5/6 起承転結について

 また、これは起承転結の場合も同様です。


 もともとは漢詩の絶句について述べたものであり、それをストーリーの構成にまで応用したのが起承転結です。本来の意味は、石川忠久『漢詩への招待』での説明がわかりやすいでしょう。


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 四句から成る、最短の詩形です。第一句、詠い起こし(起句ともいう)、第二句、受けて発展させ(承句)、第三句、場面を転換し(転句)、第四句、全体を結ぶ(結句)と、四句を構成する法、「起承転結」の法が自然に定まりました。このうち、とくに転句のはたらきが重要です。短い詩の場合、四句が同じように並んでいては、平板になってしまいます。転句の場面転換でアクセントをつけるのです。

 孟浩然の「春暁」(二〇〇ページ)を例にとってみましょう。

(起)春眠 暁を覚えず

(承)処々 啼鳥を聞く

(転)夜来 風雨の声

(結)花落つること 知んぬ 多少ぞ

 まず春の眠りは気持ちがよく、朝になったのも気がつかない、と詠い起こし、それを承けて、あちらでもこちらでも鳥の鳴く声が聞こえてくる、と春の朝の明るい気分を発展させます。ところが、転句では、ゆうべの吹き降りを回想し、明るい春の朝の場面から、夜の暗い場面へと転換します。そして、ゆうべの吹き降りによって、今朝の庭ではどれほど花びらが散っていることやら、と想像して結びますが、読者の眼前には、水に濡れた花びらが庭にいっぱい散りしいて朝日を浴びていよいよ赤い様子が印象づけられます。むせ返るような春のムードがたちこめる心地です。もし転句のところも春の朝の明るい情景描写であったら、平板になってしまい、結句の鮮やかさが際立たないでしょう。転句が暗いからこそ、引き立つというものです。

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 これをストーリー構成に転用したものが起承転結です。三幕構成で言うなら「起」は第一幕の設定に当たり、「承」は第二幕の展開、そして「結」が第三幕の解決に当たると言えます。


 では「転」とは何かという話ですが、これは言ってしまえば物語上のどんでん返しを指すものだと言えます。


 実際、「起承転結」は「起承転転転結」でもよいなどと言われることがあります。


 たとえば例示した「少年が魔王を倒す物語」の場合、素直に魔王との激突を描くのが三幕構成で、起承転結においては「転」の部分で「実は人間の国が魔族の領土を侵略し、非道な虐殺を行なっていた。魔王は自国民を守るために戦っていたのだ」という事実を出して、最終的に魔王ではなく国王を倒すことで世界を平和にするというどんでん返し構成が一例だと言えます。


 ここにさらに「転」を追加して、「国王の背後には神がいて、自分に従わない魔族を皆殺しにしようと企んでいた」などとすれば、話はどんどん違う方向に転がっていきます。


 むろん、あまりやり過ぎては物語がめちゃくちゃになってしまいますから、程々のところでやめる必要があります。


 こういった部分は、基本的に三幕構成でも起承転結でも変わりません。


 起承転結では常にどのようなどんでん返しを何度行なうべきか? といったことが問われ、これが正解だというものもありません。


 あまりにも突拍子のないどんでん返しだと読者がついていけませんし、かといってありがちだとインパクトが薄いものになってしまいます。


 突き詰めれば作者のセンス次第であり、作者が一番いいと思うものを選ばなければならないわけです。

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