり、水で口の中を洗い流す。


「待たせたなぁ。」 昔流行ったステルスゲームの蛇のような名前のキャラクターのセリフを真似ながら、仁絵に言ってみた。

「別に待ってないけど??」とあっさり返しやがった。 なんか寂しい…。


 ショートケーキの周りに巻かれたセロハンを剥がし、皿ごと彼女の方へ渡す。

「先に食べて良いぞ。」

「じゃあ、私のもどうぞ。」 とモンブランが俺の方へとやってきた。

 カップケーキの上の絞り機で素麵状に巻かれたペーストはサツマイモを使ったものが多いのだが、ここのは天然和栗のものが使われていて、甘さもそこまででなくとても美味い。


「これ、美味いな!何個でも食べられそうだ。」

「大和さん、こちらのも美味しいですよ!」 そう言って、ショートケーキをこちらへと戻してくる。スプーンでひと掬い、そして頬張る。確かに美味い。


 二人して顔を見合わせながら、何度も「「美味しいな(ねー)」と言い合う。


「72番のお客様、買取カウンターへどうぞ!」 とスピーカーが俺たちの番号を

告げる。

 急いで残りのケーキを食べ、それぞれの飲み物を飲む。


「すいません、72番です。」そう言って、受付表を職員のお姉さんに渡す。

「お待たせしました。魔石一つをお預かりし、買取金額が出ましたのでお伝え

します。 今回は直径28㎝のものが一つ、こちらが56万円となります。 それから、極小の1から3cmのものが28個ありました。 こちらが全部で14万円となり

ます。 併せまして70万円となります。 源泉徴収が本年より30%から35%に変わっておりますので、45万5千円のお戻しとなります。 現金になさいますか? それとも、お振込みになさいますか?」


 喋り口調はあくまでビジネスライクだな。 丁寧な口ぶりだが愛想も何も無い。


「じゃあ、15万5千円を現金で。残りの30万円を15万円ずつそれぞれの口座へ入れて下さい。」

「承知しました。レシートは確定申告に必要ですので、保管をお願い致します。」

 受付嬢は、現金を「日本シーカー協会・愛知県支部」と印刷された封筒に入れてレシートと一緒に手渡してくれる。


「またのお越しをお待ちしております。」

「ありがとう(ございます)」

 礼を言い、一宮ダンジョンの管理棟を出てロータリーに出ると、既に孤児院の軽ワゴンが俺たち二人を待っていた。


「おう、お帰り!怪我は無いか、二人とも。」

 義父の顔を見て、ホッとする。


「ただいま、義父さん」

「ただいま戻りました、義父様」


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

皆様、こんばんは。

作者の天狼星です。第7話を半分書いたところで、一度、第1話から6話までを読み返して、修正、加筆を行なっております。少し描写を付け加えたりですかね。ほんの少しだけ、読むスピードが変わるかもしれませんが、大きく変わってはおりません。興味のある方は、ご一読頂けますと嬉しい限りです。

宜しくお願い致します。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る