第4話 ダンジョンへ(再改稿済み)
バイトから帰ると、仁絵が部屋から出てきていて俺の帰りを待っていてくれた。
「ただいまー!」
「兄さん、お帰りなさい。」
「これ、裕也さんからな。明日のおやつにでも食べよう。」
「はい、ありがとうございます。」
と大事そうに受け取る。
靴を脱ぎ、下駄箱へ。そして、二人してリビングへ移動。
「義父さんは?」
「既に帰宅してますよ。夕飯食べたら、優ちゃんと一緒にお風呂に入られてもう寝室へ。」
「そりゃ、早いな。義母さんは?」
「義母様は、明日の朝食の準備を先ほどまで私と一緒に。」
「んじゃ、台所かな?」
「あとは、片付けだけだから私にお風呂に入りなさいと。」
「んっ、分かった。 ちと台所行ってくるわ。それ貸しな。」
ミニケーキの箱を再度彼女から受け取る。
「じゃあ、お願いしますね。」
仁絵とはそこで別れる。
「ゆっくり入れよ。」
「はーい。」
さてと、義母さんに報告っと。
台所に行くとガチャガチャと食器を重ねる音が聞こえる。
「ただいまー!義母さん、これ裕也さんから。」
「あら大和、お帰り。何かあるの?」
「裕也さんが余りもので悪いけど、ってさ。ミニケーキだって。 明日のおやつに
チビどもに出してやってくれって。」
「あらあらあら、それはあの子たちも喜ぶわね。」
そう言って、義母さんは大事そうに両手で受け取る。
「あとは、どれを仕舞うの?」
「もう大丈夫よ、ほぼ終わったから。裕也君は、元気そうだった?」
「あぁ、世は事件(こと)も無しだってさ。 美江さんもようやく落ち着いた
みたい。 来月には復帰できそうだって。 あとは向こうの親御さんとも何とか
なりそうらしいよ。 俺の卒業までには、一度、三人で顔を出すってさ。 」
「そう、なら良いわね。安心した。」
こうしてみると、エミル義母さんって昭和時代の肝っ玉母さんを思わせるよなと
考えてしまう、って古いか!
「ねぇ、大和。仁絵ちゃんのことなんだけど。」
「ん、仁絵がどうかした?」
「あの子、あなたと一緒に卒業するでしょ? 新居とかどうするか聞いてる?
あの子のことだからちゃんと計画してるとは思うけど。」
「あぁ、夕べそんな話をしてたな。」
「なんて言ってたの?」
「いや、俺の新居のことなんだけどさ。「私の方でいくつか見繕った」って言って
いたよ。」
「じゃあ、あの話は本気だったのね。」
「あの話って?」
「それは、また仁絵ちゃんからあるんじゃない。 あなたは受け入れてやれば
良いのよ。 あんな子、今時珍しいわよ。 大切にしてやりなさい。」
「そりゃ、仁絵は大切だよ。 うん。」
「なんだか判ってるか判ってないかの反応ね。 まぁ、良いわ。 あなたも早く
お風呂に入って寝なさいな。 明日は、下の子供たちとのお出かけ、お願いね!」
「今日は年始初日だったからかなり忙しかったんだ。 んじゃ、おやすみ。 」
俺は台所から自室に戻り、タオルと着替えを準備して風呂場へ行くことにした。
**************************************
翌日の土曜日は、早朝の修練とチビどもとのお出かけ。
保険会社のおばちゃんがくれた近場の遊園地へ引率。
義母さん、仁絵、香三姉妹と優、俺を入れて7人のパーティーで児童用の文房具の
キャラクターショーを襲撃(楽しん)だ。
チビどもも満足していたから良しとしよう♪
午後3時には、みんな揃って帰宅し、裕也兄さんから昨日いただいたミニケーキを
みんなで食べる。
「ねぇね、あーん!」
優が夢香に手づかみで差し出す。
それを「あーん」と受けると華香と静香も「あーん」と口を開けて待っている。
優がそれを見て、キャっキャっと大はしゃぎだ。
「んじゃ、明日の準備をしてくるよ。」
義母さんにそう声を掛け、仁絵と修練室に移動し、明日のダンジョン・アタックの
準備をする。
俺のメインの武器は、棹の部分が1.5mの短鎗、穂先は鉄製の直刃で長さが30㎝ぐらい。
穂先の替え刃は3本もあれば良いか。
もしダメになれば棹もあるし、いざとなれば無手(むて)術だ。
サブ武器には、刀身40㎝の長脇差。
他には、投てき用の苦無小を何本かだな。
防具のレザーアーマーに補強の金具を付けてっと。
心臓の上の部分に鉄のプレーを。
あとは、両脇の部分に鎖帷子の端切れを取り付けておく。
あとは、傷薬、毒消し、水袋、ランタンとエーテル(ランタン用の燃料、火をつけて投げつけると、さながら火炎瓶だ)を何個か。
ランタンはダンジョンのフロアやシーンによって使うかどうか分からないが、
あった方が便利だろう。
仁絵が何層まで行く気かしらねぇが、とりあえず、こんなところか。
どうやら、水袋と弁当はあいつが手配済みのようだな。 よしよし。
仁絵に声を掛けると、あいつも準備は万端らしい。
魔法師用のスタッフに触媒、各種ポーション類は準備してあるらしい。
「仁絵、そう言えば現地までの足は?」
「義父様に車をお願いしてありますよ。」
「了解。」
その日は、夕食を済ませたら、風呂に入って早々に寝た。
さて、日曜日だ。昨夜は、ぐっすり眠れた。 空は快晴。 冒険日和だね。
起きてすぐに修練場で柔軟をして身体をほぐしていると、仁絵も降りてきて一緒に柔軟をする。 別段、二人だからっていつもしゃべっている訳でもない。
黙々と続けて、身体がほぐせたら食堂へ移動。
既に義両親が起きてきており、義父さんは、朝刊を読んでいる最中。
義母さんはご飯を茶碗によそいでいるところだった。
チビどもは、まだまだ夢の中のようだ。
「おはよう(ございます)」
「うん、おはよう」
「あら、おはよう。今日はダンジョンアタックよね?お弁当準備してあるわよ。」
「ありがとう!」
「義母様、ありがとうございます。」
「さぁ、食べましょうか。」
配膳を終わった義母さんが言う。
「いただきます。」 と義父が言い、
「「「いただきます」」」 義母、俺、仁絵が続く。
「で、今日は何層まで行く気だ?」
「行けるのであれば、20階層のボスフロアかしら。」
「大和次第だな、足を引っ張るなよ?」 義父が俺に言う。
「へーい。」 と返事はするものの、うっせいわ!と心の中で毒づく。
今日行く一宮ダンジョンは、愛知県北西部の旧尾張一宮駅の真下にある。
愛知県尾張地方の一宮市、愛知県の西部がまだ尾張の国と言われた太古の一の宮の
真清田神社というのが近くにある。
昭和の時代には毛織物で名を馳せた地域らしい。
あとは、日本の三大七夕祭りでも有名だったみたいだな。
一宮ダンジョンへは、うちの孤児院からは車で約40分。
ママチャリ(自転車)なら約60分ってところか。
昔は、名古屋鉄道(名鉄)本線の名鉄一宮駅とJR東海(もっと昔は「国鉄」と言ったらしい)の東海道本線の尾張一宮駅が隣り合っていたが、大災厄のあったあの日に駅ビルが倒壊しクレーターの様な大きな穴が空いた。
当時、愛知県は、国に陸上自衛隊に出動命令を出し、なんとかクレーターに覆いを取り付けるのに成功。
そして、駅ビルの破損を免れた部分を補修、リメイクすることで管理棟を整備して日本シーカー協会に管理を委託した。
「日本シーカー協会(通称、協会)」と言うのは、探索者であるシーカーを統括する国の第三者機関のことだ。
主な役目は、シーカーのライセンスの発行、ランクの認定と付与、魔石の買い上げ代行と企業への下げ渡しである。
協会は、そうして得た資金を必要な手数料を除いて、国(財務省)に上納する。
国は、それを一般会計に組み込み次年度の予算にする。
協会は、そうして得た手数料で組織の運営と職員への給与の支払いに回す訳だ。
一方、シーカーは、魔石を売る際に国が定めた「魔石取引税」というものを払わなければならない。これは、昨年までは30%であったが、年々高くなっている。
どうにかならないものかね。?
だから、シーカーの収入は、魔石の販売額とダンジョン素材の販売で得た収入が利益の全てになる。 支出は、武器類、防具類、消耗品類、各種保険などなど。 全ての
シーカーがセレブと言うのは幻想でしかないんだよ。
管理棟に併設されていた嘗てのショップは、スーパーマーケットに姿を変え、今でも庶民の台所として賑わっている。
一宮ダンジョンは、B級ダンジョンで3から5級までのシーカーの推奨と言われている。ここは、これまでに20階層までが確認されている中規模ダンジョンだ。
義父に以前聞いたが、それよりも下の階があっても不思議じゃないとのこと。
1から5階層までは洞窟のような造り。
6から10階層までが草原やジャングル。
11から15階層までが中世ヨーロッパのような町。
そして、16から20階層が砂漠や地底湖となっている。
ダンジョンは不思議な存在だ。ちゃんと昼夜という時間の概念がある(地上世界と時間の経過は違うらしいが)らしい。
ダンジョン内にには独自の生態系があり、食物連鎖がある。
シーカーが発生するモンスターや動物、植物などは倒すと光の粉となって消滅する。場合によっては、魔石と呼ばれる宝石のようなものやアイテムを残すことがある。 また、まれに宝箱も見つかったりする。
ダンジョンは、年に四回、約90日ごとにそのパターン(地形)が変わるらしい。 過去に日本シーカー協会が地図の作成を目論んだが、この特性によって頓挫している。 出たとこ勝負って感じかねぇ?
朝食を早々に終え、装備を身に着け玄関へ。
仁絵も黒の魔法師のローブに身を包み、腰には幾つかのポケットが付いたベルト
ポーチを巻き付けていた。 スタッフとリュックを持って準備万端のようだ。
「忘れ物は?」
「いえ、大丈夫ですよ。そういう兄さんは?」
「準備万端!」
掛け合いをしていると、軽四のバンのクラクションが俺たちを呼ぶ。
「大和、仁絵、準備はできたのか?」
義父のどら声が近所に響く。
「「お待たせ!」」
「さぁ、さっさと乗れ。」
車のスライドドアを開け、後席へ仁絵が先に乗り込む。
俺は後ろのドアを開け、武器とリュックを入れてドアを閉め、仁絵の横に座る。
義父は後席のドアが閉まったのを確認すると車を一路、ダンジョンに向けて走らせるのだった。
玄関から優を抱いて義母が出てきて、二人で手を振って俺たちを見送ってくれた。
約40分、車は一宮ダンジョンへとひた走る。
目的地に到着すると、旧駅舎前のロータリーには何台も車が停まっている。
多くは、海外の高級なSUVだったり、国産の「L」が付く高級車だったりする。
空いてるスペースに車が止まる。
「なぁ、二人とも。やっ、やっぱり俺も行った…」
仁絵と二人して装備やリュックを下ろしてると、義父がそう言う。
「「大丈夫だよ」ですよ、義父様」
「そ、そうか?」
なんか未練がましい、義父だ。
こうなってくると鬱陶しく感じるんだが、父親の愛情なんだろうなと思うと嬉しい
ものさ。
「仁絵は、俺が死んでも護る!」
そんなことを言ってみると、隣で仁絵が頬を赤くしてクネクネしてるぞ。
「当たり前だ!お前が傷つくのも、死ぬのも俺は許さんからな。」
「おう!」
「義父様、ありがとうございます。行ってまいります!」
「それじゃあ、気を付けて行ってこい!迎えは18時で良いのか?」
「えぇ、それでお願いします。」
義父は、窓から手を出して合図を出して、一路、孤児院へ車を走らせるのだった。
現在、時刻は午前7時40分。
「それじゃあ。」
「行きましょうか、大和さん。」
管理棟のドアを開けると正面ホールがあり、カウンターには幾つもの受付がある。 有人、無人のカウンターがあり、有人の方のカウンターには美人な男女のスタッフが受付をしている。 また、ホール内には買取カウンターや物販カウンターがあり、魔石や消耗品などの売り買いもできる。
俺らは時間が惜しいので、さっさと無人受付機の前に並ぶ。
ダンジョンアタックに参加するライセンスカードをリーダースロットに差し込み、到達予定階、帰還時間、掛け捨ての保険の登録を行う。
これらが済むと晴れてダンジョンへの侵入ができるという訳だ。
「今、8時だから、10時間か。仁絵、慣らしで30%デバフ開放からやっても大丈夫か?」
「えぇ、大丈夫ですよ、大和さん。その辺はお任せします。私も魔法は、暫く使いませんから。」
「へぇ、言うじゃねぇか。それじゃあ、見せてもらおうか。3級シーカーのダーク
エルフの実力とやらを!」
「へぇ、言ったわね。それじゃあ、見せて頂きましょうか?本気になっていく4級シーカーのドラゴンの実力ってのを!」
あっ、久しぶりに砕けた口調になった仁絵の喋りを聞いたぞ!
俺たちは、お互いの顔を見合わせてプーっと吹いて笑うのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます