6/6 シンデレラ曲線、ミステリーとサスペンスの違い

 このほかにもシンデレラ曲線と呼ばれる構成法もあります。


 主人公の心情が、物語の進行によってどう変化していくかを主軸に据えた手法です。


 シンデレラは最初、不幸な状態から始まり、ガラスの靴を履いて舞踏会に行くことで幸福になり、しかし十二時に魔法が消えることでまた不幸な状態に戻ります。


 が、最後には王子様がガラスの靴で自身を見つけて幸福な状態になる――これを視覚化したもので、本来は図で描かれるのですが、面倒なので省略します。


 ネットで検索すれば出てきますから要らないでしょう。


 あるいはもっとシンプルにミステリーとサスペンスの効果から考える方法もあります。デイヴィッド・ロッジは『小説の技巧』において、「サスペンス」の項目でこう解説しています。


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 小説は物語であり、物語は、その媒体が――言葉、映画、コマ漫画、その他――いかなるものであれ、受け手の頭の中に疑問を呼び起こし、答えの提示を遅らせることで関心を引きつけておこうとする。その疑問というのは、(誰がやったんだ?というような)原因に関するものと(次にどうなる?というような)経緯に関するものとの二種類に大別されるが、それぞれ古典的な探偵小説や冒険小説にきわめて明確な形で現われる。サスペンスは、特に冒険小説、およびスリラーの名で呼ばれる、探偵小説と冒険小説を混ぜ合わせたような読み物と結び付けられることの多い文学的効果である。

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 ロッジは「ミステリー」の項目で「サスペンスの効果(次にどうなる?)」と「謎あるいはミステリーの効果(どうやってやった?)」について、「これら二種類の疑問は物語の面白さの源泉であり、まさに『おはなし』の歴史とともにあると言ってもいい」と述べています。


 物語を構築する際、この両者の効果について最優先で考えてみるのも手でしょう。


 優れた小説はサスペンスとミステリーの両方の効果を含むとは言いますが、そうはいってもジャンルによってはどちらかがメインになります。


 ロッジが指摘するように冒険小説やスリラーと呼ばれるジャンルでは「サスペンス」の効果が主軸に据えられますし、一方で推理小説あるいは探偵小説と呼ばれるジャンルならもちろん「ミステリー」の効果です。


 自身の小説が「サスペンス」と「ミステリー」、いずれの効果を重視して組み立てられているのかを考え、そこから物語を作るのも手です。



 ここまで物語の構成法についてあれこれと書いてきましたが、あえて構成を考えず、気の向くままに書いてみるのも一法です。


 ちょっとどこで読んだのかわからなくて、うろ覚えの知識になってしまいますが、谷崎潤一郎や吉川英治、池波正太郎などはプロットを作らず、思いつくままに書いていたと言います。


 むろん物語を自分なりに構成して、最高だと思う形に仕上げてみるのも良いでしょう。


 どのような構成法を用いるにせよ、あるいは用いないにせよ、結局のところ作者が一番よいと思う形に作る以外にありません。


 どういう構成が素晴らしいかは作者次第であり、そこに作品の個性が表れると言えます。


 様々な構成法は、作者が一番よいと思う物語を作るための方便なのだと言えるでしょう。(了)

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