三章 3

ディリオン、メリッサ、メムの三人は結論から言えば誰にも見つかることなく、『rk』の本拠地に潜入していた。通常の家庭でいうところの裏口玄関(『rk』本拠地の場合、地下を通るなんていう複雑怪奇なものであったが)によって危険性(ギャング)とすれ違うことは一度もなかった。

 おそらくだが、通った地下通路というのは『rk』のギャングメンバーだから知っている、というものではなく、『rk』のボスの家族だから知っている。という具合なのだろう。

「これからどうするんだ……?」

「この三人の中でも目指すべき最終目的はバラバラだったはずなので」

 ディリオンの素朴な疑問にメムは『rk』本拠地の廊下に人が居ないことを確認すると手を軽く降って合図をしながら小さな声で答える。

 合図に合わせるように二人はメムの背中を追って、未開の『rk』本拠地を移動していく。

「でも、私が途中までは案内しないと二人は迷ってしまうと思うので」

「確かに、これは広いな。ボクが勝手に移動してしまったら予期しないところで『rk』のギャングとかち合ってしまう可能性が高そうだ……」

 メリッサは右腕に自動小銃『AKM』を抱えながら小走りでメムの背中を追いながら、

「それで、地下通路内でも話をしていた通り、これからボク達が向かう場所については、メムは一人、ディリオンとボクは同じ所。そういうことだったな?」

「そうなので」人とすれ違うことなく、地上二階へ続く階段を登っていく三人。「私は父親がいる可能性が高い豪華な部屋が集まっている四階へ向かうので。もちろんそこでは現在進行形で『MH』との麻薬取引会談が行われている真っ最中だと思うけど、そんなのは関係ないので」

 メムは自分に刻むように確認をすると、続いてディリオンとメリッサの方に向き直った。

「そしてディリオンとメリッサが向かうのは地上三階の大広間なので。そこにはおそらく『MH』のボス以外のギャング……、と言っても『rk』の側に取引をしに来ているという状態なので多くても三人だと思うけど、それプラス『rk』のギャングが軽く十人はいると思うので」

「……俺とメリッサが相手するギャングは『MH』だけだと勝手に予想していたが『rk』も介入してくるのか……」

 その言葉の意味を改めて脳で噛み締めるディリオンは生唾をゴクリと飲み込む。

「まぁ、正直な話、麻薬取引に関してはギャング運営をその資金で成り立たせている『rk』の方が固執している要素が強いと思うので『MH』ばかりではなく『rk』にも注意を十分に向けることをお勧めするので」

 メムは上りきった階段の壁端から顔を半分だけ覗かせて、二階通路の状態を確認する。

 と、そこで。

「でも、今の話通りなら『MH』のギャングはあまりこの場に来ていないということか?」

 集中してこの場でのルートを確保しようとするメムに背後からメリッサが声をかけた。

「この場(『rk』本拠地)には数的にはあまり来ていないと思うので」

「別に今さら身を引くわけではないが、それなら先に言っておいて欲しかったとも思う」

「どういうことなので?」

「まず最初に言ったが、ボクの第一目的は妹を殺したギャングをこの手で消すことだ。もちろんギャング全体を滅ぼすというのも大きな目的には含まれているがそれでもやはり、この地に赴く理由は前者にあった。だから…………」

 メリッサはそのまま言葉を続けようとしたが、それをメムは手で制して続きを述べた。

「なるほど。理解はしたけど心配する必要はないので」メムは呆けた顔をするメリッサに人差し指一つ立てて、「『MH』のギャングメンバーは『rk』本拠地内部に相当数入って来ていないだけなので。それが示すのは……」

「『rk』本拠地の敷地内に入ってきていないだけで周囲には『MH』のギャングメンバーが多数展開されているってことか……」

「ディリオン、流石なので」途中で話を遮るように口を挟んだディリオンだがその想像がヒットしていたようでメムは相槌を打ちながら、またもや会話を引き継いだ。「でももちろん周囲に展開されているギャング達は何もなしにこの『rk』本拠地に突撃してくる訳じゃないので。そんなことをすればただの取引妨害行為になってしまうから」メムは二階の廊下の安全性を確認したようでゆっくりと合図を出してから足を進め、尚も言葉を続ける。「……でも、もし緊急自体と呼べることが取引の最中に起きてしまったらどうなると思うので? 『MH』のボスが自分の命の危険を感じる事態に陥ったらどうなると思うので?」

 その目は前方を確認しながらも、一瞬だが確かにメリッサの瞳を捉える。

「……、周囲に展開している部下をこの場に呼びつける……」

「その通りなので。もちろん緊急事態って呼べるものがここで起きてしまえば麻薬取引会談は即中止なんてことになるのは必然なので『MH』側はこの場から逃走することになる。で、そんな時になる可能性はゼロではないと『MH』のボスも思っているはず。だから最悪の事態のためにさっきも言った通り、必ず部下、ギャングを多数配置していると思うので」

「……ということは、つまり……」

「ああ。答えを言うので。メリッサの最終目的は妹を殺したギャングをその手で消すことだったので。じゃあ、どうすればいいか……。ここで緊急事態と呼べる災害を引き起こしてしまえばいいので。そうなれば必然的に『MH』のボスは身の危険を感じて周囲に展開しているだろうギャングをこの場に呼びつけると思うので。そしてその中にはおそらくメリッサの妹を殺したギャングが含まれている可能性がかなり高い、ということは……」

「ボクの最終目的が達成されるという訳か」

「それに災害を起こせるであろう元凶はここに三人揃っているので。後は個人が暴れるだけ。それだけで餌に群がる動物のようにギャングはこの場に集まってくるので」

 そうしてこの場で起こす行為はより明確となった。

 メムは父親の元へ向かう。メリッサは『ギャング狩り』としてこの場でいつも以上に暴れ回る。ディリオンは……ディリオンは————。

(まずは過去と向き合う。ギャングと決別するために……)

 あの日の夜はただギャングとして行え、と言われたことを実行した。だが、それが正しくなかったということはもう十分に理解している。だから、その在り方に反抗する。

(ケリをつけてやる)

 同時に頭に浮かんだのは今もその組織で活動を続けていると話だけは聞いていた兄のこと。随分と昔のことなのではっきりとした記憶はないが兄は病弱だったはずだ。なのに、なぜ進まなくても良かったはずのギャングの道を選択したのか。その理由を問いただし、道を戻してやる必要もある。

 たくさんの思いがあった。しかし今になっても自分の言葉で彼女らが掲げているような最終目標を述べることはできない。だけど感情はある。

 だから、彼もその先に歩を進めるのだ。

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