第12話 ついにバレる

次の日伊織はまたしても寝苦しさで目を覚ました。

布団をめくってみると、クシナが張り付いているのが見える。


「す~、むにゃむにゃ」

「またこいつは...」


またか、と思いながらもクシナを起こさないようにベッドを抜け出す。

伊織がリビングに降りると、何故かソファーでシアナが寝ていた。

ソファーの上で丸まりながら気持ちよさそうに寝ている。


「...zZ」

「なんでここで寝てるんだ?」


ソファーで寝ていることに疑問を覚えた伊織だが、気持ちよさそうにしているのでタオルケットを掛け、朝の準備を始めた。


しばらくするとクシナがリビングに降りて来たので話しているとシアナが目を覚ます。

シアナは目を擦りながら眠そうにしている。

伊織がコーヒーを準備していると、シアナが尋ねてきた。


「それは何?」

「これはコーヒーだ。目が覚めるぞ?」

「ん、飲む」

「甘いほうがいいか?」

「ん」


どうやらシアナも甘党らしい。

三人分のコーヒーを準備して飲ませてみると、どうやら気に入ったらしい。


「美味しい」

「そうか、良かった」


その後大学へ向かうためにクシナがブレスレットに変身すると、シアナが首を傾げていた。


「なんで変化?」

「大学は沢山人がいるからな、二人は人に見えないし、傍から見ると俺が一人で喋ってるみたいになるんだよ。だからクシナにはブレスレットに変化してもらって脳内で会話してるんだ」

「なるほど、なら私も。変化」


シアナが胸の前で印を結び呟くと、風がシアナを包み込む。

風が晴れると、そこには緑色の綺麗な宝石があしらわれたブレスレットがあった。


そのブレスレットを拾いながら伊織は考える。


「シアナのブレスレットはこんな感じになるんだな」

『どう?』

「綺麗だと思うぞ」

『ん、ありがと』


シアナが変化したブレスレットを左腕に嵌めて伊織は大学へと向かった。




大学へと向かっている途中に白雪と遭遇する。


「おはよ~伊織君」

「あぁおはよう白雪」


挨拶を交わして会話をしながら歩いていると、伊織は少し違和感を感じた。


「なぁ白雪、なんか疲れてる?」

「ん~?どうして~?」

「いつもより元気が無いような...」


いつもの白雪であれば笑顔満点のハイテンションで伊織と話しているのでが、今日の白雪は笑顔ではあるもののいつものテンションでは無かった。


実際白雪は連日の調査で少し疲れていた。


いくら調べても進展が無く、伊織を守ると誓ったのにちっとも進まない調査に少しだが苛立ちも感じている。


「そんなことないよ~?」

「いや、確実にいつもよりテンション低いぞ?」


そんな伊織の言葉を聞いて、白雪は自分の事を心配してくれてる気持ちが伝わって来た。

申し訳ない気持ちがありつつも心配してくれて嬉しいとも感じる。

しかし調査の事は口に出せないので、家の事情ということにしてお茶を濁す。


「ちょっと家の事情でね~、最近疲れてるんだよ」

「そうなんだ、最近大学が終わった後も忙しそうだもんな。話せる事があったら聞くぞ?」

「うん、ありがとう。でもまだ大丈夫」


白雪は笑いながらそう答えた。


大学につき、講義を受ける。クシナとは違いシアナはよく話しかけてきた。


『大学、面白い』

『そうなのか?』

『ん、色んな人がいる』


シアナはブレスレットの状態で伊織以外の人間を観察していた。

昔とは違う服や髪型、霊力の多い人間少ない人間。全てが初めて見るものなので、心を躍らせる。


そして講義が終わり、伊織達は帰り道につく。大学を出たところで白雪に今日はどうするかと問いかけると、やはりまだ用事があるらしく断られてしまった。


「本当にごめんね伊織君、また用事があるんだよね」

「いや、仕方ないよ。でもあんまり無理はするなよ?」

「うん、分かったよ」


白雪とそこで別れ、電車に乗り帰路に就く。


家の近くを二人と話しながら歩いていると、またしても妖魔が現れる。

もうお馴染みの光景となりつつある空間の歪を眺めていると、今回中から出てきたのは小さい鬼だった。


「グギャァ」

「なんか随分と小さい鬼だな」


いつもの鬼とは違い、今回出てきたのは小さな鬼だ。

そんな小鬼の姿を観察していると、伊織の左腕から風が吹き出しシアナの姿が現れた。


「私がやる」

「悪い、任せた」


そして次の瞬間、小鬼とシアナの姿が消えた。


「はい?」


ドンッ!と何かがぶつかるような音と衝撃が伊織に伝わるが、二人の姿は見えない。


「(ん、速度良好)」

「グギャギャ!」


シアナが蹴りを繰り出すが小鬼にはそれが見えているのか蹴りを避ける。


「このくらいのスピードは対応できるんだ、じゃあもう少し上げるね?風と共に」


そうシアナが呟くと、シアナの周りを風が包み込み一段階スピードを上げ小鬼を追い詰める。



一方伊織は見えない戦闘に困惑していると、クシナからの説明が入った。


『いま現れた妖魔は小鬼と言って、鬼と同じ力を持ちながらスピードが桁違いに早いの。鬼の上位個体になるわね』

「あ、あぁ。そうなのか...」


小鬼と聞くと伊織が襲われた普通の鬼より弱いように聞こえるが、実際は鬼より強いそうだ。


『主様には見えないかも知れないけど、今もシアナは小鬼と戦っているわ』


それはつまり、伊織の見えないスピードで二人が戦っているという事だ。


シアナの戦闘は既に佳境に突入していた。シアナの上がったスピードに小鬼は対応できず、攻撃を食らい続ける。


「ん、これで終わり」

「ギャッ」


シアナの正拳が小鬼の鳩尾に刺さり、消滅した。シアナが止まったことでやっと伊織にもシアナの姿が見える。


「ん、終わった」

「そ、そうなのか。何がなんだか分からなかったけど、ありがとう」

「ん」


伊織がお礼を伝えると、シアナは無言で頭を差し出してくる。

その様子を疑問に思っていると、シアナはある要求をしてきた。


「主様のナデナデはとても気持ちが良い...と、クシナが言ってた」

「なるほど?」

「私は頑張った、だからナデナデを要求する」


どうやらシアナは頭を撫でてほしくて伊織に頭を差し出していたらしい。

疑問が解決した伊織はシアナの頭を撫でる。

サラサラの髪に、モフモフの猫耳、二つの感触が伊織の手を包む。

中々気持ちいいなと伊織が思っているその時。


「は?誰その女?」

「ん?」


女性の声が聞こえたので振り返ると、そこには無表情ながらも怒りを滲ませた白雪が立っていた。




SIDE:白雪


連日の調査で私の中に疲れが溜まっていた。

いくら調べても進展がなく、肉体的な疲れというよりは精神的な疲れが大きい。

大学が終わった後も伊織君と遊べないし、本当に最悪だ。


「はぁ~、伊織君にも心配されちゃったな」


自分的にはあまり疲れを表に出していないつもりだったが、伊織君には伝わってしまったらしい。

ちょっと申し訳なかったけど、この調査は伊織君の安全にも繋がるので手を抜くわけには行かないんだよね。


伊織君と別れた後、今日も八王子へ向かい式神を放つ。


「じゃあ白鴉君、今日もお願いね?」

「ガァー!」


調査に進展が無いと言ったが、妖魔が発生している個所だけはだいぶ絞り込めてきた。

そのデータを元に、妖魔が出るであろう場所の近くに私は陣取り、白鴉からの連絡を待つ。


「...来たっ!」


少し待っていると、早速白鴉から妖魔が出たと連絡が入った。部分憑依を使って現場へ急行する。

やっぱり私の予想は間違っていなかった、この辺に出ると思ったんだよね~。


そのことに内心笑みを浮かべながら現場へ到着すると、そこには女の子の頭を撫でている伊織君が居た。


その光景をみた私の中には凄まじい嫉妬の気持ちが沸き起こる。

あれは誰だ?なぜ私の伊織君の近くにいる?そこは私の場所のはずなのに...。そんな気持ちがグルグルと私の中を巡る。


「は?誰その女?」

「ん?」


伊織君が振り返って私と目が合うと、少し驚いた表情をした。


「何のことだ?」


伊織君はとぼけているようだ。いつもだと笑顔で話すところだけど、今の私にそんな余裕はない。


「だから、その女は、誰かって聞いてるの」


私は詰め寄りながら、そう問いかける。

一旦伊織君から目を外し、浅ましくも伊織君の近くに陣取る女へ視線を向ける。

その女は甚平を着ていて、頭には猫耳があり、尻尾も生えている。何て媚びた格好だろうか?そんな格好が伊織君に通じるとでも...ん?猫耳?


「その女?え、白雪、こいつが見えるのか?」


私は一瞬にして冷静になる。


改めて女を見てみると、あまりにも人間に姿が近いが、間違いなく妖魔である。

人間に近い姿をした妖魔は総じて格がものすごく高い。

そんな妖魔と仲良さそうにしていたってことはつまり...。


「白雪?」

「ねえ伊織君、もしかしてその妖魔と契約していたりする?」

「え?あぁ、契約してるけど。それより白雪、こいつが見えるんだよな?」


どうやら伊織君はその妖魔と契約しているらしい。

それを聞いた私の中で喜びが爆発する。つまり、つまりだ、伊織君がこの依頼で存在が浮かび上がっていた野良の退魔士だと言うことになる。

伊織君が野良の退魔士なのであれば、これからこちらの世界に入ってくることになる。

そしてそれは、伊織君と...。


「うん、ちょー見えてるよ。それより伊織君、このあと時間ある?」

「え?この後?うん、特に予定は無いけど」

「じゃあちょっと私に付き合って?」

「分かったけど、え?白雪って見える人なの?なぁ話聞いてるか?」


そして私は伊織君の手を握りながら歩き始める。

伊織君はまだ困惑しているようだが、今はそれどころではない。

ついに私の夢が叶うかも知れないのだ。


こうして私は伊織君を退魔士組合へと案内し始めた。

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