第10話 新たな仲間を求めて

クシナと契約してから数日が経過したが、その間も伊織は毎日のように妖魔に襲われていた。


「今日も妖魔に襲われたな~」

「そうね、毎日出てくるわね~」


大学から帰り家でくつろいでいるときにそんな話をする。

話をしながらクシナは何かを考えている様子だ。


「ん~そうね~。ねぇ主様?仲間を増やしてみない?」

「ん?仲間?どういうことだ?」


クシナからそう提案されたがいまいち内容が把握できず聞き返すと、クシナが詳しい話をしだした。


「多分私だけでも主様を守ることは出来ると思うわ、でも私ってどちらかと言えば妖術に特化しているのよ」

「ふむ...」


そういわれたので伊織は思い返してみると、確かにクシナは今まで炎で妖魔を倒してきた。

クシナがその体を使って妖魔を倒したことは一度もない。


「だからね?より主様を守るために肉弾戦に特化した妖魔を仲間にしても良いと思うの」

「なるほどね、でも俺は妖魔の知り合いなんてクシナ以外に居ないぞ?」


クシナの言うことにひとまず納得した伊織であったが、クシナ以外にそんな存在に心当たりは無かった。

するとクシナは笑顔で話しかける。


「大丈夫よ、私に心当たりあるわ」

「なるほど、どこに居るんだ?」


場所が気になった伊織はクシナに尋ねる。


「そうね~あの電車って乗り物で多分二駅くらいの所にいるわね」

「分かった、じゃあ日曜日に行ってみようか」


こうして新たな仲間を求めて日曜日にクシナと出かけることになった。


時間とは直ぐに進むもので、あっという間に日曜日になった。

前日の土曜日は白雪と出かけたこともあって、伊織は上機嫌であった。


「ふんふふ~ん」

「随分と上機嫌ね主様?」

「え?そう?」


どうやらクシナにも伊織が上機嫌であることは分かっていたらしい。

しかしクシナはすこし不満そうな顔をしていた。


「そんなにあの人間とのデートが楽しかったのかしら?」

「あの人間って...まぁ白雪との遊びは楽しかったけど」


その返答を聞いたクシナは伊織の腕に抱きつく。


「う~」

「ど、どうしたんだよクシナ」

「何でも無いわ...」


女の勘で伊織の心は白雪にあるということがクシナには分かっていた。

それでも自分が伊織の一番じゃ無いことに不満を感じ、その態度を体で表している。


「さっ、早く行きましょう?」

「あ、あぁ。今日はブレスレットにならないのか?」

「今日は気分じゃ無いわ」


クシナは人型のまま伊織に抱きつき歩き始めた。

そんなクシナを不思議に思いながら、クシナにつられて伊織も歩き始めた。


電車に乗り込み、二駅いった所で電車を降りる。

改札を通り歩き始めると、一つの山にたどり着いた。


「ここよ、ここにあの子がいるはずだわ」

「この山か」


山を見上げながら、やはりこういった妖魔のような存在は山に居るのかと思った。

クシナの案内の元、伊織は山を登っていく。

この山もまた管理がされていないのか、随分と荒れ果てていた。

その様子を見ているとクシナと出会った祠を思い出す。


しばらく歩いていると、大きな桜の木の下にある小さな社にたどり着いた。

満開の桜が花散る光景に感動を覚える。


「へ~、こんなところに立派な桜の木があったんだな」

「ここにあの子が居るはずなのだけれど...」


そうして二人は小さな社に近づいていく。

小さな社は手入れをされていないのか、荒れ果てていた。


「酷いものね」

「あぁ、そうだな...」


そんな社を見て少し悲しい気持ちになる。

クシナは悲しそうな表情をしながらも社に話しかける。


「久しぶりね、居るかしら?」

「にゃん」


すると小さな社から、ぴょんっと小さな猫が現れた。

小さな猫は黒猫で、その姿は透けている。


「あなた...随分と存在が薄くなっているわね」

「にゃんにゃん」


伊織はその姿を見て、以前の説明からこの妖魔もまた存在が消えかけているのだと想像が付いた。

そんな猫を見ながらクシナが伊織を紹介する。


「この人は私と契約を結んだ主様なの」

「初めまして、久遠伊織です」

「にゃん」


猫は驚いた様子で伊織を見つめている。


「凄いでしょう?主様は霊力が桁外れに多いのよ」

「にゃんにゃん」

「えぇそうよ、私も主様のおかげでこの姿を取り戻せたの。その前は貴女と同じ状態だったわ」


どうやらクシナと猫は何かを話しているらしいが、伊織には猫の声が分からないため何を話しているのか分からなかった。


「それでね、今日来た目的なのだけれど、貴女も主様と契約をしてもらえないかしら?」

「にゃん?」


そう問いかけたクシナに対して猫は首を傾げた。


「主様の霊力は多いでしょう?その霊力を狙って沢山の妖魔に襲われてしまうの」

「にゃん」

「だから、貴女にも主様を守るために契約をして欲しいのよ」

「にゃん...」


その話を聞いた猫は少し考えている様子だった。


「にゃん、にゃにゃん?」

「私が行ったのは永久の契約よ」

「にゃんっ!」


クシナがそう告げると、ビックリした様子で伊織を見つめる。

その表情が可愛くて伊織は少し笑顔になってしまう。


「にゃにゃんにゃん、にゃにゃん?」

「えぇ、それをするだけの魅力が主様にはあるわ」

「にゃん...」


猫は再び考え始める。

少しの間沈黙が降りたが、猫が話し始める。


「にゃんにゃん、にゃん」

「そう、良かったわ」


どうやら話がまとまったらしく、クシナが説明をしてくれる。


「主様、契約してくれるそうよ」

「そうなのか、それも永久の契約ってやつなのか?」

「えぇそうよ」

「良いのか?」


クシナからの説明では、永久の契約はかなり重要な契約であることを聞いていたため、そんな契約を自分として大丈夫なのか猫に問いかける。


「にゃんにゃん、にゃにゃん」

「何て?」

「今のままだと、ただ消滅を待つだけ。それなら貴女の気に入っている人間と契約をしたい。だそうよ」

「そうか...分かった」


そして伊織は以前口にした永久の契約を思い出しながら、契約を行おうとしたところ、猫の名前を知らないことに気が付いた。


「そういえば、君の名前は?」

「にゃん?にゃんにゃん」

「無いそうよ」

「そうか、無いのか」

「にゃんにゃん」

「主様に付けてほしいって言ってるわ」

「え?俺に?」


実はクシナと初めてあった時も、伊織が名付けていた。

基本的に妖魔には名前は無いのかなと疑問に思いつつ、名前を考え始める。


「ん~そうだな~...」


伊織は猫を眺めていると、小さな社に目が行った。

その社を眺めていると、昔は神として崇められていたことが想像できる。


「よし、じゃあ猫の神様から名前を取って、君の名前はシアナ...でどうだ?」

「にゃん!」


猫が頷いたので、どうやら気に入ってくれたらしい。

その様子を見て良かったと思いつつ、永久の契約を始める。


「私が求めるは永久の誓い」


伊織がそう唱えると、伊織とシアナの間に風が吹き荒れる。


「輪廻を巡りても決して途切れることのない不屈の誓い」


その風は祝福するかの如く二人を包み込む。


「私が求めるそなたの名はシアナ」


詠唱が進むと、いっそう風が激しくなり、二人の間を渦巻く。


「今ここに、永遠の契約を」

「にゃん!」


最後の契約を口にすると、光と共に激しい風がシアナを包み込む。

しばらく顔を覆ていた伊織だが、段々と風が落ち着いてきたのでシアナに目を向けると、そこには背丈が伊織の半分ほどの女の子が立っていた。

ただ何故か甚兵衛を着ており、猫耳と尻尾が生えていた。


「猫耳...」

「ん?どうしたの主?」


シアナが首を傾げると、それにつられて耳がピコピコと動いている。


「あ、いや、なんでもない」

「そう?改めてよろしく、主」

「あぁ、よろしくシアナ」


そういいながら手を差し出してきたので、握手をする。

こうして伊織は新たな仲間を迎えたのであった。

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