第3話 怪異との出会い
伊織は温泉から上がり、休憩できるスペースがあったので椅子に座りくつろいでいた。
辺りを見回しても白雪が見当たらなかったので、まだ温泉から上がっていないのだろう。
「ふぅ、いい湯だったな~」
浴衣を着て椅子に座っているとき、一つの自販機が目についた。
それは牛乳が売っている自販機であった。
「お、牛乳売ってるじゃん。普通の牛乳にコーヒー牛乳、フルーツ牛乳...ね」
白雪が来たら二人で飲むのもいいなと考えていたとき、白雪が温泉から出てきた。
「伊織君、おま...た...せ...」
「おぉ、上がった...のか...」
伊織と白雪は目を合わせたまま硬直してしまう。
何故なら二人とも初めてみる浴衣姿に心奪われてしまっているためだ。
口を半開きしながら数秒の間見つめ合った後、再起動する。
「ゆ、浴衣似合ってるね伊織君っ!!」
「え?あ、あぁ!白雪も似合っているぞ!」
何とも言えない空気が流れるが、気を取り直して伊織が話しかける。
「そ、そうだ、牛乳の自販機を見つけたんだよ。飲まない?」
「え?そんなのあったの?飲む飲む!」
二人で自販機の前に立ち、伊織はコーヒー牛乳を購入する。
風呂上りといえばこれだと言った様子でコーヒー牛乳を持ちながら白雪の方を見ると、彼女が買っていたものはフルーツ牛乳であった。
「やっぱりお風呂上りはフルーツ牛乳だよね~」
「し、白雪、お前...」
「うん?え?伊織君?まさかその手にあるのは憎きコーヒー牛乳!!」
「まさかお前がフルーツ牛乳派閥だったなんて」
「伊織君こそあり得ないよ、お風呂上りはフルーツ牛乳でしょ!」
先ほどの照れた雰囲気などどこへやら、二人は牛乳論争へと突入していった。
お互い一歩も引かずにどちらの牛乳の方が素晴らしいかをプレゼンする。
「良い伊織君?お風呂上りはね、このあまーいフルーツ牛乳を飲んでリラックスするのが良いんだよ」
「分かってないな白雪、甘みの中にあるこの苦さが火照った体に良いんだよ」
牛乳論争は平行線となっていたが、ふと白雪がある物の存在に気が付いた。
「なら伊織君、決着はあれで付けない?」
「あれって、もしかして卓球台?」
「イエース!温泉と言えば卓球だよね!」
伊織は白雪に手を惹かれながら卓球台までやってくる。
あまり卓球をやったことが無い伊織であったが面白そうだしやってみるかと思う。
「ふっふっふ、この卓球女王と呼ばれた白雪様を倒せるかにゃ?」
「一度もそんな呼び方されたこと無いだろう...」
香ばしいポーズをしながらそんなことをいう白雪に苦笑いしながら答える。
ちなみに卓球は伊織のボロ負けであった。
「ば、バカな...本当に上手いなんて...」
「思い知ったかっ!」
「そういえばお前、スポーツは何でも得意だったな。忘れてた...」
白雪はどんなスポーツをやらせてもそつなくこなす才能があり、高校時代によく部活の助っ人として引っ張りだこだったことを伊織は思い出していた。
伊織も運動神経が悪いわけでは無いのだが、この場合相手が悪かった。
その後は部屋に戻ってまったりとした時間を過ごす。
白雪とお茶を飲みながら懐かしい話などをして時間を潰していた。
「あの時の伊織君面白かったな~」
「し、仕方ないだろう。スノボ初めてだったんだし」
今は高校の時に学校で行ったスキー研修の話をしている。
白雪は持ち前の運動神経を活かして直ぐに滑れるようになり、伊織に教えていた時伊織がコケてそのままコースを滑り落ちていったことがあった。
最初は焦りながらついてきた白雪であったが途中からゲラゲラ笑いながら追いかけてきていた。
「でも結局最後の方は普通に滑れるようになってたよね」
「お前ほどじゃ無いけど運動神経は悪くないからな~、まぁ一日もやれば滑れるようになるよ」
しばらく話していると夕飯の時間になり、ご飯が部屋に運ばれてくる。
旅館のご飯は蕎麦を中心として、天ぷらや温泉卵があった。
「おぉ~!美味しそう!」
「確かに美味しそうだな、頂きます」
二人は早速とばかりに蕎麦を食べ始める。
「んん~、美味し~」
ニコニコとした笑顔を浮かべながら食べる白雪を見ていると、自然と頬が緩むのを感じる。
「お、天ぷらも美味しいなこれ」
「ほんと~?あ、美味しい!」
その後ご飯を食べ終えた後、白雪が持ってきたトランプで遊んだ。
「伊織君!トランプ持ってきたから遊ぼうよ!」
「小学生かお前は」
「でも絶対面白いよ!」
「まぁやろうか」
「やったー!じゃあババ抜きからね?」
「え?二人で?」
二人でババ抜きや大富豪をしながら遊ぶ。
もっと二人でも出来る遊びをすれば良いものを白雪のチョイスは全て微妙だった。
そろそろ就寝の時間になったので布団を敷いて寝る準備を進める。
最初は布団を離して敷いたのだが、白雪が布団を近づけてきたので隣で寝ることになった。
「近くね?」
「ダメ?」
「ダメじゃないです」
布団に入った後も白雪とくだらない話をする。
何となく、修学旅行みたいだなと伊織は思った。
話しているうちに伊織は眠気に襲われて、気が付いたら夢の中へと旅立っていた。
「す~す~」
「伊織君?寝ちゃった?...少しくらいならいい...よね?」
白雪は布団の中でもぞもぞと動き、少しだけ体を近づけた後、手だけを伊織の布団に侵入させ、伊織の手を握った。
「えへへ、暖かい...」
幸せな気持ちになりつつ、白雪も眠りについた。
次の日の朝、伊織は混乱していた。
起きたら白雪に手を握られていたからである。
「こっちの気も知らないで...」
驚きはしたが全く嫌な気持ちは無いのでしばらく白雪の手の感触を楽しむことにした。
「これ変態みたいじゃないか?まぁいいか」
その後程よいところで布団から抜け出して、朝の支度を始める。
しばらくすると白雪も起きだしたので、挨拶を交わす。
「ん~、おはよ~...」
「あぁ、おはよう白雪」
流石に白雪も起きた直後は元気じゃ無いんだなと新たな発見をした伊織。
二人は支度を済ませた後旅館をチェックアウトして草津周辺を観光する。
足湯に浸かったりアイスを食べたり、温泉卵を食べながら過ごした。
その後時間になったのでバスと電車に乗って伊織たちは帰宅した。
伊織と白雪が旅行に行ってから5日経った金曜日、伊織は講義が終わった後に一人で帰宅していた。
大学は順調で、講義も面白いものが多くおおむね満足している。
ただ友達が全くと言っていいほど出来ていなかった。
そのことを白雪に話したとき爆笑されたのは記憶に新しい。
伊織は帰り道を歩きながら、次の日久しぶりに会うクシナの事を考えていた。
「先週は一日しか会えなかったし寂しかっただろうな~。明日はいっぱい遊んで上げよう」
そんなことを考えながら歩いていると、急にパキッという音が聞こえた。
「ん?何今の音?」
普段聞きなれない音の為周辺を見回すと、伊織の前の空間が歪んでいた。
「はい?」
今まで霊などは見たことあるがこんな現象は初めて見た伊織。
不思議そうにその歪を眺めていると、歪はドンドンと広がっていきそして...。
パリンッ!
「うわ、なんだ?」
大きな音を立てながら空間に穴が開いた。
何事かと注意深く見ていると、穴の中から赤い手が伸び、空間を掴みながら何かが姿を表した。
「....」
「え?ちょ?マジ?」
その姿はどこからどう見ても鬼であった。
赤い肌をした筋骨隆々な体、頭部に二本の角、金棒を持った姿はまさに昔話に出てくる鬼。
ぽかんとした表情で鬼を眺めていると、鬼はキョロキョロと左右を見回した後、伊織の方を向いた。
「...」
「...。どうも?」
少しの間見つめ合った後、伊織がとりあえず挨拶してみるとニヤァと鬼の口が裂ける。
その瞬間伊織は「あ、これヤバいやつだ」と直感した。そして次の瞬間鬼は咆哮を上げる。
「ウオォォォォォォォォ!!!」
「やっぱりヤバい奴だったっ!!!」
伊織はすぐさま踵を返し走り出すと、鬼は伊織を追いかけてきた。
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