第13話 退魔士組合へ

久遠伊織は困惑していた。

いつも一緒にいる白雪が、霊的存在が見えると分かったためである。

いつから見えているのか?なぜ教えてくれなかったのか?今はどこへ向かっているのか?そんな疑問が頭の中で浮かんでは消えていった。


二人は電車に乗り移動する。


ちなみにシアナは伊織の後ろを大人しく付いて来ている、ナデナデが中断されたことで少し不機嫌そうだ。


「なぁ白雪?そろそろ事情を聞きたいんだけど?」

「ん~?ちょっと待っててね、直ぐに着くから」


白雪は伊織を案内し始めたときからずっと手を握っている。

いつもだと嬉し恥ずかしな状況なのだが、今の伊織にはそんなことを気にする余裕は全くない。


そんな伊織の内心を知らずに、白雪はあらゆることを考えていた。


「(伊織君がこっちの世界に入ってくれれば条件を満たせる...。これでお母さんも認めてくれるはず。あ~、嬉しいな~)」


考えを巡らせながらもこれからの展開を考えると、自然と頬が緩んでしまう。

ニヨニヨとした表情をしている白雪を眺めながら、電車に揺られているとクシナが話しかけてきた。


『ねぇ主様?これから何があるのかは分からないのだけれど、しばらく私の存在は明かさないで欲しいわ』

『ん?どうしてだ?』


ふと脳内でクシナの声が響いたと思ったら、そんなことを伊織に提案してきた。

今まで黙っていたクシナであるが、クシナ自身も色々と考えを巡らせていた。


『主様、私たちは格の高い妖魔なの。そんなおいそれと契約なんて本当は出来ないのよ?』

『あぁ』

『そんな妖魔と二体も契約していると知られたらどうなると思う?きっと主様は食い物にされてしまうわ』


クシナは少し前に白雪が妖魔を退治する者だと推測していた。

昔にもそう言った存在は居て、クシナも何度か接触された事がある。

その者たちに自分たちがどういった存在なのかを理解していたクシナは伊織にお願いした。


『な、なるほど。分かった、クシナのことは黙ってるよ』

『ありがとう主様』


疑問は尽きないが、ひとまずクシナの言うことに従うことにした。

しばらく電車に揺られ、高尾駅に到着した。

ここは伊織たちの通う東帝大学の最寄り駅でもある。


未だ伊織の手を握り続けている白雪に続いて歩いていると、やっと白雪が話し始める。


「伊織君、今から行くところとか、簡単な事情だけ説明しておくね?」

「頼む。何が何だか分からないんだ」

「伊織君も聞いていた通り、私にも霊や妖魔が見えるの」

「やっぱり見えてるのか...。いつからだ?」


白雪の言葉を聞いて、伊織は頷く。

説明をしている白雪の表情は笑顔であり、とても嬉しそうだ。


「私は物心ついた時から見えてたよ、それで伊織君が見えてることも知ってた」

「え?じゃあなんで教えてくれなかったんだ?」


その告白を聞いて伊織は疑問に思う。白雪は空を見上げ遠い目をしながら答える。


「私の家はね、悪い霊とか悪い妖魔を退治する仕事をしてる家系なんだよ。それで、そう言った物を退治する人たちのことを退魔士っていうの」

「うん」

「それで退魔士の世界には掟があって、退魔士の事を知らない人たちに、退魔士の事を教えちゃダメなんだよ」

「なるほど...」


白雪はそう説明した事で、何故白雪が霊的存在が見えていたことを秘密にしていたのか伊織は理解した。


「それで今から行くところは、そんな退魔士が集まって仕事をしている退魔士組合ってところ」

「そんな場所があるのか」


どこに向かって歩いているか分からなかった伊織は、目的地が分かったので少しスッキリする。


「退魔士組合の支部は全国にあってね?そのうちの東京支部って所に今から行くんだけど、入っても驚かないでね?」


白雪は伊織の方を向きながら首を傾げてそう問いかける。


「なんでだ?」

「すっごく女性が多いから」

「え?」


何故か不機嫌そうな表情を浮かべ伊織にそう告げる。

そして何故女性が多いのかを語りだす。


「退魔士は魔法みたいなものを使って妖魔を退治するんだけど、そう言った神秘的な力は女性に宿りやすいの」

「なるほど?」

「だから退魔士の男女比も圧倒的に女性が多いんだよ。でも安心してね?伊織君は私が守るから」


そういい白雪は伊織の腕を抱きしめ足を止めた。

伊織たちの前には一つのビルがそびえ立っている。


「さぁ、ここが退魔士組合だよ伊織くん」

「このビルか...。何階にあるんだ?」


そのビルを見上げながら問いかけると、思わぬ回答が帰ってきた。


「このビル全部がそうだよ?」

「え?マジで?」


このビルは十階程度の高さなのだが、全ての階が退魔士組合の物らしい。

白雪は伊織の腕を抱きながら足を進める。


「じゃあ行こうか?」

「あぁ」


ビルの入り口はロックのかかった自動扉となっており、白雪がカードをかざすと扉がスライドしながら開く。

中に入ると一階はエントランスになっていて、沢山の女性が歩いていた。


「マジで女性が多いんだな...」

「そうでしょ?驚いた?」

「主、気を付けて」

「え?何を気を付ければいいんだ?」


伊織はこれからの事で頭がいっぱいなので気が付いていなかったが、伊織が中に足を踏み入れた瞬間、沢山の退魔士の目が伊織たちに集中し何事かを話している。


「ねぇ、あれって白雪様じゃない?」

「男の子よ...!見たことない男の子がいるわ!」

「あの白雪様が男の子と一緒にいるなんて」

「あの子妖魔かしら?猫耳が可愛いわね」

「嘘よ!白雪お姉さまが男と一緒にいるなんてっ!」

「あの妖魔、強いな...」


そんな事が呟かれているのだが、伊織の耳には入らなかった。

そのまま白雪に腕を引かれ、エントランスの中にある受付に進む。

受付の目の前まで来ると、受付嬢が話しかけてくる。


「おかえりなさいませ白雪様。要件はなんでしょうか?」

「支部長っている?依頼の報告に来たの」

「はい、在中しております」

「そう、じゃあこのまま進むね?」

「分かりました。お気をつけて」


伊織たちは受付の奥にあったエレベーターに乗り込むと、白雪は十階のボタンを押した。

どうやら支部長室は十階にあるらしい。


「伊織君にはこれから支部長に会ってもらうよ」

「支部長って言うと、もしかしてここで一番偉い人か?」

「うん、そうなるかな」


いきなり来た建物で、その中で一番偉い人に会うと言われた伊織は緊張してくる。

伊織はどんな人物が居るのかを想像していた。

やっぱり妖魔と戦う為に鍛え上げた肉体を持った女傑だろうか?それとも小説みたいにのじゃロリでも居るのだろうか?

そんなことを考えていると十階に到着する。


白雪、伊織、シアナの三人はエレベーターから降りて少し進んだ先にある一つの部屋の前で立ち止まる。

その部屋の表札には支部長室と書かれているのでどうやらここが目的地らしい。


白雪が扉をノックすると中から声が聞こえた。


「空いてるわよ~」

「失礼しま~す」


緊張していた伊織だが、中から聞こえた少し間延びした言葉に驚きながらも白雪と共に入出する。


中に入るとそこには二人の女性が居た。

一人は椅子に座った女性で、もう一人はその傍らにファイルを持ちながら立っている。


「あら、いらっしゃい白雪ちゃん。その男の子と妖魔ちゃんは誰かしら?」

「...」


支部長と思われる女性は三人を見てほほ笑みながら話しかける。

傍らに立つ女性は伊織の方を目を見開きながら凝視している。


「この人は久遠伊織君、それでこっちの妖魔はこの伊織君と契約してるらしいです。今回の依頼で保護した野良の退魔士になります」

「あらそうなの?よくやったわ白雪ちゃん。どうぞ座って?」

「...」


着席を促されたので、部屋の中にあったソファーに腰かけると女性が話し始める。


「よく来てくれたわね、私は秋月美月。この退魔士組合東京支部の支部長をしているの。この子は薄楓ちゃんって言って私の秘書をしているわ」

「は、初めまして!薄楓と申します!」


椅子に座っている女性はやはり支部長で、秋月美月という名前だ。

隣に立っている女性は秘書をしている薄楓というらしい。

二人の自己紹介を聞いた伊織も答える。


「初めまして、久遠伊織と言います」

「そっちの妖魔ちゃんは?」


その言葉を聞いてやっぱりこの人も見えるんだな...と内心思いながらも紹介する。


「こっちはシアナと言って、自分と契約している妖魔です」

「そう、やっぱり契約していたのね。それじゃあ白雪ちゃん?報告を聞きましょうか」


その言葉を聞いた白雪は依頼についての報告を始める。




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