第11話 彼女の事情

伊織はシアナを仲間に迎え、話しながら山を降りていた。


「シアナは長いことあそこに居たのか?」

「ん、凄く昔からあそこで暮らしてた」

「そうなのか」


どうやらシアナもクシナと同じで、昔から存在している妖魔らしい。

右にクシナ、左にシアナと三人で山道を歩く。


「シアナは何が出来るんだ?」

「ん~、主の敵をボコボコに出来る」

「そ、そうか」


シアナと少し話していて分かったことだが、どうやら感情表現が苦手らしい。

今も話しているが全く表情が動いていない。

そんな無表情で恐ろしいことをいうので、少し怖い印象が感じられた。


「主はクシナと付き合い長いの?」

「俺とクシナか?そうだな~、もう四年ぐらいの付き合いになるか?」

「そうね、そのくらいね」

「そうなんだ」


表情はあまり動かないが、耳はピコピコとよく動いている。


シアナは長いこと山から降りていなかったらしく、山を降りると驚いた声を上げた。


「お~凄い、だいぶ変わってる」

「やっぱり見慣れないか?」

「ん、見たことないものばっかり」


シアナの居た社は山の奥深くにあり、そこから外の世界を見ることは出来なかった。

そのため外の世界がどれくらい変わっているかなども、把握できていなかった。


「これから電車っていうものに乗って俺の家まで帰るよ」

「わかった」


しばらく歩いていると、駅に到着し駅中へと入っていく。

するとシアナは周りをキョロキョロと見回しながら呟く。


「お祭り?」

「あはは、クシナと同じこと言うんだな」

「昔はこんなに人が集まるのはお祭りしかなかったのよ?だから仕方無いじゃない」


伊織は小声ながらもそう答えた。

クシナも不満そうな表情をしており、口を尖らせながら抗議する。


「悪い悪い、さぁ電車に乗ろうか」

「ん」


電車は空いており、どこでも座れたため伊織は角の席に座ろうとしたとき、クシナに手を引っ張られ一つ隣の席に座らせられた。


「主様はこっちに座って?シアナは主様の隣にね?」

「ん、わかった」


伊織を挟むようにしてクシナとシアナが座る。

そして電車が発車し、流れる景色をシアナが眺めていた。


「面白いか?」

「ん、面白い。でも私の方が早い」

「え?マジで?」


どうやらシアナは電車より早く走ることが出来るらしい。

相変わらず無表情ながらも耳はピコピコと動いているのでつまらなくは無いだろうと推測する。


そして電車から降りて歩き、伊織の家に到着した。


「お~、ここが主の家」

「そう、俺が住んでる家だよ」


リビングに移動して、伊織は人数分のお茶を用意する。

そして全員がソファーに座った後に話を始めた。


「それでシアナ、本当に俺と契約して良かったのか?」

「ん、むしろ願ったり叶ったりだった」

「どういうことだ?」


伊織が聞き返すと、シアナは静かに語り始める。


「私は昔、あの社で祀られている存在だった」

「そうなのか」


社があると言うことは、そこに信仰があった証拠である。

薄々はそう言った存在だったのかなと気が付いていた伊織は静かにシアナの話を聞く。


「昔は沢山の人があそこに来てた。でも、最近はほとんど人が来なくなった」

「ほとんどって事は、偶には来ていたのか?」

「年に一人か二人くらい?」

「そ、そうか」


どうやら本当に人が来ていなかったらしい。


「昔は今みたいな人の姿をしていたんだけど、人が来なくなってからは段々と存在が薄くなっていった」

「私と同じね」


クシナも同じような状況で存在が薄くなって行ったため、酷く共感していた。

その後もシアナは語り続ける。


「そして姿が猫になって、姿も半透明になって、もう駄目かもって思ったときに、主達が来た」

「そのタイミングだったのか」


そうやら伊織たちが訪れたのは本当にギリギリのタイミングだったらしい。


「ん、あと一週間でも遅かったら私は消えていたと思う」


そうしてシアナは初めて表情を変え、悲しそうな顔をした。

そんな顔を見ていると、伊織の胸が締め付けられる気がした。


「だから今回の契約は、渡りに船だった。おかげで消滅しないで済んだ」

「なら、良かったのかな」

「ん、良かった」


そうしてシアナは伊織を見上げながら言葉を口にする。


「私を救ってもらった恩は返す」

「あぁ、分かった。改めてこれからよろしくな?」

「ん!よろしく」


シアナから事情を聞き、少し落ち着いた所で伊織はシアナのことを何も知らないことに気が付いた。

これから一緒に生活をするため、シアナと仲良くなろうと静かに心の中で思う。

まず初めに、シアナの好きな食べ物から聞いてみることにした。


「シアナは何か好きな食べ物とかあるか?」

「魚が好き」

「そうか、じゃあ晩御飯は魚にするか」

「いいの?」

「あぁ、今日はシアナが仲間になったお祝いで魚パーティーにしよう!」

「ありがと、主」


そう伝えると、シアナは嬉しそうにしている。

その後シアナをどこの部屋で暮らしてもらおうかという話になった。

伊織の家はあと一つ寝れる部屋があるが一つ問題が存在する。


「この家には後一部屋だけ寝れる所があるんだけど、そこは親父の部屋なんだ。クシナも女の子だし多分嫌だよな?」

「ん~?ん」


少し考えた様子だったが、小さく頷いたため多分嫌なのだろう。

するとクシナがある提案をしてきた。


「だったら私と一緒の部屋で暮らせば良いわ」

「いいのか?」

「私とシアナは知らない中じゃ無いし、構わないわよね?」

「ん、クシナと一緒でいい」

「そうか、じゃあ悪いけどそうしてもらえると助かる」


シアナはクシナと一緒の部屋で暮らすことになったので、シアナを二階にある部屋に案内する。

伊織もそれについて行き、部屋に入ろうとしたところでクシナから声がかかった。


「主様はストップ、女の子の部屋には容易に入ってはダメよ?」

「え?あ、あぁ、分かった。」


元々は母さんの部屋なんだけどなと思いながら、伊織はリビングへ引き返し夕飯の支度を始めることにした。


伊織が夕飯を作っていると、二人が降りてきた。


「クシナ、私もクシナみたいな着物着てみたい」

「そうね~、貴女にも似合うと思うのだけれど、残念ながら私の着物はこれ一つしか無いのよ」


そんな風に二人が話していると、ふとシアナは伊織と目が合った。


「...」

「...」


しばらく無言で見つめ合う。


「...主、着物欲しい」

「まぁ、着たら似合うだろうな」


シアナは何故か甚兵衛を着ているため、着物を着た姿を想像するとシアナの容姿からも、可愛いことが容易に想像できる。

しかし着物は高いと聞いた事があったので、伊織は少しためらってしまう。

少しの間見つめ合っていると、クシナがシアナを少し叱り始めた。


「ダメよシアナ、貴女はまだ何もしていないのだからいくら主様が優しくても、着物なんか買ってもらえないわよ?」

「そうだった...。主、私頑張る」

「お、おぉ。そうか...」


これはシアナが頑張ったら着物を買ってあげる流れかと考えながら料理を続けた。


料理が完成し、食卓へと運ぶ。

魚料理を見たシアナは目を輝かせながら料理を眺めている。

そんな様子を見ながら伊織も席に付き、食事が始まった。


「それじゃあ頂きます」

「「頂きます」」


シアナは早速とばかりに魚に手を付け、口へ運ぶと耳が凄い速度で動き出した。

どうやら口にあったようだ。


「美味しいか?」

「ん!美味しい!」


勢いよくパクパクと料理を食べるシアナを見て伊織もクシナもほっこりした気持ちになった。

食事が終わると次はお風呂の時間になる。


「クシナ、俺は明日の準備をしなきゃ行けないからシアナにお風呂の入り方を教えてやってくれないか?」

「分かったわ、任せて」


クシナはシアナの手を引きながらお風呂場へと歩いて行った。



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