第5話 ダンジョンで (再改稿済み)
一宮ダンジョンに隣接する日本シーカー協会の建物は、三階建てのビルだ。
管理フロアでIDチェックと探査探索登録を済ませた俺と仁絵は、お互いの装備の状況を再度チェックし直す。
例えば俺なら、身体に取り付けたレザーアーマーのベルトに必要以上の遊びが
生じていないかや今日のメインウェポンの短槍の先端カバーや脇差の鞘を含めた全体を覆う袋などが外れていないかなどだな。
刑法の刃物の所持に関する条文ってのがあってな、それには「刀身が10cmを超えかつ刃の幅(刃峰の間)が1cmを超えるものを普段所持し、ダンジョンに持ち込む
までは、安全の為に丈夫なカバーで刃を覆い封印を受けなければならない。」と
されている。
俺の短槍の替えの穂先も該当する訳だな。 それらもやはり封印されたケースの中に入れられてるんだぜ。
まぁ、セキュリティゲート潜る時にスタッフに封印を解いてもらえってことだな。これも建前でしか無くなってるんだが、シーカーとして義務付けられてるからな。
面倒と思ってもしょうがねぇや。
仁絵の方にもローブの破れとかは見当たらないし大丈夫かな。スタッフの先端に
埋め込まれている水晶の封印はきちんと貼り付いた状態だし、損傷もないようだ。
自己主張の激しい二つの丘は、お隠れになって寂しい限りだが内緒にしておこう。
彼女も俺の方を見て、ふんふんと首を縦に振って確認してるし。
少しして互いに顔を合わせ、
「「異常なーし!」」
と声を掛け合う。
側(はた)から見たら、バカップルにでも見えるのかな。
なんか「チッ」とか「ケッ」とか「爆発しろ!」なんて言うのが小さく聞こえる
んだが?
「仁絵、やめろって、俺の腕を胸の谷間に挟もうとするんじゃない、周りを煽るな!」 小声で彼女に言うものの、「ウフフ…」 とどこ吹く風のようだ。悪戯成功みたいな感じで、艶然と笑ってやがる。
他の男のシーカーの中には血涙流してるやつもいるし、顔を赤くして俯いてる奴もいる。中には相方の彼女さんに頬を思いっきり抓られているのも居る。
それ程なのか??
まぁ、ここで時間をくってもしょうがないし、先へ行こうかと二人でゲートに向かって歩き出す。
「おはようございます。」
ゲート前には二人の職員が立ち並ぶ。要はここで最終チェックと武器類の封印を外してもらう。
いつも思うんだが、武器の保護ケースって使い捨てなのな。毎回、メインとサブ、メインの替えの穂先の封印代と保護ケース代だけで5000円取られる訳だから、懐にチクチクと痛みが…。
「おはようございます。今日は、何階からですか?」
黒いスタッフジャンバーを着た職員が封印を破りつつ聞いてくる。
日本シーカー協会のこの保安ゲートの担当者の皆さん、ガタイがすごく立派なのな。
あまり無いことなんだがテロリストや暴漢の鎮圧や漏れ出したモンスターに対処
する為、最低限でも3級以上のシーカーの資格保持者って義父から聞いている。
「とりあえず、15階層ですね。様子を見て、行けるなら20階層まで行きたいと思ってます。」
仁絵が事務的に答える。
「判りました。封印のチェックに異常は見当たりませんでしたので、ポーターを設定します。お気を付けて。」
「「ありがとうございます!」」
そう言って、俺たちはセキュリティの先にあるポータールームへと進む。
ポータールームは、白い壁に覆われた何も無い部屋だ。俺の部屋よりも数段広い。
なんか悔しいぞ。
天井に取り付けられたLEDの発光パネルが部屋を照らしている。床には二重の円が重なるかの様な魔法陣が描かれており、さながら∞のマークの様だ。
義母が言っていたが、時空間魔法の応用らしい。
今、「なら時空間魔法のディメンジョンドアで自宅からダンジョンに入れば良いのでは!?」と考えたヤツ、あんた頭が良いね!
シーカーの素質が十分にあるよ。 その柔軟な思考は今後も大事にして欲しい。
でもな、それをやると違法なんだとさ。
あくまで権力者の方々は、俺たちシーカーを厳重に管理したいらしい。
魔法陣に魔力が供給され、陣に使われた魔石が鈍く赤く光出す。室内灯が消え、赤い光が消えると俺たちは既にそこには居なかった。
目の眩み、ダンジョンへの転移酔い(気持ち悪くなるんだ、個人差はあるけどな)が落ち着き、15階層の最後の部屋に着く。
室内はほのかに明るい。
床の魔法陣は既に動いておらず、静かなもんだ。
部屋の広さは一宮ダンジョンのポータールームと変わらない。その辺は何らかの法則があるんだろう。
違うのは、石壁造りになっていると言うことだ。
壁には両開きの扉があり、その向こうにはフロアボスの一団がいる。
確かゴブリンジェネラルとコボルトエリートを中心とした混成だったけな?
ゴブリンもコボルトもヨーロッパの方の妖精として知られる。過去に流行ったライトノベルやテレビゲームだと、どちらも雑魚扱い。
一般的な「ゴブリン」は身長が1mから1m20cmぐらい。
灰色や緑色がかったイボイボの皮膚を持つ。
頭髪は無毛かチョビチョビだ。
頭部に角を持つものも確認されている為、通称「小鬼」とも呼ばれる。
雄だけが存在し、繁殖の為に人間(常人や亜人の総称)の女性を犯し繁殖すると言われている。被害に遭った女性は「苗床」なんて言われてるらしいな。
そうなると生還者は、ほぼ居ないと言われる。 繁殖力は旺盛。一度に3から4匹の子供が生まれるらしい。
集団で生活をすることで、種族の弱さを克服している。
武器も粗末な石器、青銅製の簡単なものを造る頭はあるんだそうだ。
稀に生まれる「ゴブリンキング」は、身長2mにもなり侮れない。
5級のシーカーでは対抗できないので注意が必要。
近似種に「ホブゴブリン」、「バクベア」がいる。
一方、「コボルド」は鉱石であるコバルトの語源にもなった妖精だが、闇堕ちしたことにより、今の犬頭を持つ邪妖精となったと言われる。
闇堕ちしたことから飛行能力は失ったが、俊敏な動きを得ることになった。
通称は、「犬頭」。
似た種族に「ノール」という奴らが居るがあれは頭部がハイエナだからな。
見分けは着くだろう。
身長は80cmから1mほどと普通のゴブリンよりも小さい。
部族長クラスの「コボルドエリート」は、「ゴブリンエリート」よりも目にする
ことが多いだろう。
ゴブリンと違い、メスがいるので部族内で繁殖しやすく、沢山の部族が居るものと思われる。子供は半年周期で生まれ、多産。
木製の武器、簡単な石器や小型の粗末な弓などを器用に使う。人間(常人、亜人をひっくるめて)に対しては、中立から反目の立場を取る。
ゴブリンよりも小型なので、隷属していることが多い。稀に生まれる「コボルド
キング」は、身長180cm程にもなる。こいつは、舐めてかかると死ぬことに繋がるので注意が必要。
どちらにも共通して言えるのは、「ドワーフ」や「ノーム」と言った地属性の妖精の因子を持った者とは相性が最悪だってことだ。
一宮ダンジョンの15から20階層ってえと、砂漠のフロア構成だって話はしたと思うんだが、不思議なもんだよな?
なんで、5階層ごとにシーンと言うか環境が変わるんだ?
俺はダンジョンコアと言うかいわゆるダンジョンの大元になる「核」ってのを拝んだことがないが、何らかの意思があるような気がしてならない。
んーっ、どう言えば判りやすいかな?
そうか、環境シミュレーションをして人間の適応力を調べてる(実験してる)ん
じゃねぇか?こんな風に考えれば想像がつきやすいか。
ポーターフロアの階段を降り、16階層に着くなり真夏のような日差しが降り注ぎ、露出している肌を焼く。
「仁絵、日焼け止めは?」
「ん、大丈夫。さっき塗っておいたよ。このローブも通気性は良いし、ブリーズ
コントロールで私の周りに冷たい風を回るようにしたよ。 大和さんこそ大丈夫?」
「まぁ、金属鎧じゃなくて皮鎧だからな。 表面が焼けるようなことは無いからまだマシさ。 エラかったら言うんだぞ?」
「はーい。」
ゆとりあるねぇ、さすが3級シーカー様だ。
このフロアに着いた際に聞いたんだが、彼女は義両親と19階までは終わらせてる
らしい。 俺でも15階までなんだがね。
俺の場合、高校でシーカー・ライセンスを持っているやつと潜るかソロしか方法が無いんだよな。 決して、ぼっちと言うわけじゃないんだぜ?
「何で最後まで行かなかったんだ?」
「それは、大和さんとフロアボスをクリアしたかったからに決まってるじゃないですか。」 頬が少し赤くなって、仁絵ははにかむ様にそう言った。
「へぇ、そうかい。」 俺も心なし顔が熱くなってきた。
「じゃあ、お嬢様お手をどうぞ。」 左手を軽く握り自分の腰に当てる。
「むぅぅぅぅ…、大和さんの癖に。」 耳まで真っ赤にして、そこに自分の腕を
通してくる。 なんだ、この可愛い動物は?
砂漠の特徴としては、日中は暑く、夜はかなり冷えると聞く。
また、ほぼ雨が降ることがないが極たまにかなりの量の雨が降り、それが湧水として湧出し、その周りに植物が育ちオアシスを形成する。
一般的に爬虫類や甲虫類などの昆虫類が生息する。
これが一般的に知られる現実の世界の話だ。
それがファンタジーの世界だと砂漠ゴブリンだの砂漠トカゲに乗ったゴブリン
ライダーだのが出てくる。
「砂漠ゴブリン」ってのは、砂漠での生活に適応したゴブリンの亜種だな。
肌の色は白からベージュの間だ。 ノーマルなゴブリンと違い、頭髪や眉毛は無い
ようだ。
また、この砂漠のシーンには、稀にオアシスにリザードマン(トカゲ人間)が集落を作っていることもあると仁絵が言ってたな。
ほら、そんなことを思い出してたら砂漠ゴブリンの皆様の歓迎ときた!!
足元に数本の矢が突き刺さる。
「大和さん、奇襲です!」
「知ってる。とりあえず、俺の後ろに隠れてなよ。」
現認できるのは、砂漠ゴブリン6にオオトカゲが1だ。だから、砂漠ゴブリンが5とオオトカゲ&ゴブリンライダーが1組が正解か。
なんか知らんが小鬼ども奇声を上げてやがる。
をいをい、奇襲ってのはこそっりやるから有効なんだぜ? 例外はあるかもしれねぇが。
砂漠ゴブリン共は、砂漠の地形適性があるので移動に支障は無いんだが、俺たちは足を取られてしまう。
飛来する矢は、短槍を振り回すことで叩き落とす。
ちっ、埒があかねぇと毒付いていると
「援護します。」
仁絵は無詠唱、しかも複数詠唱で目潰し〈ブラインド(目つぶし)〉と〈スワンプ(泥沼)〉を行使する。
弓を構えた2匹の砂漠ゴブリンは、レジストに失敗したのか悲鳴を上げて狼狽えている。
〈ブラインド〉は、文字通り相手の視覚を奪う呪文だ。
解除呪文かリバース呪文を掛けないと解除ができない。
〈スワンプ〉は地形にかける呪文で、指定した地点の直径3mが泥沼になり足を取られる。
やったぜ!オオトカゲは、急に足元が泥沼になり身動きが取れずジタバタ暴れてやがる。おっ、トカゲ(ゴブリン)ライダーが落ちたぞ!
「ナイスだ、仁絵!んじゃ、次は俺だな、まずは30%開放な?」
「気をつけて!」
うらぁぁぁぁぁあ!!!
自分に掛けた何重ものデバフ(負荷)の封印を一部解除し、一部の力を取り戻す。
はぁ、この開放感が癖になるぜ♪
さてっと、気合い十分、短槍を振り回して突っ込む俺、遅れて動ける砂漠ゴブリンどもも俺に向かって来やがった。
会敵すると同時に右横に構えた短槍を左へと薙ぎ、〈横風車〉の武技をかまして
一閃。 小鬼2匹の喉を切り裂き、命を奪う。
一瞬、緑色の血飛沫が飛び散る。
更に返す手で、もう1匹の眉間を突いて始末する。
「喰らいなさい、〈マジックアロー〉」
仁絵の周りに魔力で生まれた10本矢が、失明状態の砂漠ゴブリンに飛んでいき
全てが命中する。 呻き声が上がり、残る砂漠ゴブリンアーチャーを撃退した。
オオトカゲから落蜥蜴(?)したもう1匹は、もがくオオトカゲに踏まれて既に
絶命していた。 塵となって消えた砂漠ゴブリンの痕には小さな暗赤色の魔石が
残る。
仁絵にそれを集めるように頼み、俺はオオトカゲの近くへ向かう。
《逆らうな、鱗を持つものよ。従え。》 念話で話しかける。
オオトカゲは、ググァと声を上げ抵抗を見せずに従った。
《それで良し、従順であれば餌をやろう。 我らを下へ向かう階段まで乗せよ。》
すると、オオトカゲは首を数度振り了承の意を示した。
俺たちは、オオトカゲにタンデム騎乗し、階下の階段へ向かうまでに数度の戦闘を繰り返す。 俺だけでやってみたり、仁絵だけでやってみたり、武技魔法無しで格闘戦だけでとか、とにかくいろいろ試してみた。
オオトカゲも、暴れることができて満足そうだ。
やがて、砂の上に人工的な石で囲まれた階段が見えたので、トカゲにそこへ行く
ように指示を出す。
到着したら、オオトカゲを伏せの状態にさせ、先に降りる。
「お嬢様、お手を」 と言い、仁絵の降りるサポートをする。
やっぱり顔が赤くなるな。
「やっぱり、大和さんの癖に生意気だぞ・・・」 とかなんとか小声で言ってたけど、スルーしてやった。ふふん♪
その後、オオトカゲに着けられた鞍や喰み、頭絡を外してやりヤツを解放してやった。
「ありがとうな!」 自由になれて嬉しそうだな。
そして、俺たちは下り階段を降りて17階層を目指すのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます