第2話 朝の修練と朝食の風景(再改稿済み 2023・4・12)

 結局、昨夜はいつも通りに風呂に入って、歯を磨いて寝た。


 男の入浴シーンなんて誰得なんだ?

詳しく書いてもしょうがない気で一杯なんだが。

 頭洗って、共用のボディーソープで身体を洗って湯に浸かるだけだろ。

ほら、これだけじゃん。


 まぁ、風呂場に義父が居たぐらいでいつも通り。

 二言三言会話を交わしカラスの行水だ。

タオルで濡れた身体を拭い、下着を着、スゥエットの上下を着て歯を磨き部屋に戻る。


 なっ?何の色気も無いだろ?

想像したヤツ、残念だったな!

 そうして、午後11時にはベッドに入り就寝。

 これが大体の1日の締めだ。


 翌日は、これもいつも通り、午前5時までには起床してジャージに着替える。


 俺の部屋は個室で施設の2階にある。

10歳の時に個室をもらって、それ以後はここが俺の部屋だ。

 狭いながらも俺の部屋。

部屋の広さは、昔で言う四畳半ってやつだ。


 部屋の中は机と椅子、ベッドと本棚。ごくごくアッサリしたもんだ。

 本棚には、歴史書、武術の本、お気に入りのラノベ(残念ながら新刊を買う余裕は無いので、専ら中古だ。作家の先生、御免なさい。)や漫画の単行本が並ぶ。


 意外だろうが、料理の本も数冊並んでる。

これは、仁絵が置いていったヤツなんだが。


 作り付けの狭いクローゼットには、数着のアウターとトップス。パンツとジーンズが数着。

 夏物はダンボールケースに入れて衣替えまで冬眠だな。


 壁にポスター類の掲示はできないし、机やベッドは義兄からのお下がりだ。


 近い内にこの孤児院から出るので、綺麗に使うのを心掛けてる。

 俺が卒業したら、下の連中の誰かが使うんだろうな。


 手早く着替えと小用を済ませ、階下の修練場へ。

 既に義父、仁絵が柔軟を始めていた。


「義父さん、仁絵、おはよー。」

「うむ、おはよう。」

「やっ、兄さん、おはようございます。」

 仁絵のやつ、大和さんって言いそうになったな?と無言でツッコンでおこう。


「大和、早速柔軟を始めろよ。怪我をしてもつまらんからな。

終わったら、15分間マラソンだ。」

「了解、師匠。」

 

 義父はいつもの黒の道着を着ている。

上着の袖や下履きの裾は、既に擦り切れ放題で年季が入っている。


 義母に言わせれば

「あの人ったら、ガサツな癖に物持ちだけは良いのよね」

なんだそうだ。


 この瞬間、義父から師匠に呼び方を変える。暗黙の了解ってヤツだな。


 仁絵はいつものポニーテールにピンクのジャージを着ている。

 両袖とパンツに白いラインが入ったヤツだ。ある部分が揺れて大変だからと晒を巻いているんだとか。


 なんか勿体無い気もするんだが、それをアイツに言うと睨まれるから黙っていよう。


「義隆は?」

「まだ、中学生だから眠いんじゃないの?」

「しょうがない、それじゃ、始めるぞ!」

 柔軟が終わる頃には、三人とも軽く汗をかく。


「ふわぁ、みんなおはよう…まだ、眠い」3人で玄関へ向かうところで義隆が合流。

 義隆は、常人の子供だ。

因子の発現もない。

 俺の様な亜人に対しての偏見もなくスクスクと成長している。


 彼は、俺と同じく赤子の時に施設に預けられた。短期のはずだが、今だに実の親の引き取りはない。

 黒のジャージを着て寝癖はそのまま。本当に先ほどまで寝ていた様だ。


 義隆の下の4人と俺は、歳の差がありすぎるので、実質的に彼が入ることでコミュニケーションが成り立っている部分がある。


 正月三が日を過ぎて今日は5日。


 世間はまだまだ正月ボケで寝ている時間だから、会話もなく静かに走る。

孤児院に到着する頃には、程よく身体も温まっている。


「さぁ、今日は何をやるんだ?」

 師匠でもある義父が尋ねる。


「俺は刀かな。素振りと組み打ちをやりたい。」

「私は、無手かな。義ちゃん、一緒にやろうか?」

「仁姉ぇ、義ちゃんは止めてよう」

 義隆は、かなり恥ずかしそうだな。


 こうして段取りが決まると、父の指導の下、朝の修練が始まる。


 日本刀を模した70cm程の木刀を両手で持ち、中段青眼の構えをとる。その後、振り上げ真っ直ぐに振り下ろす。

 刀身を振り下ろしたら、次は刃峰の向きを変えて真上に振り上げる。

それを何度も繰り返す。


 次に右肩に刀身の峰を預け斜め上から左斜め下に振り下ろす。

所謂、八双の構え、袈裟斬りってやつだ。

振り下ろしたら次は青眼の時と同じく刀身を返して斜め右上に振り上げる。


 それが終われば左肩からの振り下ろし振り上げ。


 そして、身体の左右からの横振りをし基本の動作を繰り返す。


 これだけで大体30分ぐらいの時間が過ぎてしまう。

 最後にシャワーと着替えで5分は欲しいから、残りは10分。

義父との組み打ちだ!


「大和、前にも言ったかも知れねぇが、日本刀で打ち合うのは止めておけ。

刀身が伸びるし刃が欠ける。

どうしてもと言う時だけにしろ!

それとな、刀を使いたいなら、居合術も練習しておけよ。」

「バトルハンマーにも応用できたっけ?」

「そうだな、ライト級かミディアム級のバトルハンマーならな。 メイスの殴打系もだろう。 ただし、ヘビーハンマーの系統はまた扱いが違うからな、別物と考えた方が良いだろう。 重心が先端によりすぎてバランスが全く違う。


 さぁ楽しい時間の始まりだ! 小僧、かかって来い!」

 にやりと大きく開かれる両口端からはゾロリと大きな犬歯(虎獣人だから虎牙か)が覗き見える。

「行くぜ、今日こそは吠え面かかせてやる!!」


 コンコン、カッ、ダーン。

 修練場に大きな音が響く。


「クソ親父、卑怯…」

「まだまだ、お遊戯だな」

「クソがぁ!!」

 倒されても起き上がり、幾度か攻撃を仕掛けるが去なされ、蹴られ、投げられる。


 お互いにヒートアップ。

何度もやっている内に言葉が悪くなるのはしょうがない。


 チクショウ、勝てねぇ…。

床に大の字に倒れる俺。


「まぁ、だいぶマシにはなったが、まだまだだな。俺に片膝着かせるのは、もう暫くかかるだろう。」

 上から義父が見下ろしそう言う。

道着の上を脱ぎ、身体を拭いながら修練場を後にした。


「兄さん、大丈夫?」

「大兄ぃ、怪我ない?」

仁絵と義隆は、心配そうに俺の顔を窺う。


 俺は、上半身を起こし、胡座をかく。


「本当、いつになったら、クソ親父に一杯食わしてやれんのかねぇ?」

 頭を掻きつつ可愛い義弟妹にと毒付いてしまった。


 本当に勝てる日は来るのか?


 そうこうしている内に時間が押し迫ってくる。

 急がないと朝食に遅れてしまう。

焦りながら二人を急かし、修練場を後にする。

 掃除?そんなのシャワーと着替えが先だ!

朝食の最中に汗臭いと歳下の連中に嫌われたく無い!!

 さっとシャワーで汗を洗い流し、身支度を済ませ食堂へ。


 既に義両親、仁絵、義隆、夢香(ゆめこ)、華香(はなこ)、静香(しずこ)、優が揃って、俺が来るのを待っていた。


 あれっ、おかしいな。

仁絵と義隆の方が俺より早いなんて??


 今朝も美味しそうな料理が俺の前に並ぶ。


 うちの朝食は、白飯に魚か肉と野菜の焼き物、赤出汁の味噌汁に果物が基本。

 チビ共にはこれに牛乳という、どこか昭和を思わせる内容だ。

 白飯から漂う湯気に思わず涎が溢れそうになる。


「おはよう、あれ、俺が最後?」

「おう、お疲れさん。早く座れ。」

「おはよう、大和。冷めない内に頂きましょうか。」


 相変わらず綺麗だね、エミル義母さんは。

胸はぺったんこだけど…などと考えていたら、妙な殺気をある二人から感じた。


「「「兄ちゃん、おはよー」」」

と香三姉妹、三人に「香」が付くから香三姉妹と呼ぶ。

 本人たちも喜んでいるから大丈夫だ。

彼女たちは、朝から元気だ。うんうん。


「おぅ、おチビども、今日も元気だな!おはよう。」


 三姉妹は、三年前、スラムを放浪していたところを義父が見つけ保護してきた。

 義父が「親に捨てられたんだろう」と話していた。

 義母さんもいつものことと普通に受け入れていたらしい。


 暫くは三人とも警戒していたようだが、美味しい3食の食事と暖かい寝床に安心したのか、それ程、日をおかない内に3人はうち(孤児院)の子になった。


 香三姉妹は名前は、俺の命名。名前が無いと不便だろうとエミル義母さんの命で俺がアイデアを出した。


 ショートカットが可愛らしい三つ子だ。

 お揃いの明るいオレンジのワンピースは義母のお手製だ。


最初は痩せてガリっガリだったのにな。

今や標準ぐらいの体型になっている。

 今のところ、後天的因子の発現の様子はない。


「にぃ、はよ!」

 カタコトの挨拶をし、うんしょ、うんしょと頑張って椅子に座っている俺によじ登ろうとしている優。


「本当、優は大和兄ちゃんが好きねぇ。」 と義母。

 仁絵も義隆もうんうんと頷く。


 ただ、義父だけが羨ましげに俺を軽く睨む。

「よしよし、優も元気だな。おはよう」

 そう声を掛けてやると、キャッキャとはしゃぐ。

 両脇に手を回して、ほら、たかい高いだ。

そして、俺の太腿の上に着地。


 義父さん、そんなに睨まなくとも。


 「父ちゃ、やっ!」 義父さんに渡そうとすると、優は俺の方に手を一杯に伸ばしてそう言う。

 

 項垂れる義父に宥める義母、巻き起こる家族の爆笑。

 いつもの朝の光景ってやつだな。

他は知らないが、我が家はいつも賑やかだ。


 朝食後は、チビ達や義隆の冬休みの宿題をみたり、優の遊び相手になったり、施設内の掃除をしたりと忙しく過ごす。


 俺自身、冬休みの宿題はあるものの、高三だから言うほどは出ないので昨年の内に終わらせていた。


 昼食は、それぞれバラバラのタイミングになる。


仁絵は部屋に引き篭もっているみたいだ。

「何やってんだ?」 気になって聞いたことがある。

「その内に判りますよ」 とはぐらかされた。


 義隆の奴は、部活で登校したらしい。新学期早々、春の大会の予選が始まるらしい。中1で既にサッカー部のレギュラー。4月からは中学三年だけど、自分のポジションをずっと守っている。

是非とも頑張って欲しいものだ。


 太腿の上には、いつもの如く優がちょこんと座り、ニパっと笑いかけてくる。


「にぃ、にぃ、うまうま!」

「おっ、美味いか?たくさん食えよ♪」

 スプーンにご飯をよそい、口元に近づけてやるとパクんと頬張る。

なんだかペットの餌付けだよな?

 可愛いは、正義だ!と昔の人はよく言ったものだ。俺もそう思う。


「あっ、そうだ。義母さん。昼から裕也さんの所でバイトだから、夕飯は要らない。」

「あら、そうなの?裕也くん、元気なのかしら? 最近、顔を出さないから心配だわ。 たまには顔を見せる様に言っておいてね。

赤ちゃんの顔も見たいし。」

「了解!」


 裕也さんってのは、俺の一回り上の30歳になるここの卒業生で、義兄になる。

 背が1m90cmだから、かなりでかい。オーガの後天的因子が発現者だな。

その影響なのかな? その割に細身なんだよな。


 一昨年、バイトに出たいと義父に相談したら裕也さんの店を紹介された。


 裕也さんの店は、施設から自転車で15分ほど走った所にある洋食店だ。

手頃な値段と美味い料理が出る店と評判で、凉香義姉もウェイトレスとしてアルバイトに来ている。


「それじゃ、行ってきます。」


 施設の玄関を抜け、三軒隣の時枝婆ちゃんに貰ったお古のママチャリを漕いで、いそいそと出かけることにした

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