行間 選択の理由

メムという少女は別にギャングという存在に初めから嫌悪感を抱いていたわけではない。

 もっと言えばその道を自分自身も突き進もうとすら考えていた。あの日の夜までは。

「なんで……なんで‼︎ なんで‼︎‼︎」

 気がついた時には涙が滝のように流れていたし、三回り以上体格の大きな自分の父親に挑むように掴みかかっていた。

 その時にそのような行為をして、どんな結果に繋がるかなんて関係なかった。

 ただ目の前で行われたその行為が許せなかったのだ。

 目の前の世界が赤色の液体で染まっている。もちろんメムという少女は前述した通り、ギャングとしての道を歩んでいくことに抵抗を感じない人間だった。

 つまり、血を見るのも慣れたものだし、自分自身の手でその血を溢れさせたことだってある。

 だが、今回ばかりは話が違った。それは目の前で倒れている人物に寄与する。

「なんでっ⁉︎ なんで母さんを撃ったの⁉︎」

 それは、本当に十四歳という当時の少女には理解が追いつかない出来事だった。

 突然、銃口から飛び出したその鉛玉は母親の腹部を五発ほど連続して撃ち抜き、気がつけばもう手遅れの状態だった。メムが初めて人が撃たれるという光景を目の当たりにするなら父親になど掴みかからず、一縷の望みにかけて母親の元に走っていただろう。

 が、人の死というものを何度も見てきているからこそ、母親が置かれている状況が明確に理解できてしまった。つまり、それはもう手遅れだった。完全に生の欠片がなかったのだ。

 楽しく、食事をしていたはずだ。

 ギャングといっても、父親は『rk』という組織の頂点に君臨するよな人物だし、滅多に自分が直接抗争に巻き込まれることなんてない。だから、メムも母親もギャングという危うい立場に居座って生活していても別段、身の危険を感じることなんてなかった。

 だけど、その平和が近しい人物に破られた。それが自分の父親だった。

 どんな理由があれ、関係なかった。起こされた事象がただただ彼女の幼い心を侵食して蝕んでくる。起きてしまったことは変えられない、なんて言葉があるが、この時だけはこの世界の摂理が変化して母親を生き返らせて欲しいとそう願った。

 だが、それは叶わない。

 理由も知らされずに、三人の平和を破って父親が母親を殺した。


 それが彼女が離反した理由だ。同時に『rk』というギャング組織(ファミリー)を潰したいと願う理由だ。

 そして確認したかった。

 なぜ母親があの場で、父親の手で殺されなければならなかったのか。

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