3/6 三幕構成とは何か

 さて、物語論とは別に、映画分野から誕生した理論として三幕構成があって、そちらでもプロットという単語は使われています。


 厳密に言えば理論化されたのが最近(一九七九年、シド・フィールドによって理論化された)というだけであって、映画以前(ソポクレスなどのギリシア悲劇の時代)から三幕構成はあったと『ハリウッド・リライティング・バイブル』のリンダ・シガーは述べています。


 実際、アリストテレースは『詩学』の第七章で「さて、全体とは、初めと中間と終わりをもつものである」と言っていますし(引用は岩波文庫)、日本にも序破急という全体を三つに分割する概念が存在しているわけですから、そうおかしな話でもありません。


 なお、日本では起承転結がストーリーの構成としてよく出てきますが、これは少々独特です。


 詳しくは後述しますが、単なる四幕構成ともちょっと違っている上にあまり世界でも知られていない――というより世界的には三幕構成が主流で、起承転結は事実上、日本でしか使われていないらしいので、日本独特の構成法なのかもしれません。


 三幕構成はその名のとおり全体を三つに分割しますが、全体を三等分するわけではありません。


 二時間映画なら第一幕は三十分、第二幕は六十分、第三幕は三十分が適正だと言われています。つまり、分量としては1:2:1を基本とします。


 最初の第一幕は設定、次の第二幕は展開あるいは対立や葛藤、そして第三幕は解決を行ないます。


 すなわち状況が設定されて、そこから対立や葛藤などの展開が起こり、なんらかの解決を見るというのが基本形です。


 実際はさらに細かく分けられていて、たとえば第一幕では最初にセットアップと呼ばれるものを行ないます。


 主要なキャラクターを紹介し、舞台を紹介し、物語のきっかけ(カタリストと呼ばれます)を行ない、セントラル・クエスチョン(主人公の目的あるいは解決すべき問題)を設定し、そして何についてのストーリーなのかを映画が始まって十分から十五分以内に示します。


 たとえば、平凡な村の少年が伝説の聖剣を抜いたとします。


 聖剣の使い手となったことで勇者に任命されたとすれば、人々は「少年が勇者になって魔王を倒す物語」だと思うでしょう。これが物語のきっかけであり、「魔王討伐」が主人公に課せられた目的になるわけです。


 セットアップでは作品の舞台がどういうところで、主人公が誰で、主人公を取り巻く状況がどういったものなのかを提示します。


 そして、セットアップが終わると、第一ターニングポイント(プロットポイントとも呼びます)にむかって第一幕を展開させていきます。


 ターニングポイントは主人公が決断を下したり、危険な目にあったり、なんらかの行動をしたりすることでストーリーを新しい方向へと進めるものです。


 通常、第一幕の終わりと第二幕の終わりに必ずあって、それぞれ第一ダーニングポイント、第二ターニングポイントなどと呼ばれます。


 ただし、シド・フィールドによればターニングポイントは二つだけではなく、二時間映画なら十から十五個程度はあるとしています。


 つまり、第一幕と第二幕の終わりに必ず入れておくことで物語の構成がしっかりするというだけで、ほかの部分にも必要に応じて作らなければならないわけです。


 また、第二幕の場合、ミッドポイントと呼ばれるものもあります。


 その名の通り、第二幕の真ん中に置かれ、長い第二幕を前半と後半に分割します。が、これは必ずあるとは限らないとされます。


 第一幕は設定、第二幕は展開、第三幕は解決ですから、上述の例ですと、勇者になった少年が魔王と戦う(あるいは戦わざるを得ない)状況をととのえるのが第一幕、少年が魔王と戦うための旅路が第二幕、そして魔王との決着がつくのが第三幕ということになります。


 以上が大雑把な三幕構成の見取り図です。


 ただし、この理論の骨子はメインプロットとサブプロットの扱いにあるといえるでしょう。


 メインプロットとは、作品の中心となるストーリーのことです。例示の物語で言うなら、勇者が魔王を倒すという一連の流れがメインプロットです。

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