第19話 夜のヴァイオリン

-side オーウェン-




「……うっま!!」

「美味しいですね!」

「ええ、これほど脂の乗ったビックボアは、久々に食べます」

『うん!僕も久しぶりにビックボアを食べるけど、やっぱり美味しいね!』



 夜ご飯はトムとレムが、準備をしてくれた。ビッグボアのステーキはお肉がとろけるアンガス牛という感じでとても美味しかった。家から持ってきた料理には、魔境産の野菜で作られた野菜がある。魔境産の野菜といえば、魔化野菜と呼ばれる魔物化した野菜が有名だが、意外と農業も普通に行っているらしい。土に含まれる豊富な魔力で、普通よりも多く大きく、美味しく育つらしいのだ。

 土地も広いため、大規模に農業しているらしいから、価格も安い。流通さえ上手くできれば、王都で流行るのではないか?とも思う。

 実際に、こちらに来てから食べた魔境産の野菜はとても美味しく、俺が今日食べたマリネと呼ばれる肉・魚・野菜等を、酢やレモン汁などからなる漬け汁に浸す料理も、とても美味しかった。



 ♢ ♢ ♢ ♢ ♢



「さて、そろそろ風呂を入って、寝る準備をするか……、[ブロック]!」



 夕飯を食べて、食後の紅茶を飲んでゆっくりした後、俺は簡易的なものではあるが、浴槽とトイレ、洗面台などを人数分整えた。

 テント内にも簡易的なものはあるが、実際に作った方が良いからな。



「……もう驚きませんからね。オーウェン様」

「……?驚かせようと、してないからな」

「もういいです。これだから、天然は……」

「……?」



 トムのこの発言は、よくわからなかったが、気にしないことにした。それから、お風呂に入り、歯も磨き、ホクホクリラックスもしてきた。

 このテントはリオンシュタットに住んでいるとされるドワーフが作ったものなため、単純に機能こそ、俺が追放される前に使っていた魔道具の方が上だが、丈夫さと居心地の良さがとてもいい。間違いなくこちらの方が上だろう。ドワーフと仲良くなったら、ぜひ魔道具作りに協力して欲しいところだ。



『ねえ、主人』

「なんだ?」

『僕、寝る前に、主人のヴァイオリンが聴きたい』

「おお、いいアイディアだな」

『やった!』



 色々寝る準備をしたが、まだ寝る時間には早く、どうしようか迷っていると、シルフがヴァイオリンを弾いて欲しいと言ってきた。

 ヴァイオリンの音色は心を落ち着かせ、リラックスさせる効果があるとされているからちょうどいいな。

 ちなみに、ヴァイオリンの音色を聞くと落ち着くとされる理由は、高音域の音色が心を落ち着かせるからだと考えられている。

 ヴァイオリンの音色は、人間の声の音域に近いため、心地よく感じやすいと言われているのだ。また、高音域の音色は、脳のα波を活性化させる効果があるといわれており、リラックス状態を促すと考えられている。



 というわけで、子守唄のような感覚で、心地の良い曲を弾くとしよう。どうせだったら、名前に子守唄がついている曲、「ブラームスの子守唄」なんてどうだろうか?

 そう思って、いつも通り[ヴァイオリン召喚]をして、弾き始めようとする。



『ねえ、さっき思ったんだけどさ』

「ん?」

『思ったんだが、空間魔法が使えるなら、無駄にヴァイオリン召喚なんてしなくても、亜空間の中にしまっておけば、よくない?』

「……シルフ」

『なに?』

「…………。雰囲気って、大事だろう?」

『お前……、気づいてなかったな。絶対』

「ぐはっ……!」



 完全に盲点をつかれた俺は、恥ずかしさを隠すように、ヴァイオリンを弾き始め、ニヤニヤ聞いていたシルフが無事にスヤスヤ眠った後に、爆睡したのだった。



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