最終話 そして僕らは作り続ける

 展示会は何事もなく終わった。

 当日、見事に展示室と化した部室にはちらほらお客さんが訪れる程度で、心配される様な展示物への悪戯、破損等の事件は起こらなかった。正直僕は、展示会が終わってからほっと胸を撫で下ろしていた。

 1%でも可能性があるなら、少しでも想定できるなら、それは十分に起こりえる事だからだ。

 だから、当日はのんびりといつも通り、部室全体を眺められる場所で製作しつつ、それとなく監視していたわけなのだけれど、何事も無くて本当に良かったと思う。

 趣味で作っているとはいえ、いや、だからこそ全ての製作物(一次二次問わず)は、製作者にとってかけがえのない、魂そのものだからだ。故意ならばもちろん許せないが、不本意だったとしても、お互い悲しい気持ちになる。

 そんなこんなを考えながら、今日も僕は制作を続けている。

 変わり映えしない、かけがえのない時間。

 ランナーにカッターの刃をあて、パーツを切り離している時、声を変えられた。


「青島君、ちょっと手伝って」


 部室の外、ドアの入口から楽月部長が手招きしている。しかし本当に小さいな、部長。あの小ささのどこに研究会を引っ張っていくだけのパワーが出てるんだろう。


「何ですか部長……うわっ」


 思わず声を上げてしまった。

 部長の周囲余すところなく、紙袋が並んでいる。


「ウチの卒業制作、その部材や!」


 いや、めっちゃ紙袋だらけなんですけど。


「うん、手伝います、手伝いますけど……」


 紙袋を手に取りつつ、どうやって運んだんですか、というセリフはなぜか飲み込んだ。

 一人で運べる量なのか、これ?

 いつも思うんだけど、本当にどっから出てるんだ、そのパワー。

 だけどなんとなく解る気がする。

 趣味にかけるパワーって、自分でもわからないところから、無限に湧き出てくるって事。


「あ、そうだ青島君。次の部長、君やから」

「え!?」


 あやうく紙袋を取り落としそうになってしまった。いや超展開すぎるだろ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ランナーに刃をはわせ、モデルに筆を走らせる(仮題) @J_A

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ